ピックアップロボットや、無人搬送機が人間とともに働く、アマゾンのフルフィルメントセンターの様子。こうした自動化の風景は日本でも増えるかもしれない。
REUTERS/Clodagh Kilcoyne
ECシフトで需要が爆発する物流業界はどう変わっていくのか? 物流を担う事業者の投資戦略が垣間見えるレポートを、事業不動産サービス大手のCBREが取りまとめた。
CBREのレポート「物流施設利用に関するテナント調査2021」では、国内で物流施設を利用する企業239社(物流170社、荷主69社)を対象に、今後の見通しと、投資分野などの回答を集計している。
このレポートには、とりわけ興味深い回答が3点ある。
働く場所としての「倉庫」にもDXと快適性を
コロナを経て、Eコマース(EC)の需要が様変わりしたことは、これまでも各種の調査や、森永氏のコラムなどでもお伝えしてきたとおりだ。JCB消費NOWの消費指数でも、2020年1年間を通してEC分野は20%以上のびた。
後述するが、基本的に物流企業は倉庫面積を「拡大」させると答えていて、減少すると回答した企業はゼロ。迷うことのない拡大路線をとっている。
そんな需要拡大局面で、今後の「倉庫の要件の変化」として、回答者が最も増加すると見込んでいるのは「空調付き施設の需要」、つまり快適な倉庫へのさらなるシフトだった。
一番下の「空調付き施設の需要」が大きくなると答えた企業が最多になった。
出典:CBRE「物流施設利用に関するテナント調査2021」より
CBREはレポートのなかで「物流業界では、倉庫内作業が増えるにしたがって、雇用確保が重要な課題になっており、いわば従業員ファーストの姿勢が鮮明となっている」と業界の状況を伝えている。
人的労働力が必要な多くの産業が抱える「働き手不足」。
夏場に暑く、冬場には寒い、という物流設備の労働環境も、業界の危機感が後押しして変化していることがうかがえる。
今後3年の「拡大路線」は荷主より物流企業が積極的
物流企業と荷主企業では、倉庫面積の拡大路線に明確な温度差がある(赤線部分は編集部が追加)。
出典:CBRE「物流施設利用に関するテナント調査2021」より
消費のECシフトによって、物流の需要拡大は著しいが、どの程度の拡大戦略を検討しているのか。CBREの調査では、荷主と物流企業とで、拡大路線への意識差があることも見えてくる。
倉庫面積を10%以上拡大すると答えたのは、物流企業で37%に達したのに対し、荷主企業は17%にとどまった。
今後3年間の事業環境についての質問では全体の64%が「大幅、またはある程度改善」と回答していることから見ると、ひとくちに物流にかかわる企業といえども、業種ごとの温度差がある。
物流の「機械化・自動化」への意識は高い
需要増、それに対応する雇用の確保、働き手に来てもらうための設備の快適化も……となると、並行して考えるべきは「人件費の削減」であることは、誰しも頭に思い浮かぶところだ。
「今後3年間に優先または重視する施策」の質問では、そのストレートな回答が結果に現れた。
今後3年間で優先または重視する施策で、もっとも回答を集めたのは「機械化・自動化設備の導入」だった。
出典:CBRE「物流施設利用に関するテナント調査2021」より
施策として3つの候補を選べる回答のうち、最も回答を集めたのは「機械化・自動化設備の導入」(64%)だった。全体として「新規の物流拠点開設、面積の拡大・拡張」(61%)よりも高い結果だったことは、業界全体でも自動化を推し進めることが共通課題と認識されているということになる。
実際、今後3年のテクノロジーの採用予定について聞いた質問では、無人搬送機(AGV)の導入が最多、次いでIoT(RFIDタグ、各種センター)となった。これらテクノロジーの利用による変化(効果)として、「倉庫内の作業員が減る」と回答した事業者は74%にのぼった。
(文・伊藤有)