撮影:今村拓馬
政府の「骨太の方針」(経済財政運営の基本方針)にも盛り込まれた「選択的週休3日制」。休みが増えるのだから、誰もが喜ぶ制度……とも思えるが、現実はそうは行かない。
大企業を中心に、柔軟な働き方ができる制度としてすでに導入されている例もあるが、実際に利用している社員は少ないのが実態だ。
週休3日を導入している企業で働く社員や、実際に週休3日で働いたことのある経験者の話から、週休3日の現在地を探った。
副業はしたいけれど、減給には耐えられない
「給与が減るのは大問題。周りに週休3日を選んだ同期や先輩はいないし、使いにくい雰囲気もあります。もしも、週休3日を選んだら評価に響くのではという心配もあります」
「選択的週休3日制」を2020年から導入している大手日系企業で働く、入社3年目のAさん(25歳男性)は、制度を使う予定はないという。
そしてAさんが週休3日を避ける1番の理由は、収入減少だ。Aさんの企業では、週休3日を選ぶと、その分、基本給が2割減る。
「まだ入社3年目で手取りはすごく少ない。先日、上司と面談があったのですが、今年の月給は、昨年と比べて数千円上がっただけ。この収入からさらに2割減るのは考えられない」
ただAさんは、会社が選択的週休3日制を導入し、副業が推進されたことは評価している。
「この企業でずっと働きたいとは思っていないので、会社として副業を後押しているのは大きな進歩。『週休3日は人件費の削減が目的だ』という心配の声もありますが、巨大組織の体質を変えるという意味では、期待もしています」
リモートワークで存在感さらに薄まる
週休3日制について「実際には使えない。PRに過ぎないのでは」という声も。
撮影:今村拓馬
「週休3日の制度は知っていたけれど、使っている人は誰もいなかった。ミーティングが毎日あったので、現実的に週休3日で働くのは難しい」
2年前まで、週休3日を選べる大手IT企業に約5年間勤めていたSさん(40代男性)はそう話す。
Sさんは現在、別のIT企業で働くが、週休3日制度については「得意のPR戦略の一環だったのでは」と制度への評価は手厳しい。
別のIT企業の30代の女性社員も、自社の週休3日制について次のように説明した。
「実際には介護や育児のために利用されている制度。ただ今は、リモートワークが普及したことで、子育てと仕事との両立がしやすくなっている。その意味では、さらに存在感のない制度になっています」
週4日の勤務「忙しすぎて、記憶がない」
本業を週4日勤務にして、週の1日をスキルアップに当てる生活はどんなものなのか?
現在メディア企業で勤務するTさん(40代女性)は、「実際にやってみると過酷だった。忙しすぎて当時の記憶がないくらい」と振り返る。
Tさんは約15年勤務した前職から、現在の企業に転職する際、半年間は週4日での勤務にした。
転職先の企業では、新規事業の立ち上げを担当。週1日は国家資格を取得するため講座の受講に充てていた。
「新規事業立ち上げという時期もあって仕事はキリがなく、結局私もほぼ5日分の仕事を4日でこなすことになりました。『休み』のはずの資格のための講義と講義の間の休憩時間でさえ、仕事をすることも。子どもがまだ小さかったこともあって、息をつく間もない感じでした」
仮に週休3日を選べる環境にあったとしても、Tさんのように仕事量の調整がつかない場合、負荷が大きくなるリスクもあるわけだ。
給与変わらない週休3日とは?
休みが増えたからと言って「スキルアップ」に結びつくとは限らないという声も。
「土日の休みにプラスすれば、簡単に連休を取れるようになり、旅行にいく社員が増えました」
人材関連企業で働く30代のYさんも、増えた休日は旅行などに充てている。
「休みが増えたからといって、急に学び始めるようになったり、副業を始めたりすることはないんじゃないか。休日とスキルアップは必ずしも結びつかないと思います。
ただ、会社として副業を強く推進をしていて、かつ時間的な余裕もできたので、挑戦しようという気にはなっています」
リクルートワークス研究所が2018年1月に実施した全国就業実態パネル調査では、労働時間の変化と学習の関係を調べた。
週の労働時間が減った場合を見ても、学習を始めた人の割合は増えていないことが分かる。
出典:リクルートワークス研究所『Works Report2018』
その結果、労働時間が減った場合でも、逆に労働時間が増えた場合でも、学習を始める人の割合に大きな違いはなかった。
スキルアップを目指した学びのためには、企業側は週休3日を導入するだけでは十分ではなさそうだ。
保活にも影響、現状が追いついていない
他にも週休3日については、「保育園に子どもが入りにくくなる」という声もある。
特に都心では、子どもを保育園に入れるための「保活」が必要になるが、週休4日では条件が不利になるケースも。
例えば、利用基準指数(点数の合計が高い方が優先して入園できる点数)は世田谷区の場合、「週5日以上勤務し、かつ、週40時間以上の就労」ならば50点だが、「週4日以上勤務し、かつ、週35時間以上の就労」ならば40点になってしまう。週休3日のような柔軟な働き方が、現状の保活では想定されていないという問題もある。
週4日勤務「別のスイッチ」に
週休3日に挑戦し、「精神的なゆとりになった」というケースもある。
撮影:今村拓馬
もちろんネガティブな事例ばかりではない。
週休3日で副業に挑戦したことで、本業の生産性が上がったという人もいる。現在、IT企業に勤務するNさん(36歳女性)は、前職の人材関連企業で約半年間、週休3日で働いた経験がある。
「子育てをしながら週5日勤務をしていたのですが、このままこの会社で働き続けるというイメージが持てず、副業を考えていました」
金曜も休日の週休3日になり、基本給は1~2割減少。ただ休みになった金曜日には、企業広報に関する副業をすることで、トータルの収入は変わらなかったという。
「週5日本業だけをしていると、ずっとその仕事のことばかり考えます。それが週1日を副業に充てたら、金曜からはまた別のスイッチが入る感覚になりました。本業の仕事を木曜日までに終わらせないといけなくなり、結果的には効率があがった。精神的な余裕ができて週末には映画や美術館など、趣味に使える時間も増えました」
(文・横山耕太郎)