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日銀は気候変動対策に貢献できる?欧州のブームに乗って「環境オペ」導入でいいのか

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日本銀行本店本館。気候変動問題への取り組みは世界的なテーマだが、さて、中央銀行に何ができるのか?

Takashi Images/Shutterstock.com

6月18日に開かれた日銀金融政策決定会合が、気候変動対応にかかる金融機関の投融資を後押しする新たな資金供給策(以下、環境オペ)の導入を検討していること、そうした日銀の政策決定に「欧州の潮流」が影響を与えた可能性があることを、前回記事で指摘した。

具体的には、これまで金融政策は気候変動対応と距離をおくべきとの立場だったドイツ連邦銀行のバイトマン総裁が、国際会議で従前の主張を翻し、

「気候変動関連のリスクに関し、中央銀行は透明性を高めるためのカタリスト(触媒)であるという姿勢を持つことで、ユーロシステム(=ECBおよびユーロ圏の中央銀行)の責務を過剰に拡大せず、気候変動と戦うことができる」

と、気候変動問題に対する中央銀行のあり方をポジティブに語った。

バイトマン総裁は会議を主催した国際決済銀行(BIS)の議長を兼務しており、その立場がさせた発言という面はあると思われる。しかし一方で、気候変動問題をめぐる欧州の現在の空気を踏まえれば、“宗旨替え”した可能性も否定できない。

環境オペ導入の「現実的な理由」

さて、そうした欧州の状況に目をやった上で、日銀の環境オペ導入をどう評価すべきかを考えてみたい。

日銀の決定の背後にある「現実的な」理由としては、かなり専門的な話になってしまうが、いま動いている新型コロナ対応の資金供給策(=コロナ対応特別オペ)が2022年3月末で期限切れとなるため、その後継スキームが足もとで必要とされていたことがあげられる。

日銀は3月の政策点検で「貸出促進付利制度」を創設し、コロナ対応特別オペを対象に、制度のなかで最大となるプラス0.2%の付利(=貸出インセンティブ)を与えてきた。4月時点で残高は4兆円を超える。

コロナ対応特別オペの残高が期限切れでまるごとなくなってしまうと、この制度が早くも機能不全に陥ってしまう。グローバルスタンダードを謳(うた)える環境オペは、そこを埋め合わせる方策として申し分なく、日銀にとって文字通り「渡りに船」だったわけだ。

しかし、物価と金融システムの安定を本来的な役割とする日銀が、気候変動問題に関与することについては、やはり議論が必要だろう。

筆者の考えから述べるなら、中央銀行が気候変動対策として意味のある政策を本当に実行できるのか、どうにも確信を持てない。

過去のBusiness Insider Japan寄稿でも書いたことだが、(1)中央銀行にとって適切な役割と言えるのか、(2)そもそも何かできることはあるのか、という2点が引っかかる。

もちろん、気候変動対応は世界のどの国・地域にとっても不可避の潮流だ。

だが、そうだからといって、中央銀行が関与すべきかどうかという論点に無頓着(むとんちゃく)でいいとは思わない。ネガティブに響くかもしれないが、中央銀行が関与することに何か意味があるのか、という見方も大事だと思う。

欧州に端を発して世界を支配しつつある現在の空気からは、有無を言わせず、関与することに意味があるという圧力が感じられるが、あらゆる経済主体に気候変動対応への貢献を求めるのは、さすがに乱暴過ぎる

中央銀行の「本来的役割」から考える

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Shutterstock.com

まず、(1)の中央銀行にとって適切な役割と言えるのか、という論点について考えてみたい。

ドイツ連邦銀行のバイトマン総裁が先述の講演で言及したように、「中央銀行と政治の責任の所在に関し、境界線をあいまいにすべきではない」というのは大原則だ。

気候変動に対する政策は、政府部門による税制や規制の変更、補助金の支給などが主な手段となる。民間部門については、企業や個人が社会貢献という大義のもとで自発的に取り組むものだろう。

民間部門の自発的な社会貢献は当然問題ないし、政府部門も選挙を通じて選ばれた政治家が行うのだから問題ない。

一方、中央銀行はそれらとはまったく異なるポジションにいる。

中央銀行の政策運営者は民主的な選挙で選ばれた者ではなく、専門知識や経験を買われた役職者らがその業務にあたっている。だからこそ中央銀行の責務は、物価の安定のような誰が見ても公共の利益になる普遍的な価値に限定されている。

ところが、気候変動問題に貢献するという責務が加われば、経済活動にいままでよりも踏み込むシーンが増えることになる。

中央銀行による気候変動問題への取り組みとしては、現在、民間銀行から受け入れる担保について環境意識の高い企業の社債(グリーンボンド)の評価比率を優遇したり、量的緩和(=社債などの資産買い入れによる市場への資金供給)の対象をグリーンボンドに限定したりすることが想定されている。

そうした政策を実施すれば、企業の資源配分のあり方に中央銀行が介入することになる

極端な話、中央銀行から支援を受けられないという理由で、民間銀行が環境意識の低い企業から積極的に貸し剝がし(=融資資金の回収)を行えば、経営に窮する企業が出てくるかもしれない

中央銀行にそこまで関与する権利があるのか。

また、グリーンボンドを優遇するにあたっては、企業がどのくらい環境に優しいか(あるいは優しくないか)を「定量的に」評価できる尺度が必要になると思われるが、筆者にはいまそうした明確な評価基準が思いあたらない。

ちなみに、量的緩和はそもそも不況時に行われる政策。であれば、景気が回復して量的緩和が必要なくなれば、(気候変動問題への取り組みとしての)グリーンボンドに限定した量的緩和もなくなるのか。

そういうわけにもいくまい。だからと言って、続けられるかと言えば、好況下で量的緩和を継続するのは物価安定目標と矛盾することになるので、おそらく難しい。

結局のところ、そうした面倒な政治判断に巻き込まれないために、中央銀行には独立性が与えられ、物価と金融システムの安定を追求する設計となっているのである。

片手間で関与して中立性に疑義を持たれるくらいなら、最初から関与しないほうがいいという考え方もあるだろう。

「右を見ながら左を見ろ」と言うのに等しい

次に(2)の、中央銀行にそもそも何かできることはあるのかという点について考えてみる。この論点は、中央銀行が取り組んで意味のあることが何かあるのか、と読み替えることもできる。

根本的な疑問として、中央銀行はその「庭先」である物価や景気ですら確実に制御できていないのに、門外漢の気候まで制御することができるのだろうか

また、金融政策は実施から効果の発現までにタイムラグがあり、その測定の仕方についてはさまざまな試みが行われているが、物価や景気への政策の影響を詳(つまび)らかにすることすら難しいのに、気候変動への影響をどう把握できるというのだろうか

経済活動の活発化が温暖化の真の原因だとすれば、大幅な利上げで消費・投資意欲をくじき、実体経済を締め上げるのが最も即効性がある対策だろう。

実際、コロナショックで移動などの経済活動が停滞した結果、大気汚染が改善してそれまで見えなかった山や星空が見えるようになったことが世界中のメディアで報じられている。

それは極論だとしても、景気の安定を狙いながら地球温暖化を止めたいというのは、現実には「右を見ながら左を見ろ」と言っているようなものではないだろうか。

環境オペは範囲や基準の「緩さ」が難しい

日銀が導入を検討している環境オペはまだ仕様が不明であり、最終的な評価は保留したい。ただ、現時点で次のようなことは言えるだろう。

環境オペの範囲や基準にはある程度の「緩さ」を設けないと利用が進まないだろうし、利用が進まなければ、冒頭で紹介した「現実的な理由」である後継スキームとしての役割を果たせないという問題が浮上する。

一方で、範囲や基準の緩さがクローズアップされてしまうと、(気候変動問題への貢献に向けた投融資の後押しというより)金融機関への補助金にすぎないとの批判が全面に出て、やはり中央銀行にできる気候変動問題への貢献策はない、という主張が優勢になるかもしれない。

くり返しになるが、こうした面倒な議論に巻き込まれず、物価の安定に注力するためにも、中央銀行は気候変動問題から一定の距離感を保ったほうがいいと筆者は考える。こうした考え方も、時代遅れの発想になっていくのだろうか?

米連邦準備制度理事会(FRB)は、この気候変動対策の議論について、まだはっきりとしたスタンスを示していない。その挙動も、今後の帰趨(きすう)を決定づけることになりそうだ。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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