アドビは2019年1月に買収したSubstanceのツール群を本格的に自社内に取り込む。
出典:アドビ
アドビは6月23日、新しい3Dツール群「Adobe Substance 3D Collection」を発表した。
Adobe Substance 3D Collectionは、従来のAdobe Creative Cloud(Adobe CC)とは別のクリエイティブ製品で、2019年にアドビが買収したフランスのAllegorithmicが開発した「Substance」をベースとしている。
本日に至るまで、Substanceはアドビの中でも個別のブランドのツールのように扱われてきたが、今回のアップデートで新ツールおよびAdobe CCとの連携機能が搭載されるようになった。
Adobe Substance 3D Collectionに含まれるツールと主な機能は以下の通り。
Adobe Substance 3D Collectionのイメージビデオ。
出典:アドビ
- Substance 3D Painter……3Dモデルに対してマテリアル(色や模様、質感を表現する素材)を当てはめていくツール。「Substance Painter」がベース。
- Substance 3D Designer……3Dモデルやマテリアルをゼロから作成するツール。「Substance Designer」がベース。
- Substance 3D Sampler……画像データなどからマテリアルを作成するツール。「Substance Alchemist」がベース。
- Substance 3D Stager……3Dモデルやマテリアルを読み込み、バーチャルフォトを作れるレンダリングツール。「Adobe Dimension CC」がベース。
- Substance 3D Modeler……粘土細工や彫刻を作るように3Dモデルを作成できるツール。VRヘッドマウントディスプレイを使った表示・編集も可能。発表時点ではプライベートベータ版の位置付け。
- Substance 3D Assets……2200種類以上の3Dモデルと9000種類以上のマテリアルを含むストックサービス。「Substane Source」がベース。
通常価格は、個人版が月額5480円/年額6万980円で、Assetsの月間ダウンロード可能数は50。そのほか、月間アセット数100のグループ版、Stagerを除いた個人向けプラン「Substance 3D Texturing」を月額2180円/年額2万4380円で用意。
Substanceは、3Dモデル業界では標準ツールの1つとして知られており、例えばエンターテイメント領域ではスクウェア・エニックスのゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズ、2019年公開の映画「ターミネーター:ニュー・フェイト」などでも利用されている。
コロナ禍で3D需要が高まり、「もう戻れない」
Substanceを開発したAllegorithmicのCEO兼創設者で、現在はアドビの3D&イマーシブ担当を務めるSébastien Deguy氏。
画像:筆者による取材時のスクリーンショット。
なぜ、アドビは前身のAllegorithmic買収から2年のタイミングで、新製品のリリースに乗り出したのか。
AllegorithmicのCEO兼創設者で、現在はアドビの3D&イマーシブ担当を務めるSébastien Deguy(セバスチャン・ドゥギ)氏は「撮影の現場が、実写から3Dのバーチャルフォトに置き換わり始めている」と、その必要性について話した。
家具を例にした写真の撮影から利用までのワークフロー。
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世界的なパンデミックにより、さまざまな業界が人的・経済的なダメージを受けているが、写真撮影の現場においてもそうだ。特に場所によって、スタジオは密閉されており、人が密集しやすい環境だ。
ドゥギ氏は「実写の場合、それぞれの人の旅費もかかり、パンデミックの状況下では移動の危険性も伴う」と3Dのメリットを話した。また、同氏はその具体的な例として、アメリカのアイスメーカー・Ben&Jerry'sやポルシェ、ルイ・ヴィトンなどの超大手企業を挙げた。
例えば、Stagerを使えばかなり直感的な操作で、高品質なバーチャルフォトを制作できる。
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現在、アメリカや日本を含め、さまざまな国と地域で新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでおり、こうしたバーチャルフォトへのニーズもひと段落するのではないかとも思えるが、ドゥギ氏は「企業からは、3Dに移行すると過去には戻れないという声もある」と強気に答える。
例えば、スウェーデンのIKEAが約10年前から製品カタログに載せる写真の約75%をバーチャルフォトにしていることは、ファンやクリエイターの間では有名な話だ。
3Dのバーチャルフォトは実写に比べて低コストという調査結果。
出典:アドビ
アドビは3D技術を使ったバーチャルフォトの制作コストは、従来の写真撮影と比べて10倍安い、という調査結果も公表している。
ドゥギ氏はこのような3Dでもたらされるコスト削減や効率向上の側面だけではなく、ARやVR、ウェブでのインタラクティブな表現を含む”Immersive Experience(没入型の体験)”に対応できる点が、今後の成長の鍵になると見ている。
個人にも門戸を広げることで新しい機会が生まれる
2021年内は、Substance 3D Texturing以外のプランは20%割引で提供される。
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そんなプロ向けツールの最新バージョンが個人で利用できると考えると、月額5480円はかなり“割安感”があるように思えてくる。
とはいえ、印象として3D系のツールは、それこそアドビのPhotoshopやIllustratorなどの2Dツールに比べて、市民権を得ているとは言いづらく、まだハイアマチュアやセミプロ向けのものでないように感じる部分がある。
Substance 3D Painterの画面。前身の「Substance Painter」に比べて、Adobe CCの製品に見た目や操作感などを寄せている。
出典:アドビ
個々のクリエイターは、この“3D化の波”に乗るべきなのか。
ドゥギ氏は「学生やセミプロ、プロフェッショナル。みんなが連携できるようなエコシステムを構築していく」と答える。
「アセットライブラリー(3D Assetsなどのこと)や学びに必要な環境がそこにあるということは、確実に今より多くの人に“機会”が増えることになる。
3Dの領域に行きたいと思っている大企業では、そうした領域に精通する人材が必要になる。そこでも“機会”が生まれる」
ドゥギ氏は、アドビによる世界最大級のクリエイター向けSNS「Behance(ビハンス)」で、「過去1カ月間で3Dに関するプロジェクトの数が40%成長している」としており、クリエイター個人間でも3Dに関するスキルを向上させたいというニーズが現れ始めている。
アドビとしては、Substance 3D Collectionの提供によって、そうしたニーズへの対応し、新たにクリエイターが活躍できる機会を創出し、自身のビジネスの拡大につなげていきたい方針だ。
(文・小林優多郎)