政権交代ない、バックラッシュ、労働環境……女性候補が増えない理由

国会議事堂

日本の女性議員を増やすためには働き方やハラスメント対策などあらゆる「改革」を並行して進めていく必要がある。

GettyImages/ Tomohiro Ohsumi

政治分野のジェンダーギャップの解消を目指す改正候補者男女均等法(※)が成立した。より多くの女性が政治家を志せるよう、セクハラやマタハラの防止策を政党や国、地方自治体に求めることが明記された一方、女性候補者を増やすための数値目標の義務化は果たせなかった。

女性議員の割合は衆議院で約1割、参議院で2割となかなか増えず、政治分野に占める女性の少なさは、世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数が156カ国中120位(政治分野は147位)と低迷する大きな要因にもなっている。

今回、数値目標が義務化できなかった背景とは何か。そもそも女性議員を増やすためにはどんな改革が必要なのか。世界各国のクオータ制の実情に詳しい上智大学の三浦まり教授に聞いた。

 候補者男女均等法:男女の候補者数はできる限り「均等」を目指すという基本原則を定めた候補者男女均等法は2018年に施行された。政党には女性候補者の割合の数値目標を設定するよう求めているが、努力義務に止まってきたことから、超党派で作る議員連盟が2020年6月から改正の検討を始めてきた。

なぜハラスメント防止策が必要なのか?

三浦まり教授

世界各国のクオータ制の実情に詳しい上智大学の三浦まり教授。

提供:三浦まり

改正候補者男女均等法に新たに明記されたセクハラ・マタハラ防止策の整備については、女性議員を増やしていくための環境整備として有効だと評価する声は多い。

4月に公表された内閣府の調査では、女性地方議員の約6割が何らかのハラスメントを受けた経験があると答えている。特に選挙で投票するからと有権者がセクハラをする「票ハラスメント」は深刻で、議員活動の継続や立候補の障害となってきた。

「とりわけ地方議会における有権者や女性候補者、議員に対するセクハラが深刻で、妊娠した候補者や議員に対する心ない言葉も多い。さらに匿名性の陰に隠れたネット上での女性議員に対する攻撃も目立ってきています」

三浦さんは現状についてこう話し、ハラスメント防止策が明記されたことを評価する。

「今回法的な基盤ができたことで、各地方議会ごとにハラスメントを防止する政治倫理条例などを整備し、ハラスメントの相談窓口も設けなければならない。人数の少ない町村議会などは人間関係が濃密だったり、政治闘争との境界が見極めにくかったりするなど課題はあります。

ただ、地方公務員については苦情処理のための公平委員会を複数の自治体で共同設置をしているので、それを参考に制度設計すればいいと思います」

数値目標はなぜ盛り込めなかったのか?

国会

国会議員に女性が占める割合は衆議院が10.1%、参議院が20.7%。この少なさがジェンダーギャップ指数120位の大きな要因にもなっている。

GettyImages/ Tomohiro Ohsumi

今回の改正にあたり、超党派の議員連盟は、政党ごとに女性候補者の数値目標を掲げることを義務化しようとしたが、自民党の強い反対に遭い、盛り込めなかった。

そこには小選挙区制度という選挙制度や、自民党が圧倒的な議席数を抱える中で、候補者選定にあたって「現職優先」という壁がある。

このままの状況で、自民党が女性候補者の数値目標を掲げる日は来るのだろうか。

「衆院は小選挙区中心で、自民党など現職議員が多い与党は、候補者を女性に差し替えることはそもそもやりにくい。さらに自民党は候補者の選定に地方組織が大きな権限を持っていて、地方ほど男性が力を握っているという難しさもあります」

ただし、可能性が全くないわけではない。

「しかし、安倍前首相は2年前の参院選の際に『次の選挙では女性候補者を2割にするよう努力したい』と話しています。新人議員の少なくとも半分を女性にするなど、ジリジリとこの目標に近づけることはできるはずですし、有権者も注視していかなければならないと思います」

世界中で導入進むクオータ制。日本での可能性は?

エルナ・ソルベルグ首相

クオータ制を導入しているノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相。

Reuters/Kenzo Tribouillard/Pool

政党ごとの数値目標から一歩進んで、女性議員に一定の議席や候補者を割り当てるのが「クオータ制」だ。すでに世界の国と地域のうち129カ国が導入し、もはや日本を含め導入していない国は少数派だ。

三浦さんによると、クオータ制が世界で広がった背景には、1980年代以降に民主化した国が積極的に取り入れたことがあるという。新しい国づくりの中でジェンダー平等が組み込まれ、憲法や法律に基づいたクオータ制を導入しやすかったという。

日本が導入できていない背景として、保守政党の自民党が長く政権を握り、政権交代が起きにくいこと、2000年代以降に保守勢力によるジェンダーへのバックラッシュが起きたことを挙げる。欧州ではクオータ制は、政権交代によって中道左派政権時に導入されることが多いという。

「日本では立憲民主党など野党が女性有権者にそれほど人気がなく、党幹部の人選を見ても、ジェンダー平等を政策としてうまく訴求できていない。党勢を回復させる戦略として、ジェンダーを主軸に置くべきです」(三浦さん)

という。

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