2016年の開発者会議「Google I/O」に登場した、アルファベットとグーグルのCEO、サンダー・ピチャイ。
Justin Sullivan/Getty Images
- グーグルは、競合企業が行動を起こすまで新製品を伏せておくことがよくあるという。
- グーグルの現役および元幹部が、同社CEOが大きな決断に苦心することが多いと、ニューヨーク・タイムズに語った。
- ある元幹部は、同社のリスク回避が革新に対する障害になっていると、ブログに投稿した。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、グーグル(Google)は社内で「パントリー(貯蔵庫)・モード」と呼ばれる研究開発戦略を取っているという。新製品を作ったとき、競合企業が対抗すべき新製品や類似品を発表するまで、それを伏せておくという。
グーグルは売り上げと利益が急増しているが、同社の現幹部と元幹部はNYTに対し、「パントリー・モード」はサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)CEOが最適なタイミングで重要な決定を下すことに苦心していることに関連していて、同社のリスク回避的な企業文化を表していると述べた。
NYTによると、ピチャイCEOのリーダーシップのスタイルでは、同社の経営陣はピチャイの承認なしで多くの決定を下せる。これを「自分」の欠如と見る従業員もいれば、世間の評判を気にして行動が起こせないと捉える従業員もいるという。
同社広報にコメントを求めたが、回答は得られていない。だがNYTではピチャイのリーダーシップのスタイルについて同社幹部が語っており、社内調査では従業員はピチャイについて高く評価をしているという。
ピチャイの下でグーグルは研究開発費を増やしている
どの製品やサービスに「パントリー・モード」戦略が使われていたかは分からないが、同社はピチャイがCEOに就任して以降、新製品の研究開発に多くの資金を投下してきた。
ピチャイは2015年にCEOを引き継ぎ、それ以来、同社の研究開発費は毎年増加している。グーグルの親会社で、ピチャイが2019年末にCEOに就任したアルファベット(Alphabet)は、2020年の研究開発費に275億7000ドル(約3兆円)を投じている。
グーグルの親会社アルファベットの研究開発費(2013年から2020年まで)
Alphabet/Statista 2021
グーグルは同じ年、Google Play MusicやGoogle Stationなどの多くのサービスを終了し、「Google graveyard(墓場)」と呼ばれるリストに加えた。
これに対して、フェイスブック(Facebook)の研究開発費は184億5000万ドル(約2兆460億円)で、アップル(Apple)はそれよりやや多く187億5000万ドル(約2兆800億円)。大手テック4社では、アマゾン(Amazon)の研究開発費が最も高く、427億ドル(約4兆7000億円)だった。
競合企業の製品を模倣するのはグーグルだけの戦略ではない。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)CEOと同社幹部が、2012年4月にやり取りしたEメールで「模倣は、革新より早い」ことで合意しているのが2020年夏に明らかになった。
フェイスブックは2020年8月、TikTokに対抗して、インスタグラム(Instagram)のリール(Reels)機能を発表した。また、ツイッター(Twitter)のフリート(Fleets)やインスタグラムのストーリー(Stories)など、多くのSNSがスナップチャット(Snapchat)の1日で投稿が消える機能で追随した。
グーグルは企業規模も時価評価額も大きく成長しているが、NYTの記事は、同社が支配的な大企業に共通した懸念に直面していることを明らかにした。動きが遅くなり、物事を安全に進めすぎていないかということだ。
グーグルの元エンジニアリングディレクターのデビッド・ベーカー(David Baker)は、「グーグルが財政面で安定すればするほど、リスク回避するようになってきている」とNYTに語っている。
(翻訳:Makiko Sato、編集:Toshihiko Inoue)