2019年の調査で、開放的なオフィスでは対面の交流が70%も少ないことが分かった。
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- ジェイミー・ダイモンなどのビジネスリーダーは、オフィスで仕事をすることは「アイデアが自然に湧き出る」ためには欠かせないと言う。
- しかし、このような創造性や生産性が向上するという主張の多くは、研究によって裏付けられているわけではない。
- オフィスでの勤務は人によっては障壁になることもあり、2021年5月には70万7000人のホワイトカラーの労働者が仕事を辞めている。
アメリカのCEOたちは、従業員がオフィスに戻ることを望んでいる。
JPモルガン(JPMorgan)のジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)CEOは、リモートワークだと「自然にアイデアが湧き出ることはなく、企業カルチャーにもよくない」と述べている。
高級百貨店チェーン、サックス(Saks)の社長兼CEO、マーク・メトリック(Marc Metrick)は、リモートワークを「企業カルチャーを壊すもの」と呼び、「基本的にはオフィスで仕事をした方がいい」と述べている。
アップル(Apple)のティム・クック(Tim Cook)CEOは「イノベーションは起こそうとして起きるようなものではない」と述べている。
アマゾン(Amazon)は以前、「オフィス中心の文化」を大切にしていると言っていたが、最近ではその態度を軟化させている。
だが、オフィスがイノベーションや生産性といった企業にとって最も重要な部分に役立つということを裏付ける証拠はほとんどない。これまでの研究では、オフィス、特に開放的な造りのオフィスは、経営者が望んでいる種類のコミュニケーションにマイナスの影響を与える可能性があることがわかっている。
ハーバード大学のイーサン・バーンスタイン(Ethan Bernstein)とベン・ウェイバー(Ben Waber)(当時はMIT)が2019年に行った研究によると、半個室型から仕切りのない開放的なオフィスに切り替えた企業では、社員が顔を合わせて交流することが70%減少したという。
2021年6月23日のニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、バーンスタインは、オフィスで従業員は会話をするかもしれないが、それが「組織に役立つことを示すデータはほとんどない」と語っている。
「つまり、オフィスでの偶然の出来事によって生産性が高まることもあるという考えは、おとぎ話に近い」
一方で、COVID-19のパンデミックによって、リモートワークのツールと実践はいっそう強力なものになったと、テック系の投資家のマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)は6月15日のブログで述べている。
「多くのすばらしい仕事が、スクリーンとインターネットを通じてどこからでもできるようになった」と彼は書いている。
「これはおそらく、私が生きている間に起こった最も重要なことだ。インターネットから生じた結果ではあるが、インターネット以上に重要なことかもしれない」
実際、オフィスの利点とされていることは、介護をしている人、少数派のグループ、身体的・知的障害のある人、通勤圏内に住む余裕のある人などにとっては、相殺されたり、利用できなかったりするケースがよくある。
アメリカ労働統計局のデータによると、2021年4月に仕事を辞めたホワイトカラーは過去最高の70万7000人にのぼる。また、マーケティングの専門家の人材ネットワークであるWe Are Rosieのレポートによると、マーケティング担当者の3分の2が、今年中に大幅なキャリアチェンジを計画しており、全員がリモートワークを希望している。
確かに、職場のチームとして信頼関係を築くには、直接会って話をすることが有効なのは間違いない。しかし、オンライン不動産データベースを運営するジロウ(Zillow)、クラウドコンピューティング・サービスを提供するセールスフォース(Salesforce)、自動車メーカーのフォード(Ford)などは、オフィスでの勤務とリモートワークという2つの世界の長所を活かす方法を試していることが、NYTで紹介されている。
「人間はつながりたい、協力し合って働きたいものだと我々は考えている」と、ジロウの最高人事責任者(CPO)であるダン・スポルディング(Dan Spaulding)は言う。
「しかし、それを週に5日行う必要があるのだろうか。3カ月に1回でもいいのではないだろうか」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)