無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


パタゴニアCEOがバイデン大統領に宛てた一通の書簡「うわべだけの環境配慮に終止符を」

kawamura_patagonia_dam_logo

「行動する」アウトドアブランド、パタゴニア。

Shutterstock.com

世界を代表する環境配慮企業、パタゴニア。

アウトドアブランドとしての名声もさることながら、政府との対立も辞さない「行動する」企業としてのスタンスも高く評価される。

2020年には自社商品に「投票してあのクソ野郎を叩き出せ」という過激なメッセージ入りのタグをつけ、世界中で大きな話題になった。クソ野郎はもちろん、いまフロリダにオフィスを構えるあの人物だ。

日本でも2019年7月、参議院議員選挙の投開票当日に国内の直営店全23店舗を臨時閉店し、投票を促したことで大きな反響を呼んだ。

そんなパタゴニアがこの6月、バイデン大統領宛てに一通の書簡を送付した。

「クソ野郎」のような激しい言葉は使われていないが、気候変動問題に真っ向から取り組んできた同社らしい、具体的かつタイムリーな提案が盛り込まれた内容だ。

日本では特段の話題になっていないようなので、以下であらためて紹介しておきたい(小見出しは便宜上、編集部が作成)。

なお、書簡の最後には、法制度の改革などを含む技術的な(バイデン大統領への)要請が3項目にわたって書き込まれているが、その詳細を知りたい人は原文(英語)を参照してほしい。


kawamura_patagonia_dam_CEO

パタゴニア(Patagonia)のライアン・ゲラート最高経営責任者(CEO)。

Patagonia works

拝啓、大統領閣下。

主催した「気候リーダーズ・サミット」の成功、おめでとうございます。

大統領が掲げた温室効果ガス排出量のきわめて厳格な削減目標は、気候危機に対する取り組みを政権の絶対的な優先課題に位置づけるという、歴史的なコミットメントをはっきり示したものと思います。

先ごろ発表された「アメリカ雇用計画」もまた素晴らしい可能性を秘めており、クリーンエネルギーの未来を築いていく上で、おそらくこの時代における最高の機会となるのではないでしょうか。

ただし、この2つの取り組みを推進するに際して、同時に私たちは、ダムや水力発電といったうわべだけの環境配慮(いわゆるグリーンウォッシュ)がはびこる時代に終止符を打つ必要があります

あなたの政権は間違いなく、インフラを単なるレンガやアスファルト、鉄、モルタル以上のものとみなしている。そして私たちはいま、(コロナショックからの)より良い復興を成し遂げ、雇用を創出し、気候変動対策を支援し推し進めるチャンスを迎えている。

そこにダム撤去のための資金を加えることができれば、それらの利益が増幅されるだけでなく、先住民たちの文化やコミュニティを守り、野生生物の個体数を回復することもできるでしょう。

全米に点在するダム9万1457基のうち、75〜90%はすでにその機能を失っており、生態系の健全性を損なうだけの存在になり下がっているとみられます。

データベース「ナショナル・インベントリー・オブ・ダムズ」によれば、全米に存在するダムの30%は高いもしくは重大な危険をもたらす可能性があり、約65%は耐用年数の50年をすでに迎えたか、それに近づいているそうです。

ダムを撤去するコストは、維持するコストよりはるかに安く済む可能性もあります。

ダムは環境に優しくないとの研究成果

ダムは環境に優しいものでも、カーボンニュートラルでもないことを明らかにした科学的研究が増えています。

まず、多くのダムは、貯水池(ダム湖)の底にある植物が嫌気性消化(発酵)によってメタンや二酸化炭素を大気中に放出するため、巨大な温室効果ガス排出源となっています。

また、ダムの気候への直接的な影響は、温室効果ガスの排出にとどまりません。

アメリカに限らず世界中の国や地域で、ダムは炭素を吸収してくれる湿地帯や草原、森林を何百万エーカーも飲み込み、炭素隔離(=二酸化炭素の大気中への排出を抑制する手段)を大きく減らす原因になっています。

貯水池には大量の土砂が流れ込んで堆積するため、沿岸区域や湿地帯では、沿岸部を再生させ水面の上昇を防いでくれるシルト(沈泥)や砂の深刻な不足に悩まされています。

気候変動がこのまま続き、地球の気温が上昇すると、ダムや貯水池がもたらすネガティブな影響はますます大きくなり、ダムの能力も低下していくでしょう。

気温上昇によって、コロンビア川水系では貯水池で滞留した水が温められ、何十万匹ものサケが死んでいます。また、温暖化によって貯水池からの蒸発量が増え、ダムの貯水機能も危機にさらされています。

さらに、異常気象の増加にともない、老朽化したダム関連インフラのリスク管理も難しくなっていくでしょう。

私たちがカリフォルニア州で経験したような壊滅的な山火事のあとには、嵐や洪水、土石流が発生し、それによってダムはより早く土砂で満たされ、貯水・発電能力の低下を招くことになります。

ダム撤去で得られる利益はこんなにある

kawamura_patagonia_dam_Matilija

米カリフォルニア州ベンチュラの北にある、老朽化して機能を失ったマティリヤ・ダム。

Shutterstock.com

こうした現実を踏まえると、これから先、ダム関連インフラに投資することのコスト・ベネフィット(費用便益)を精査する必要があると思われます。

反対に、ダムを撤去することで得られる、気候変動問題に関する直接的なメリットはたくさんあるのです。

ダムを撤去すれば、貯水湖の底に沈んだ湿地帯、森林、草地を炭素吸収源として再生させるチャンスが生まれます。

また、温暖化による海面上昇の問題にもダム撤去は寄与します。

21世紀末までに海面が3〜6フィート(約90〜180センチ)上昇すると予想されるなか、世界各地の沿岸部では海岸線を保護しようとさまざまな方策が検討されていますが、それらはいずれも地元自治体の財布に大きな負担を強いることになるでしょう。

ところが、パタゴニアが本拠を置くカリフォルニア州ベンチュラを例にとれば、北に20キロほど離れたマティリヤ・ダムを撤去して、貯水池に溜まっていた砂や堆積物を放出することで、切迫した必要性の指摘される沿岸部に砂を補充し、進みゆく侵食から海岸線を守ることができます。

最近の例では、ワシントン州エルホワ川のダム2基を撤去したところ、貯水湖から放出された土砂によって河口のデルタが再生し、新たに100エーカー(約40万平方メートル)ほどの土地が海岸に誕生しました。

ダムの撤去は、温室効果ガス排出量の抑制、炭素吸収源の復活、レジリエンス(回復力、強靭さ)の向上に役立つだけではありません。

国や地域コミュニティがコストフルなダムのメンテナンスや改修に金をかける必要がなくなれば、風力発電や太陽光発電、蓄電池、地下水の涵養、帯水層での二酸化炭素貯留など、真に再生可能でクリーンなエネルギーおよび水資源ソリューションに資金を投じることが可能になるのです。

そうすることで、生態系もコミュニティも大きな利益を享受することができます。例えば、絶滅の危機に瀕したタイヘイヨウサケやタイセイヨウサケ、さらにはそれらに依存する多くの生物種や地域社会が存続できる可能性を生みだすことになります。

「歴史的な一歩」を踏み出すために

kawamura_patagonia_dam_salmon

釣り人にリリースされる寸前のタイセイヨウサケ(Atlantic Salmon)、絶滅が危惧される。

Shutterstock.com

最後に、あなたの政権が打ち出した「環境正義」にフォーカスした気候変動対策に触発されて、人種や民族にとらわれずさまざまな人たちがダム撤去支持の声をあげていることを特筆しておきたい。

環境正義(environmental justice)……人種や性別、文化的背景、経済的状況などにかかわらず、あらゆる人が気候変動や環境汚染のネガティブな影響から平等に守られるべきとする理念。

ダム撤去は、サケなどの食料資源を回復させるにとどまらず、自然のままの健全な川とのつながりのなかでこそ数千年もの繁栄を続けてきた文化的伝統を守ることにもつながります。

数々の文化遺産や先祖代々暮らしてきた土地がいまもダム湖の底に沈んだままですが、ダム撤去によって回復・復元される例も確実に出てきています。

バイデン大統領。あなたのインフラ投資計画は、人類と地球環境の保護に向けた歴史的な一歩となる可能性があります。

この一世一代のチャンスを生かして、過去の遺物とも言えるダムを取り壊し、いま選択できるなかでより有害性が低く、より効率的なソリューションに投資するのであれば、その可能性はさらに高まるでしょう。

私たちパタゴニアは他の組織や人々と協力して、急速な発展をとげる科学を活用してダムの影響に関する研究を深めつつ、あなたの政権と密接な協業を実現する道を探りたいと考えています。

自然な川の流れ、野生の魚、レジリエントなコミュニティと地域経済。そうしたすべてが共存する未来を可能にする政策を推進するために、私たちにできることがあればぜひ教えてください。

敬具

ライアン・ゲラート(パタゴニア最高経営責任者)

(文・訳責:川村力)

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

あわせて読みたい

新着記事

219021134_827108451309823_1760150731381378736_n(1)

副業ブームの今、大企業を辞めて私があえて専業ライター選ぶ理由

  • りょかち [ライター/コンテンツプランナー]
  • Aug. 04, 2021, 07:10 AM
  • 5,382

Popular