カナダのECプラットフォーム大手Shopify(ショッピファイ)はここ数週間で、複数の大手テック企業と重要な取引を取りまとめた。
まずは6月10日、アメリカでの事業拡大に向けて、米フィンテック企業アファーム(Affirm)と提携して後払いサービス「Shop Pay Installments」を開始。続いて6月15日、GoogleとFacebook上でECを行っている企業であれば、Shopifyの利用者か否かによらず、同社の支払いサービス「Shop Pay」を利用できるようにすると発表した。
さらに、テクノロジー系ニュースサイト「The Information」は6月21日、Shopifyがパブリッシャーと提携してアフィリエイト・プログラムを始めるとの情報もある、と報じた。類似のプログラム同様、提携パブリッシャーの記事に張られたリンクからShopifyのショップが売り上げを計上した場合、収益の一部がパブリッシャーに支払われるというものだ。米BuzzFeed(バズフィード)がすでに参加を決めている。
Amazonはかなり前からパブリッシャー向けのアフィリエイト・プログラムを運営してきたが、Shopifyはこれまで主に、マーチャント(ECストア出店者)には第三者のアプリを使うよう促していた。
このような判断を下すことで、Shopifyはアマゾンに対して、一体どのような勝ち筋を見出しているのだろうか?
自社プラットフォームは弱体化。それでも売り上げはアップ
Shopify幹部によると、そもそもAmazonはマーケットプレイスであり、Shopifyとは直接的な競合関係にないと主張する。Amazonでは多くの出店者が同時に販売するが、Shopifyは事業者自らが競争相手のいないECサイトをつくる「D2C」モデルだからだ。
とはいえ、両社のマーチャント・ベースには重複する部分がある。Shopifyを使えば、Amazonを使う必要もない事業者もいるからだ。そのためShopifyは、顧客がAmazonに流れてしまわないよう、自社の主力サービスをより柔軟にしつつ、幅広い企業にとってさらに魅力的なものにする必要がある。
グッゲンハイム・パートナーズのアナリスト、ケン・ウォンは、GoogleおよびFacebookでのShop Pay導入は特筆すべき点だと指摘する。というのも、Shopifyのプラットフォームを使用していないマーチャントが同社製品を使えるようになるのは、今回が初めてだからだ。
「“敵の敵は味方”という考えが、若干はあると思います。Shopifyは、自分たちが世界のGoogleやFacebookと、ある程度競合していることは認識しています。しかし、Amazonに比べればまだマシな方でしょう」
Shopifyの収益源は主に、プラットフォーム使用料としてマーチャントが定期的に支払う「サブスクリプション料」と、支払いや配送、フルフィルメント、事業資金の調達といった「マーチャント・ソリューションに対する支払い」の2つだ。
ウォンによると、Shopifyは将来的に、同社の収益構成に占めるソーシャルコマース(SNSとECサイトを掛け合わせること)の割合を増やす考えだという。これを実現するために、まずは支払いシステムから手をつけるのは理にかなっている、とウォンは話す。
というのも、どんなECでも販売処理のための支払い技術は必要であり、Shop Payは、幅広い事業が活用できるであろう成熟したプロダクトだからだ。
「Shopifyは自社プラットフォームから離れることで、Shopifyのマーチャントだけでなくどのプラットフォームのマーチャントに対しても、事業の成功に向けたサポートを充実させられるようになります」とウォンは述べる。
みずほアメリカのアナリスト、シティ・パニグラヒによると、こうした提携はShopifyにとって、常に変化する消費動向に寄り添う存在であり続けるのに役立つという。Shopifyのプラットフォームを利用するマーチャントの数は100万以上にのぼるが、消費者に対するブランド力では、ShopifyはAmazonに及ばない。
例えば、消費者はShopifyが提供するサイトでそうと知らずに買い物をする可能性があるが、Amazonではそのようなことは起こらない。またShopifyでは、マーチャントは潜在顧客を取り込みたければ別途マーケティング予算を割かなければならない。
だがGoogleやFacebookと提携することで、Shopifyはマーチャントの露出機会を増やしつつ、自社の総売上高アップを目指すことができる。
パニグラヒは言う。「一番大切なのは結局、パートナーがマーチャントのサイトにどれだけトラフィックをもたらすことができるか。これに尽きますね」
(翻訳・松丸さとみ、編集・野田翔)