スペース・パースペクティブの気球。
スペース・パースペクティブ提供
コロナ禍以前の観光・旅行業は急成長しており、2019年には世界のGDPに9.2兆ドルもの貢献をした。
しかしそれは地球上だけでの話だ。一部の企業は最近、市場規模がすでに大きい観光業の次の目玉になるかもしれないもの——「宇宙旅行」に多くの時間と資金を投じ始めている。
NASAは2019年、国際宇宙ステーション(ISS)を民間企業や民間の宇宙飛行士に開放すると宣言し、「スペースツーリズム(宇宙観光)」という考えを後押しした。これで一般の観光客も宇宙に行けることになる。
この動きにより、宇宙旅行の将来性に並々ならぬ関心を寄せている企業がある。以降では、それらのうち注目の企業4社を紹介しよう。
アクシオム・スペース
「アクシオム・ステーション」モジュール。
アクシオム・スペース提供
2021年1月、米ヒューストンに本社を置くアクシオム・スペース(Axiom Space)は、同社の副社長と3人のツアー客を乗せた宇宙船「ドラゴン」をISSでの8日間の旅へ送る計画だと発表した。
この最初の発表から間もない6月2日、同社はスペースXとのパートナーシップを大幅に刷新すると発表。アクシオム・スペースとスペースXの協働によりISSへ人を運ぶミッションは1度だけでなく、ツアー客を乗せて計4回行う計画だという。4回のミッションのうち、最初のミッションは2022年1月に、続く3回のミッションは2023年に行われることが決まっている。
「アクシオム・ステーション」の内部。
アクシオム・スペース提供
しかしこのパートナーシップは、ただISSを使い続けることが目的なのではない。真の目標は、民間の独立した宇宙ステーションの立ち上げに向けた取り組みだ。
アクシオムはこの民間ステーションの立ち上げを「先発隊ミッション」と呼び、クルーが実際に中で生活して仕事もできる「アクシオム・ステーション」というモジュールを運用開始するための準備を進めている。
同社は後に同モジュールを切り離し、2028年までに独立した民間宇宙ステーションに改造する予定だ。
スペース・パースペクティブ
スペース・パースペクティブのカプセル。
スペース・パースペクティブ提供
アクシオム・スペースより小規模な企業では、短期間で独自の体験ができる宇宙旅行に特化している(ただし、チケット1枚に対し12万5000ドルを上乗せして払える顧客に限られるが)。
アメリカのスタートアップ、スペース・パースペクティブは、一度に8人の搭乗客を「ネプチューン・カプセル」と呼ばれる宇宙船に乗せ、宇宙の端まで弾道飛行を行うことを計画している。
同社の宇宙飛行が特徴的なのは、特別な設計を施したどこした成層圏気球を使って搭乗客用カプセルを高度約19マイル(約30km)まで飛ばす点だ。最初の商業フライトは2024年後半の予定となっている。
ゼロ2インフィニティ
ゼロ2インフィニティのカプセル。
ゼロ2インフィニティ提供
ゼロ2インフィニティも宇宙旅行を提案しているが、同社のプランでは巨大なヘリウム気球を使って宇宙の端に「そっと浮く」ことができるという。
スペース・パースペクティブの提案との主な違いは、高度の上限と1回のフライトの座席数だ。ゼロ2インフィニティは22マイル(約35km)という高い高度を実現するが、収容できるのは最大4人まで。しかし、それ以外の顧客体験は非常によく似ている。つまり美しい景色、飲み物、一生に一度の写真撮影の機会だ。
ゲートウェイ・ファウンデーション
ボイジャー・ステーション内部のレンダリング(完成予想図)。
ゲートウェイ・ファウンデーション提供
今後10年で、宇宙への小旅行は、(米ドルで)6桁(10万ドル)程度の可処分所得がある層にとっては標準的な業態のツアーになる可能性が高い。しかし、宇宙旅行を計画している企業はこれにとどまらず、本格的な「軌道上での休暇」の実現を計画しているところもある。
「軌道上での休暇」はまだ正確に定義されていないが、基本的には地球低軌道(LEO)上に打ち上げられたホテルのような施設に数日間滞在することを指す。
2019年、米カリフォルニア州のゲートウェイ・ファウンデーションは「ボイジャー・ステーション」という名の高級宇宙ホテル計画を発表した。
2027年に開業を予定しているボイジャー・ステーションは、観光客向けの宇宙ホテルとしては人類初の実用化となる。レストラン、イベントホール、別荘、研究所などの設備を備えた24の独立したモジュールで構成されるこの宇宙空間ホテルは、ツアー客に完璧な「軌道上での休暇」を提供する。
このようなホテルは、物理的には模擬微小重力環境(正確に言うと地球の重力の6分の1)を作り出す回転ホイールを設計することによって成り立つ。大型の車輪型ホテルの建設は、主に軌道上で自動化された遠隔制御ロボットを使って行われるため、人間の建設業者に対するリスクはない。ボイジャー・ステーションは、完成すれば宇宙で建設された最大の構造物となるだろう。
低重力下でのアクティビティを提供する「ボイジャー」のジムのレンダリング。
ゲートウェイ・ファウンデーション提供
商用の宇宙ステーションを建設しようとした企業はこれまでにもあったが、失敗に終わっている。宇宙事業は困難を極めることを改めて思い知らされる。おそらくは資金不足が原因で「オーロラ宇宙ステーション」プロジェクトを中止せざるを得なかったオリオン・スパン(Orion Span)はその典型的な例である。
オリオン・スパンのプロジェクトは、当初は2021年に立ち上げて2022年に搭乗客の受け入れを始める予定だった。座席の優先確保のための預かり金8万ドルをオリオン・スパンに渡していた人もいたものの、プロジェクトは失敗。同社の説明によれば、幸い、預かり金は全員に対して全額返金されているという。
宇宙旅行は今後数年間、観光・旅行業の中ではニッチなセクターを形成していく可能性が高いが、成長はし続けると予想される。今後ますます多くの企業が参入して雇用を創出し、業界にさらなる可能性をもたらすにつれて、宇宙旅行ビジネスはやがて主流になるだろう。
しかし、宇宙旅行が富裕層のためだけの一風変わった楽しみ以上のものとなるまでには、取り組むべき重要な課題がまだいくつか残されている。チケット価格も下げる必要があるし、搭乗可能な人数も増やさなければならない。大人数で宇宙へ行くには安全テストも不可欠だ。幸い、これらは時間をかければすべて実現可能である。
いつか地球低軌道への旅行が、ハワイで1週間過ごすのと同じくらい一般的になるかもしれない。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)