外観や操作感が大きく変わった「Windows 11」。ただ、それだけではない。
出典:マイクロソフト
ウワサ通りマイクロソフトの最新デスクトップOS「Windows 11」が発表になった。
既に第一報は掲載しているが、その本質は「Windows 10の正常進化版」と呼べるものであり、「2020年代の進化に合わせた今のWindows」と言っていいものだ。
その狙いはどこにあるのか? マイクロソフトでWindows General Managerを務めるアーロン・ウッドマン氏に、マイクロソフトの考える「Windows 11」とは何かを直撃した。
11も「Windowsはサービス」、変更の理由は「わかりやすさ重視」
マイクロソフトでWindows General Managerを務めるアーロン・ウッドマン氏。
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まずやはり気になるのは、「なぜ、Windows 11なのか」だろう。
ウッドマン氏は次のように解説する。
「Windows 10を発表したとき、私たちが本当に明確にしようとしたことは、市場にWindowsを提供する新しい方法を採用する、ということでした。そして、
その変化は永続的なものです。それは、Windowsを“サービス”とし、その一環として機能とセキュリティーのアップデートを提供することです。
Windows 11はサービスとして提供され、最低システム要件を満たすWindows 10ユーザーには無料で提供されますから、そこは変わっていないのです」(ウッドマン氏)
一方で数字が10から11に変わった理由は別にある。
「重要なのはユーザーにとっての利便性です。
お客様が何か困ったことがあってサポートに電話した時などに、どのバージョンを使用しているのかを簡単に説明できるようにしたかったのです」(ウッドマン氏)
マイクロソフト自身は否定するものの、幾度も「Windows 10は最後のWindowsである」と報じられ、実際そう思っている人も多いだろう。Windows 10は無償で定期的にアップデートしていくものであり、過去のように「メジャーアップデートのたびにOSを買う」ものではなくなる……という意味を指していた。
Windows 10から11へのアップデートは「ずっと無償」であり、そういう意味では変化がない。ただし、Windows 10自体が「最新のものにアップデートして使う」ことを前提としているため、長くアップデートをしていない状態のものからWindows 11へのアップデートはサポートされない。
具体的には、(やや専門的になるが)2019年秋に公開された「バージョン1909」以降である必要がある。とはいえ、個人の場合には「とにかくWindows Updateで最新の状態にしておく」ことで大丈夫だ。
セキュリティー強化のため「TPM2.0」と「セキュアブート」は必須に
すでにWindows 11の動作チェックツールは公開されている。TPM 2.0とセキュアブート対応なら、互換性ありと表示される。どうやらここで引っ掛かっているPCも多いようだ。
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だが、ハードウエアが進化し、OSに求められるものも変わる以上、あるタイミングで「OSがサポートする(動作する)ハードウェア」は変わらざるを得ない。
ハードウェアの条件変更という意味で興味深いのは、「TPM 2.0」と「セキュアブート」の扱いだ。Windows 11をインストールするために、「TPM 2.0」と「セキュアブート」が必須になる。
TPMは暗号処理のためのセキュリティーチップであり、セキュアブートとはPCが起動する際に、不正なソフトが混入しないようにする機能のことだ。
これが企業向けのPCだけでなく、個人向けでも「必須」になった。そのため、CPU性能やメモリーなどは十分なのに「Windows 11を動かす性能を満たしていない」とされることがある。
自作PCなど、ハードウェア構成や環境によってはTPMが有効化できない、またはそもそも搭載していないケースもある。
撮影:小林優多郎
「確かにTPM 2.0とセキュアブートは必須になった」とウッドマン氏はいう。
「品質・性能・セキュリティーをお約束するために本当に必要なものとのバランスを常に考えています。
TPM 2.0は、実際には2016年からWindows 10の一部として搭載が義務付けられています(中国では2018年から)。この機能の存在は、セキュリティーを確実に高めます」(ウッドマン氏)
マルウェアの被害は拡大しており、近年はデータを人質にとる「ランサムウェア」が増えた。そこに対抗するには、PCのセキュリティー自体を確保する要素を増やす必要がある。
マイクロソフトが「必須化」したこともあり、「過去4年間に発売されたPCの多くはTPM 2.0がオンで出荷されている」とウッドマン氏は言う。そうした現状を踏まえての条件変更だ。
ただ現状は、TPMチップがPCに搭載されていても「オフのまま」使われている機種も多い。出荷時からオフだと気づかない人が多いだろう。そうした点は「チェックツールを介して十分な情報を確認できるようにする」(ウッドマン氏)とのことだ。
「Microsoft Storeの強化」はセキュリティーにもプラス
Windows 11でのMicrosoft Store。デザインが変わり、検索が高速化された。だが、変更の最も大きな点は「ビジネスモデル」にある。
出典:マイクロソフト
なお、セキュリティーという面では、アプリストアである「Microsoft Store」の強化も重要だ。
PCでは多くのスマホと違い、各自がウェブからアプリをダウンロードして使う形式が一般的。自由度は高いものの、マルウェア混入のリスクは高かった。ストアからダウンロードできるアプリが増えれば経路が明確になるので、マルウェア混入のリスクは減る。
ただ従来は「配布用にアプリをパッケージ化する作業が必須」「有料アプリの場合、マイクロソフトにストア利用料を取られる」という課題があり、利用は進んでいなかった。
アドビが「自社決済を使ってMicrosoft Storeを使う事業者」の例として紹介された。
出典:マイクロソフト
Windows 11では、特別な作業なしに従来通りのWindowsアプリを配布可能になるほか、ストア利用料の問題も大胆な変更が加えられる。
アプリ利用料金などの決済をマイクロソフトに頼らず「自社で決済する」企業の場合、ストア利用料はなくなり、取り分が販売金額の「100%」になるのだ。
これは、アップルやグーグルなどの「アプリストアモデル」とは大きく違うものだ。
Microsoft Storeという枠組みで他社に入口を貸し出す「メタストア」とでもいうべき構造が実現する。発表ではアドビが利用する企業の例として公開された。
そうすると、PCでアプリを売りたいところも独自流通だけにこだわる必要は減り、Microsoft Storeの利用率を高められる。これはマイクロソフトにとって、セキュリティー上重要であるだけでなく、ストアビジネスの再構築につながる。
アマゾンの他にも「Windows内Androidストア」を模索
AmazonのAndroidアプリストアが用意され、ここからインストールしたAndroidアプリがWindows 11上で動く。
出典:マイクロソフト
そしてもうひとつ、Microsoft Storeに関する驚きのニュースが「Windows 11でAndroidアプリが利用可能になる」ということだ。
これは2つのことから実現されている。
1つ目は、Microsoft Storeに「アマゾン」が入る、ということ。アマゾンは自社のFireタブレットなどのために独自のAndroidアプリストアを持っている。それがMicrosoft Storeの「ストア内ストア」になり、Microsoft Storeから「AmazonのストアにあるAndroidアプリ」をインストールして使えるようになる。
発表会では、フォトアプリ(画像左)とAndroid版のTikTokアプリ(右)を同時に動かす様子が確認できた。
出典:マイクロソフト
2つ目は、Windows 11自体にAndroidアプリを動かす機能が追加される、ということだ。
スマホのほとんどはクアルコムなどの「ARM系」プロセッサーで動いていて、PCのほとんどはインテル・AMDの「x86系」で動いている。しかし、Windows 11ではインテルの技術を使い、同じAndroidアプリが動くようになる。
なお、最近はマイクロソフトの「Surface Pro X」をはじめとした、クアルコム(スマホ向け半導体大手)のARM系プロセッサー「Snapdragon」を使ったPCも増えているが、こちら向けにもWindows 11は提供される。
Androidアプリの互換機能はクアルコム向けWindows 11にも搭載予定だ。
x86とARMでは「Androidアプリを動かすための基盤技術が違う」(ウッドマン氏)という。ただ、表面上違いは見えないので「使う側が違いを意識する必要はない」(同氏)とのことだ。
Androidアプリについて答えるウッドマン氏。
画像:筆者によるスクリーンショット。
そうなると気になるのは、Androidアプリのストアがあくまで「アマゾンのものである」という点だ。
アマゾンのAndroidアプリストアはシェアが決して大きくない。今はゲームを中心にかなりのアプリが揃っているものの、Google Playにあるものがすべて揃っているわけではない。
グーグルを含めた他のAndroidアプリストアとの提携についてたずねると、次のような回答であった。
「公表されていないパートナーシップや可能性についてはコメントを差し控えます。私たちの方向性は、複数のストアと協力して、アプリケーションをWindowsに導入することです。
アマゾンと共同で初のAndroidアプリストアを追加しましたが、これが最後でないことを願っています。お客様が望んでいることを実現するために、可能な限り多くのストアを提供したいと考えています」(ウッドマン氏)
新ユーザーインターフェースは「脳の振る舞い」から決まった
Windows 11の画面。スタートメニューは真ん中にきて、表示もシンプルになった。
出典:マイクロソフト
Windows 11ではユーザーインターフェースも変わっている。一番わかりやすいのは、「スタートボタン」が中央になり、「タイル」と呼ばれた構造がなくなったことだろう。
変更はマイクロソフト社内でのリサーチに基づくものだ。検討にあたっては、脳の働きを調べる「MRI(磁気共鳴画像)」も活用されたという。
「当初はリサーチの際、インタビューで機能の好き・嫌いを訊ねていました。ここ4~5年はインタビュー結果だけでなく、反応を観察した結果を使っています。
例えば『このタスクをやってください』と指示して、どれだけ簡単に完了できるか……といった調査です。
今回私たちが追加したのはMRIによって脳を調べることです。脳がどのように反応するかを見ると、どこで穏やかで、どこで喜びを感じるかといった、相関関係のある情報が得られます」(ウッドマン氏)
その結果として、「行動やインタビューでは発見できない改善点がわかった」という。
「例えば、Windows 10のライブタイルにはたくさんの情報が表示されています。一目でわかる情報が欲しくないわけではありませんが、このような形式では“圧倒”されてしまいます。
そのことを人々はインタビューで“嫌だ”と言わないのですが、MRIで見ると良くない状況であるのがわかります」(ウッドマン氏)
つまり、Windows 11ではより「脳に負担がかからない」操作を目指した、というところだろうか。
来週からテスト用の「Windows Insider Preview」の公開が始まる。そこでは、マイクロソフトが目指した「最適な形」を体験できるだろう。彼らは変更にかなり自信を持っているようだ。
ウッドマン氏はこうもいう。
「Windows Insiderプログラムを行うのは、UIなども含めたフィードバックを得るためなのです。私たちは、みなさんの意見に耳を傾けます。ご意見があればお寄せください」
西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。