ワクチン接種は「リベンジ消費」を誘発するか? 5月の消費動向が語ること

東京都を含む9都道府県に発出されていた緊急事態宣言が20日に解除された。

一部地域は引き続きまん延防止等重点措置の対象となるため、それほど大きな変化は感じないかもしれないが、それでも日常が戻りつつあると感じる瞬間も徐々に増えてくる。

執筆時点(6月21日)の国内におけるワクチンの総接種回数は政府の集計ベースで3000万回を突破した。接種のスピードは上がっており、6月10日から6月20日までの10日間で1000万回以上の接種が実施されている。

ワクチンの接種が進めば国内における行動制約が緩和され、消費が促進されることで経済が力強く回復していく、と期待される。

では、足下では消費の実態に変化の兆しはるのか? 公的な経済統計や現金を含む消費全体を捉えた消費動向指数「JCB消費NOW」を活用して、ワクチン接種が進む中での消費環境を見ていこう。

※JCB消費NOW:JCBグループ会員のうち、匿名加工された約100万会員のクレジットカード決済情報をもとにJCBとナウキャストが算出した消費動向指数。

「強制貯蓄」は消費の源泉になるか?

緊急事態宣言下の映画館

緊急事態宣言下で営業を取りやめていた映画館(2021年5月26日撮影)。

撮影:小林優多郎

コロナ禍の特徴をひと言で表せば「バラバラ」である。通常の不景気とは違い、産業ごとに影響がバラバラであったことが各種経済指標から明らかだ。

社会のオンライン化が進んだことで情報通信業が追い風を受けた一方で、飲食業や宿泊・観光業は前代未聞のダメージを受けた。これは個人でも同じことが言える。

コロナ禍においては非正規雇用者が景気の調整弁として扱われ、貯蓄もない中で職を失い、十分な支援が受けられなかった人たちの中には自ら命を絶ってしまった最悪のケースもある。

一方で、ほとんどの正規雇用者は守られ、経済的なダメージがあったとしてもボーナスが減ったり、残業代が少なくなったりした程度であった。投資をしていればコロナ禍でも資産が増えたという人もいるだろう。

西村大臣

西村康稔・経済再生担当相。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

総務省がまとめた2020年度の家計調査(2人以上の勤労者世帯)を見てみると、可処分所得は前年度比4%増えたのに対し、外出自粛の影響で消費支出は同4.7%減った。その結果、平均貯蓄率は35.2%と前年から3.2ポイント増加したのだ。

政府もコロナの感染拡大が落ち着いた際にはこのコロナ禍で積みあがった貯蓄を消費回復の原資として期待しているようだ。

西村康稔・経済再生担当相が「20兆円超の追加的な貯蓄が残っている。外出、移動が正常化すれば、これまで我慢していた部分が出てくる」(2021年5月18日会見)と発言したことを受け、「強制貯蓄」が消費のカギを握ると紹介するニュースを目にした読者も多いだろう。

強制貯蓄:本来なら消費にまわるはずだった資金が、新型コロナ拡大の影響によって強制的に貯蓄にまわってしまった現象のこと。

5月時点では「ワクチン効果」は見えない

街

人々は街中に外出し始めているが(2021年5月撮影)。

撮影:小林優多郎

足下で消費は本当に回復しているのだろうか。

データは一般的には前の年の同じ月と比較するが、2020年5月は初めて緊急事態宣言が発出された時期であり、多くの国民がかなり強く自粛していた。

その時と比較すると2021年5月は実態よりも強い結果(回復)となってしまう。そのため、2年前の同月比のデータを用いてグラフにしたものが下図だ。

図版

出所:JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」のデータを基に著者作成。

現在進行形の6月のデータではないものの、国の経済統計ではまだ確認できない5月の消費データを見ると、消費全体(ピンク色)の傾向としては若年層の方が高齢者層よりは消費の減少幅が小さいことがわかる。

小売消費(緑色)を見ればその傾向は顕著だろう。つまり、ワクチン接種は進みつつあるものの、まだ消費回復という所まではつながっていないということだ。

特にコロナ禍で外出を控えていた高齢者層は依然として消費を控えていることが分かる。

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