コロナ禍を機に一気に広がった「リモートワーク」。
業種・職種にもよりますが、メリットを強く感じた企業やビジネスパーソンは、コロナ収束後もリモートワークを続ける意向を見せています。
これに伴い、地方へ移住する人、あるいは大都市と地方の2拠点生活に踏み切る人が増えています。
実は私もその1人です。
2021年4月から、東京と静岡での2拠点生活をスタートさせました。
決意のきっかけは、次男が静岡の中学校に進学したこと。私と次男は静岡にマンションを借りて2人暮らしを始め、夫と高校生の長男はこれまでどおり都内のマンションでの生活を続けています。
東京にあるオフィスへの出社は週1回。あとは商談も、転職相談も、社内ミーティングもオンラインが中心です。
そこで今回は、2拠点生活をしてみての感想、メリット・デメリット、仕事を回すための工夫、失敗しないためのポイントなどについてお話ししたいと思います。
2拠点生活をしてみて「良かった!」と思うこと
皆さんから「静岡に引っ越してみて、どうですか?」と聞かれるのですが、一言で言えば「すごく快適!」です。
移住1週間にして「この生活、いいな」と日々実感し、すでに「次男の卒業後もこのままでいいかも」という気分になっています。
メリットはさまざま。今、感じていることを挙げていきます。
広い部屋って快適!
静岡では比較的リーズナブルな家賃で、広々としたマンションを借りられました。
お風呂に洗面ルーム、トイレ、廊下、そしてベランダ、1つひとつが広い間取りの設計です。ベランダには椅子を置いて、朝陽を浴び、コーヒーを飲みながらの読書タイム。贅沢な時間です。
リビングではヨガマットを敷いてのヨガ。マインドフルネスと兼ねて毎朝の日課にしています。この広さに慣れて、たまに東京のマンションに帰ると息苦しさを感じるほどです。
「マンションを2つ借りるのはコストが……」と思う方も多いでしょうが、私の友人は東京で小さめの部屋を借り直し、賃料が浮いた分で地方に2つめの家を借りました。
トータルコストはそれほど変わっていないようです。
自然を感じられる環境って、やっぱりいい!
窓の外には山の風景が広がり、朝起きてリビングから見える山の緑から毎日エネルギーをもらっています。自宅から駅へ向かう間には大きくそびえる富士山も眺められます。
私は滋賀の田舎で生まれ育ったのですが、懐かしい感覚が戻ってきました。「人間はやっぱり自然を求めているんだな……」と感じます。
家族とじっくり向き合えるようになった
次男と2人きりの生活となり、じっくり向き合えるようになりました。一緒に料理を作ったりもします。
また、夫とは、同居していた頃よりコミュニケーション量が増えました。
以前は「いつでも話せる」という感覚だったので、忙しさにかまけて最低限の会話しかできていませんでした。
お互いの顔が見えない分、電話やチャットで日々のトピックを頻繁に共有し、時にはじっくり話す時間も持つようになりました。
新しいコミュニティが新鮮で楽しい!
静岡のコミュニティに参加し、新しい人脈を築けています。
私は大学時代にラグビー部のマネージャーを務めて以来のラグビーファンなのですが、そのご縁もあって、今春発足した静岡県ラグビーフットボール協会の理事に就任しました。
理事になったことでネットワークが広がり、静岡の経営者の皆さんと交流させていただく機会も増えました。
また、地元の美容室に行ったところ、その美容師さんがいろいろな地域活動をされているとのこと。さっそく食事にお誘いし、その方からも情報を得て地元ネットワークを構築中です。
新しく知り合った方々とのご縁で、ゴルフやキックボクシングなども始めてみようかと思っています。
東京でも仕事以外のコミュニティに参加したことはありますが、日々の仕事に追われながらなので、活動はあくまでスキマ時間の範囲内。常に隣に「ビジネス」がある感覚でした。静岡では時間に余裕もあり、今は「ライフワーク」という感覚です。
時間の使い方をより強く意識するように
時間の使い方を、以前より強く意識するようになりました。
リモートワーク中心の生活では、人と会う時間がより貴重に感じられます。人と対話するにも、ゆったりとした時間の流れを楽しめるようになりました。
東京にいた頃の私は、本当に慌ただしく過ごしていたんだな……と思います。
もし子どもがまだ幼かったら……
息子たちはもう高校生と中学生ですが、私は「育児と仕事をどう両立させてきたか」というテーマでよく取材を受けるため、2拠点生活を始めてから「もし子どもがまだ幼かったら……」と想像してみることがあります。
東京には「待機児童」問題がありますが、地方では保育園にも入りやすい。
例えば、夫は東京のワンルームマンションに住んで、私と子どもは静岡で暮らす。
滋賀にいる母は、東京よりも短時間で、夫に遠慮することなく遊びに来られる。忙しい時期には1カ月くらい滞在して、育児をサポートしてもらうこともできるかも……。
こんなふうに、育児と仕事の両立が大変な時期を乗り切る手もあるかもしれません。
ちなみに、東京で暮らす長男は、今では「料理男子」に。最近では、ミールキットなども多種類ありますので、高校生の彼なら煮る・炒めるはお手のもの。夕食は自分で作ることも多々あります。
長男のお弁当作りは夫の担当となり、撮影してFacebookに投稿するほどにハマっています。私が東京にいたときには想像もできなかった風景です。
2拠点生活のデメリットは? 2拠点目を構える前に注意すべきポイント
2拠点生活には、不便さを感じることももちろんあります。
東京にいるお客様と、できればリアルで会ってお話ししたい時もあります。けれど、オンラインミーティングのアポイントも詰まっている中では、すぐに駆けつけることができません(とはいえ、双方オンラインに慣れてきているので、大きな負荷というほどではありません)。
コロナ禍が収束しても、オンラインコミュニケーションは定番化すると思いますが、やはりリアルコミュニケーションを希望する方もいらっしゃるでしょう。どこまで元に戻るかは、私もまだ読めないところではあります。
これから2拠点生活、あるいは地方への移住を検討している方は、エリアを選ぶ時、「移動しやすさ」に注目することをお勧めします。
私は、必然的に次男が学校に通いやすいエリアを選ぶことになりましたが、最寄り駅まで徒歩3分、その隣の新幹線停車駅までは自転車で10分。
新幹線の「ひかり」を使えば、自宅から東京オフィスまでドアtoドアで1時間です。東京の自宅に行くにも、電車の乗り換えは1回で済みます。
しかし、「最寄り駅まで遠い」「ローカル線で、1時間に数本しか電車がない」「乗り換えが多い」「乗り換え時の待ち時間が長い」などとなれば、外出への時間的・体力的負担が大きく、ストレスも感じるでしょう。
また、日常の買い物をするお店が遠ければ、その分、移動時間を使うことになり、生産性が低下します。
距離が遠い・近いではなく、よく行く場所へのアクセスがスムーズかどうかを確かめた上で、居住地を選ぶことをお勧めします。
例えば、「乗車時間は長いが、確実に座れる」「乗り換えの待ち時間が長くても、その間にPCで仕事ができるスペースがある」といったことが、生産性に大きく影響してくるはずです。
リモートワーク中心でも、チームをうまく回していくための工夫は?
私の会社では、2拠点生活を始める以前から、「オフィス」+「リモート」の組み合わせ方をいろいろと試してきました。
その結果、今では週1回、全メンバーが必ず出社する日を設けています。
オフィスに出社していた頃は、日常のちょっとした会話からビジネスの種が見つかりましたし、ふと湧いた疑問や課題もすぐに解消できていました。メンバーのメンタルの状態も察知することができました。
リモートが中心になっても、そうした小さな兆しを見逃さないための工夫は必要です。
そこで、週1回は出社し、皆で一緒に長めのランチタイムを取り、プライベートも含めた会話をじっくりすることにしています。
また、日常で起こる「こんな時、どう対応すればいいか」を、メンバーたちが自身で判断できるよう、ナレッジを共有する仕組みを作りました。
それぞれが経験して得たナレッジ、入手した情報などを、ルールに基づいて保管します。「こういう情報は、このフォルダに、こういう形式で溜めていこう」といったように。
また、チャットツールには目的別のスレッドを設け、気軽に投稿できるようにしています。
今後、ワクチン接種が進み、コロナ禍が収束していく中でも、企業は「オフィス」+「リモート」のハイブリッド型のワークスタイルを模索していくでしょう。
そうした新しい働き方をサポートする企業も登場しています。
例えば、私が人材採用の支援をしているACALL(アコール)社の「WorkstyleOS」は、フリーアドレスのオフィス、および提携先のワークスペース(シェアオフィス・コワーキングスペース・カフェなど)の席の予約システムを提供しています。
その予約状況をメンバー全員が閲覧できるため、「あの人がこの時間、この場所にいるから、自分も行って、あの案件の相談をしよう」といった動きが可能になります。
そして、メンバーがいつ・どの場所で・どれくらいの時間働いたかのデータを解析することで、部門や職種ごとに、どんなワークスタイルが最も生産性やエンゲージメントを高めてくれるのかを導き出します。
同じ会社であっても、担当業務によって「週2回出社」が効率的であったり、「フルリモート」でこそ最大限のパフォーマンスが出せたりと、最適なワークスタイルは異なるはずです。
これからの時代は、企業も一個人も“最適な働き方”を探っていくことになるでしょう。
自分にとって最適なワークスタイルが、「2拠点生活」「地方移住」にフィットすると判断したなら、一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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※本連載の第56回は、7月19日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。