独自動車大手メルセデス・ベンツなど著名な巨大企業がいま戦後生まれ世代の需要に沸いているという。
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ミレニアル世代(1981〜96年生まれ)やZ世代(1997〜2012年生まれ)へのリーチを狙って広告費を投下する企業があとを絶たないなかで、その親世代にあらためて目を向けるところも出てきている。
そうした企業は、ベビーブーム世代(1946〜64年生まれ)がワクチン接種の進捗を背景に旅行を再開したり、パンデミックの間に(行動制限などの影響で)貯まったお金を使って住環境の改善やかつて愛用した懐かしいブランドを買ったり、目下の新たな動きに注目する。
米広告エージェンシーEGC社長のニコル・ペンはInsiderの取材に対し、次のように説明してくれた。
「ベビーブーム世代の消費者をターゲットにしている当社グループのブランドやビジネスは軒並み好調です。彼ら彼女らはミレニアル世代などと違ってすでに子どもが手離れしているので、ありとあらゆる分野にお金を落とすわけです」
EGCの調査によると、ベビーブーム世代の消費は2021年、前年比10〜15%増の見通し。
同社のクライアントである独自動車大手のメルセデスベンツ、ホームオフィスプリンターのブラザー、キャンドルメーカーのグラスハウス・フレグランスなどは、ベビーブーム世代をターゲットにした広告を前年比30〜40%積み増しているという。
実際のところ、メルセデスベンツやブラザーは、ベビーブーム世代からの需要増に対応するだけで精一杯の状況が続いている模様だ。
米広告大手インターパブリックグループ(IPG)傘下ジャック・モートン・ワールドワイドの最高顧客責任者(CCO)クレイグ・ミロンによれば、アルコールや旅行・観光といった分野のクライアント企業は、ベビーブーム世代を含む高齢者層の需要喚起を狙って広告費を積み増している。
「ベビーブーム世代はこれまでに何度も不況を乗り越えてきた経験があるため、(今回のコロナショックでも)打たれ強く、積極的な消費性向を示しています。
フライトやクルーズ船の予約、自動車の販売台数……いずれもこれから黙っていても増えていくでしょう。特段プッシュする必要はありません。ブランド側がいまやろうとしているのは、生まれてくる需要をしっかり刈り取ることなのです」
そんな状況のもとで、ベビーブーム世代に訴えるポイントは「なつかしさ」。
広告エージェンシーGSD&Mシニアバイスプレジデント兼エグゼクティブメディアディレクターのデイブ・カージーは、旅行、小売り、準高級品、さらには「なつかしさを感じる」ブランドと、ベビーブーム世代をターゲットにした戦略転換に向けて、対話をくり返しているという。
「すぐにピボットするのは簡単ではありません。マーケティング、オペレーション、その間にあるあらゆるプロセスまで含めて戦略的なシフトが必要なのです。ただ、どのブランドもいまが(戦略転換の)チャンスであることには気づいています」
ベビーブーム世代向けの広告戦略で気をつけなくてはならないことを、EGCのペンはこう説明する。
「シルバー世代のように扱ったり、そう感じさせたりしてはいけません。彼らはいまも若いまま。だから、メッセージの内容やトーンはモダンでなくてはならないのです」
従来のやり方では、高齢者をターゲットにしたかったらテレビに広告を出すのが王道と考えられていたが、状況は変わった。
広告会社の複数の経営幹部は、新型コロナのパンデミックでリアル店舗が閉鎖され、その間ベビーブーム世代もネット通販を使うのに慣れてきたため、インスタグラムやフェイスブック、ピンタレスト広告も効果を発揮するようになったと口を揃える。
実際、アドシャーク・マーケティング(AdShark Marketing)が2020年3月に実施した調査によると、ベビーブーム世代のネット通販利用回数は、ミレニアル世代を20%上回るという。
GSD&Mのデイブ・カージー(前出)はこう指摘する。
「ここしばらく、多くの企業がミレニアル世代の心をつかもうと異常なほどの時間を費やす時期が続いています。一方、ベビーブーム世代は非常に優良な顧客であり続け、ロイヤリティ(忠誠度)も高く、全人口のなかで最も裕福な層なのに、かつてほどには注目されていません」
若い世代をターゲットにしたほうが大きく、長期的なバリューを得られると主張する広告主企業も少なくない。カージーも「いくつかのブランドにとって、Z世代は確かに再活性化のために不可欠な存在」と同意する。
しかし、米フレイ・エージェンシー(Hooray Agency)の最高経営責任者(CEO)スティーブン・セーガースはこう語る。
「ベビーブーム世代は、自らのブランド体験を子どもや孫たちにシェアするので、広告主企業はベビーブーム世代をターゲットにマーケティングすることで、間接的に若い世代にもリーチできます。ベビーブーム世代はあるブランドを好きになる理由を見つけると、他の世代も巻き込んでくれるのです」
[原文:Why big brands like Mercedes-Benz are spending way more on reaching baby boomers over Gen Z]
(翻訳・編集:川村力)