撮影:吉川慧
7月4日に投開票される東京都議会議員選挙。
大きな争点となっているのは新型コロナ対策や東京五輪への対応ですが、注目したいのが「ジェンダー政策」です。
夫婦同姓を定めた民法などの規定を最高裁が「合憲」と判断したことで注目を集めた「選択的夫婦別姓」、自民党が国会への提出を見送った「LGBT理解増進法案」、そして男女の候補者を均等にすることを求める「クオータ制」—— 。2021年に入ってから、ジェンダーギャップや性的マイノリティに関する政策・法案が多く話題に上がっています。
Business Insider Japanでは、都議選に候補者を擁立している全政党に一斉アンケートを実施。改めて、各政党の「ジェンダー政策」にフォーカスを当てて、回答をまとめてみました。
1. 選択的夫婦別姓
2021年6月、夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定が、最高裁判所大法廷で「合憲」だと示されました。大法廷はその判断理由として、選択的夫婦別姓制度が導入されるか否かは国会での議論に委ねられるべきだ、と改めて指摘しました。
「選択的夫婦別姓の導入についてどう思うか?」との質問に対する回答は、自民党以外のすべての党が「賛成」の立場です。
「現在、国政での議論が活発に行われています。その意義や必要性、家族生活、社会生活、子ども世代への影響等について、慎重に議論を深めるべきと考えます」(自民党)
「若い世代を中心に選択的夫婦別姓に賛成する世論も高まっていることから、すぐにでも導入するべきと考えます」(生活者ネットワーク)
「現状では、事実上女性に姓の変更を強いており、女性の個人の尊厳がないがしろにされている状況です」(れいわ新選組)
2. クオータ制
今回のアンケートで最も大きな違いが出たのが、特定の割合の議席や候補者を男女に割り当てる「クオータ制」への考え方でした。
大前提として、日本は女性の政治参画が極めて遅れています。2021年3月に世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数」の政治分野で、156カ国中、日本は147位です。また、国会議員(衆議院)における女性議員の割合も、世界193カ国中で日本は166位と、非常に低い位置にあります。
こうした中、6月には政治分野でのジェンダーギャップ解消を目的とした「候補者男女均等法」が改正されました。同法は政党に対し、男女の候補者をできる限り均等にすることを求めています。ただし、その数値目標を義務化することは見送られました。
アンケートの結果、クオータ制の法制化に消極的なのは「自民党」と「嵐の党」の2党でした。
自民党は「一律に数値目標を義務化するよりも、保育・介護基盤の充実、働き方改革の推進等の環境整備を行い、男女共同参画型社会への相互理解を促進すべきと考えます」と、数値化より優先すべきものがあると表明。
公明党は、議論自体の重要性は認めるものの「女性議員が少ない構造的要因」を解決することが先だ、との考えを示しました。
なお、政府は「2020年代の可能な限り早期に」女性リーダー比率を3割にすることを目標に掲げています。しかし、クオータ制導入に消極的な回答をしたすべての党が、今回の都議選の女性候補者比率で3割を割り込む結果になりました。
3. LGBTQの権利
性的マイノリティ(LGBTQ)への施策はどうでしょうか。
東京都議会は6月、同性パートナーシップ制度を求める請願を全会一致で採択しました。その一方で、多様性を掲げた東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、与野党が今国会での成立を目指していた「LGBT理解増進法」は自民党が党内の反発で一転、国会提出が見送られました。
アンケートの結果でも、自民党以外のすべての党が「LGBT理解増進法(差別禁止法)」の早急な法制化を目指す、と回答しました。
「自民党の反対によりLGBT差別禁止法の成立が先送りされたことは、きわめて遺憾です。与党の責任放棄であり、差別に対する認識の欠如が鋭く問われると考えます」(共産党)
「同性パートナーシップ制度について、都民ファーストの会の都議会議員は請願紹介議員となり『採択』のために奮闘しましたが、『採択』に反対する会派があり、その結果として『趣旨採択』となったことを付け加えておきます」(都民ファースト)
「今後、東京都の行政現場において、どのような配慮や工夫が可能であるかについて個別具体的に検討し、必要な取組を慎重に行うべきです。また、その状況等も踏まえて、引き続き国政での法制化への議論を深めていく必要があると考えています」(自民党)
4. 「女性不況」に子どもの貧困……対策は?
撮影:今村拓馬
アンケートでは、コロナ禍で女性の失業者・休職者数が男性と比較して大幅に高い「女性不況」や、シングルマザー家庭の多いひとり親世帯の半数が陥っているとの厚労省データもある「子どもの貧困」への具体策についても尋ねています。
すべての政党が政策をアピールする中「経済政策に関しては、なかなか差別化がしづらい」と指摘するのが、 若者の声を政治に反映させることを目指す団体「日本若者協議会」代表理事の室橋祐貴さんです。
「コロナ禍の協力金などで財源が枯渇する中、掲げられたマニフェストを本当に実現できるのか?も考える必要があります。例えば、共産党が掲げる『学生応援給付金』や『都立大学の授業料無償化』はなかなか難しいのではないでしょうか」
自民党が肝入り政策として掲げている「個人都民税・20%、事業所税・50%」の減税についても「都の財政が逼迫する中で本当に実現できるのか?は疑問が残る」と室橋さん。また、都民税の減税による影響が大きいのは富裕層であり、弱者や困窮者支援からはズレる、という点も指摘します。
5. 「都民ファーストの4年間」への評価は?
コロナ禍の東京五輪と、難しい状況での都政を迫られた、小池百合子都知事。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
最後に忘れてはならないのが、今回の都議選は2017年に「小池旋風」を巻き起こし、現有議席のもっとも多い「都民ファーストの会」の都政を評価する選挙になる、ということです。
室橋さんは、都民ファーストの会が都政を率いた4年間について「コロナ対策や東京五輪・パラリンピック対応の迷走でネガティブな印象になってしまった」ことは指摘しつつ、女性や子どもに関する政策では、以下の実績は評価できる、とします。
- 受動喫煙防止条例(2020年4月から原則屋内禁煙に)
- 待機児童数の減少(2017年の8586人から約9割減少)
- 多子世帯への授業料支援
- ソーシャルファーム(ひとり親・障害者・引きこもり経験者などの就労困難者をサポートしながら、全従業員の20%以上雇用する社会的企業)の促進
- 性教育の推進
「都民ファーストは女性議員比率も高く(約3割)、創設者である小池都知事も女性。そうした背景が、積極的な女性支援策につながっているのではないでしょうか」(室橋さん)
またとりわけ、子どもの権利を守ることに関しては、2021年3月に全会派一致で可決した「東京都こども基本条例」が画期的だった、と評価します。同条例は、公明党が自民党や維新の会を巻き込んで主導し、共産党や都民ファーストの会が「共闘」するかたちで成立したことがポイントだったといいます。
「女性や子どもの権利を守ることに関しては、共産党・公明党が突出してテーマに掲げ、都民ファーストがそれに追随するかたちで多くの政策を推進させてきた印象です。そうした中で、自民党が第1党に戻って果たしていいのか?とは問わねばならないでしょう」(室橋さん)
※政党の全回答のまとめはこちらから。
(文・西山里緒、取材協力・梶原拓朗、稲葉結衣、柳瀬綺乃)