音楽配信サービスのスポティファイは、日本市場でのポッドキャストへの注力を改めて表明した。
撮影:小林優多郎
コロナ禍の他人との社会的距離をとる生活で、日本でも人気がで始めた音声コンテンツ。当初のブームは過ぎたが、招待制の「Clubhouse」などの熱狂ぶりを肌で感じた人もいるだろう。
そんな音声コンテンツに、さらに注力していく方針なのが、音楽配信サービス大手のSpotify(スポティファイ)だ。6月29日には、世界各国で展開中のポッドキャストクリエイター育成プログラム「Sound Up」の日本上陸を発表した。
Sound Upを含め、日本の音声コンテンツ市場でのスポティファイの戦略を、日本法人の音声コンテンツ事業統括担当の西ちえこ氏に聞いた。
アマゾンやアップルと競争しつつも、ポッドキャストをやる理由
スポティファイジャパンで音声コンテンツ事業統括を担当する西ちえこ氏。
画像:筆者によるスクリーンショット。
ポッドキャストの競合としては、アマゾンの「Amazon Music」、アップルの「Apple Podcast」など大手プラットフォーマーがいる。
スポティファイは楽曲配信と一緒に、独自タイトルを含めたポッドキャストを配信しており、その番組数は国内外のものを含め発表時点で260万以上あるという。
オリジナルコンテンツも含め、国内外のポッドキャスト番組は急増している。
出典:スポティファイ
日本では2019年2月から、スポティファイ独占配信のコンテンツをさまざまなステークホルダーとのコラボで制作。代表例としては、テレビアニメ『呪術廻戦』や、テレビ東京のドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』が挙げられる。
西氏は激しい競争環境の中で、スポティファイの差別化ポイントの1つに、「たくさんの人に興味を持ってもらえるエンタメ性」を挙げている。
「今は『スポティファイでポッドキャストがある』ということを新規ユーザーの方に知っていただくのが重要。『きっかけを作る』ことが指標になっている」
スポティファイの主なビジネスモデルは、フリーミアムのサブスクリプション(月額課金)だ。無料でも広告つきで音楽を楽しめるが、「Premiumプラン」(月額980円〜)に契約すれば、広告が外れ、アプリではダウンロード再生にも対応するなど、視聴体験がより快適になる。
ポッドキャストの聴取は登録さえすればよく、「無料会員は●話まで」のような制限も存在しない。そのため、すぐに利益に結びつくとは思えないが、「(音楽にポッドキャストは)Win-Winの関係」と語る。
「今は音楽配信の利用の方が多いが、ポッドキャストが増えることによりエンゲージメントが上がる。
ポッドキャストで入ってきたユーザーは音楽も聞くように広がっていく」
日本は「ポッドキャストクリエイター不足」
アメリカではポッドキャスト市場が急成長していると話す西氏。日本でも同様の成長ができるのか。
出典:スポティファイ
課題もある。西氏はその1つを「日本では本格的な音声クリエイターが少ない」点を挙げている。
「個人で音声配信をされる方は増えている。ただ、ナレッジやノウハウが共有するフレームワークが存在しない。
もちろん形式などは自由だが、番組の構成や音楽(BGMやSE)の使い方、話の間を詰めていく方法など、ノウハウが提供されれば、より良いコンテンツが生まれるのではないか」
そんな状況を打破する施策が、今回発表された「Sound Up」と既に国内外でポッドキャスト配信者に愛用されている「Anchor(アンカー)」というツールだ。
Sound Upはオンラインで行われる育成プログラム。日本では社会課題として挙げられている“ジェンダー・ギャップ”を鑑みて、まずは成人女性を対象に募集される。
出典:スポティファイ
Sound Upはポッドキャストクリエイターの育成プログラムで、応募者の中から選ばれた10名に対して、番組の企画・制作・配信に関するトレーニングに加え、制作・配信に必要なノートPCやマイク、インターネット接続環境といった機材支援も行う。
日本での募集条件は「(性自認が女性の方を含む)20歳以上の女性」を10名と、やや小規模なスタートという印象を受けるが、西氏はグローバルでもSound Upは「メンターシップ制のスモールグループ」としており、狭く深い学びの場となっているようだ。
なお、西氏はSound Upを「1年間に限った取り組みではない」とし、今後プログラムを継続していく過程で対象者を変えていく可能性も示唆していた。
日本でも人気ツール「Anchor」を推していく
Anchorはポッドキャスト配信に必要な作業を一気通貫で行えるツールだ。
出典:スポティファイ
一方で、より多くの人に門戸を開くためのツールがAnchorだ。
Anchorはアメリカで2015年に開発され、2019年にスポティファイが買収したポッドキャストの制作から配信、分析まで可能な無料ツール。アプリでカンタンに配信できる点や、アップルやグーグルといった他のプラットフォームにも複数配信できる点が特徴だ。
ポッドキャストの配信方法を検索すると必ず上位に出てくるほどの人気ツールだが、西氏も「(日本で)広告も出していないのに、ユーザーの数は前年度と比べても増えている」とその好評さを語っていた。
アプリは日本語に対応しており、スマホで誰でもカンタンにポッドキャストが始められる。
出典:スポティファイ
Anchorは(スマホ版は日本語対応しているものの)スポティファイが日本で積極的に打ち出しているサービスではなかった。しかし、今後は専用のソーシャルメディアやマイクロサイトを立ち上げて、Anchorから生まれた番組の紹介や、番組作りに役立つノウハウの提供に務めるという。
Anchorに関して西氏は「中期的には構想がある」と話しており、「(今は語れないが)2022年ぐらいには色々な仕掛けをしていく」と今後の展開に期待感を示した。
西氏は、国内の状況について「非公表」としているが、スマートフォンや高性能なワイヤレスヘッドホン、スマートスピーカーの普及といった環境的要因もあり、仮に世界的なパンデミックが落ち着いたとしても、音声コンテンツ市場が今後も成長していくと見ている。
(文・小林優多郎)