6600万年前にチクシュルーブ衝突体が現在のメキシコ・ユカタン半島に衝突した様子を描いた想像図。
Chase Stone
- 6600万年前に幅約10キロメートルの小惑星が地球に衝突し、恐竜を絶滅させた。
- しかし、この衝突の前にすでに消えつつある恐竜もいたことが研究によって示唆された。
- 7600万年前に始まった地球規模の寒冷化が、絶滅を促した可能性がある。
もしも6600万年前に地球に小惑星が衝突していなかったら、生物はどうなっていたのだろうか。現在のメキシコ、ユカタン半島に小惑星が衝突したことにより、恐竜をはじめとする陸生・海生の生物の大半が絶滅した。もしそうなっていなければ、人類やその他の哺乳類は、ティラノサウルスやトリケラトプスと対決していたのだろうか。
2021年6月29日付けで『Nature Communications』に掲載された論文では、この疑問に対し、そうはならなかっただろうと答えた。
この論文では、小惑星衝突前の1000万年の間に、6つの主要な恐竜の種が徐々に衰退していたことを明らかにした。小惑星の衝突により生じた巨大な津波や猛烈な火災、太陽の光を遮って息を詰まらせてしまうほどの濃い塵と硫黄の雲は、恐竜の衰退にとどめを刺しただけにすぎなかったのだという。
フランスのモンペリエ大学の研究者で、今回の論文の筆頭著者であるファビアン・コンダミーヌ(Fabien Condamine)は、「この隕石は、恐竜への最後の一撃であり、それによって絶滅したと考えられる」とInsiderに述べている。
コンダミーヌと論文の共同執筆者らは、地球規模での寒冷化が、恐竜の種の数を減少させ、それが大災害の後の回復を不可能にしたのではないかと指摘している。
「多くの古生物学者は、もし小惑星が地球に衝突しなかったら、恐竜は生き続けていただろうと考えてきた。だが今回の研究により、恐竜の状態は衝突前から良くなかったということが新たに明らかとなった」とコンダミーヌは語っている。
恐竜はすでに絶滅への道を歩んでいた
ティラノサウルスの成体の体重は6トンから9トン、体長は最大で約13メートルだった。
Illustration by Zhao Chuang/courtesy of PNSO
今回の論文では、白亜紀後期にあたる約1億年前から6600万年前までに生息していた247種の恐竜の1600個の化石を調査した。その中にはティラノサウルスなど2本足の肉食恐竜や、トリケラトプス、アヒルのような口をした大型草食恐竜などが含まれていた。
研究チームは、それらを6つの大きな科に分類し、それらの科に属する種の多様性が時間の経過とともにどのように変化したかを分析した。その結果、6つの科すべてにおいて、小惑星が衝突する前の7600万年前から種の数が徐々に減少し始めていることが明らかとなった。
「これまで考えられていたように恐竜の多様性が高く、白亜紀の終わりに向かってそれがさらに高まっていったということは確認できなかった」とコンダミーヌは語っている。
恐竜が徐々に衰退していたと考えた科学者グループは、コンダミーヌらが初めてではない。2016年の論文によると、一定の期間にわたって存在していた恐竜の種が絶滅しても、新たな種がそれに取って代わるということはなかった。それは単に化石の記録が不完全だったからではないかという疑問は残るものの、今回の論文によると、古い種は確かに新たな種よりも絶滅する確率が高かったことが明らかになった。
草食動物の独壇場に
白亜紀に生息していたアヒルのような口をしたハドロサウルス科ウグルナールク・クークピケンシスの想像図。
James Havens
白亜紀後期にあたる8000万年前から地球の寒冷化が始まり、気温は摂氏7度ほど低下した。恐竜が周辺環境の気温によって体温を調節していたことを考えると、気候の変化が恐竜の絶滅に影響を与えた可能性があると、コンダミーヌは述べている。
「温暖な時期には恐竜の種の多様性が高まり、寒冷な時期には絶滅に近づいていった」と論文には記されている。
また、恐竜の生息数が減少した理由として、生態系に占める草食動物の多様性が失われていったことも考えられる。7600万年前から6600万年前にかけては、巨大な体と丈夫な歯を持つ草食のハドロサウルスが、トリケラトプスやアンキロサウルスなど他の草食恐竜と比べて餌を確保する上で有利だったことから、主流となっていたようだという。アンキロサウルスは棍棒のような尾と、鎧のような皮膚を持っていたため肉食恐竜を威嚇する役割を果たしていたが、その数が減少したことで、他の草食恐竜の減少にもつながったと考えられている。
「草食動物がいなくなると、生態系全体が絶滅の連鎖に陥りやすくなる」とコンダミーヌは述べた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)