クレインビジョン(Klein Vision)が開発中の空飛ぶクルマ「エアカー(AirCar)」試作機。
KleinVision
世界中でいわゆる「空飛ぶクルマ」の開発競争が激化するなか、プロトタイプ(試作機)による初の都市間有人飛行を成功させ、「実用化の一歩手前まで来た」と宣言する企業があらわれた。
中欧スロバキアに本拠を置くクレインビジョン(Klein Vision)だ。
同社は6月28日(現地時間)、自社開発の空飛ぶクルマ「エアカー(AIrCar)」の飛行試験を実施し、スロバキアの中核都市ニトラから首都ブラチスラバまでのおよそ70キロを35分で飛行、着陸まで無事成功させた。
運転したのはクレインビジョンのステファン・クレイン最高経営責任者(CEO)兼最高技術責任者(CTO)本人だ。
クレインビジョン(Klein Vision)のステファン・クレイン最高経営責任者(CEO)兼最高技術責任者(CTO)兼テストパイロット。
クレインビジョンYouTube公式チャンネル動画より編集部キャプチャ
20年以上にわたって空飛ぶクルマの研究開発を続け、2019年10月に初の試験飛行に成功。さまざまな形の試験飛行を合わせると、今回が142回目の着陸成功になるという。
仏航空機大手のエアバス(AirBus)、独自動車大手アウディ(Audi)、米配車サービス大手ウーバー(Uber)といった輸送関連の巨大企業がしのぎを削るなかでの快挙と言っていいだろう。
なお、日本ではスカイドライブ(SkyDrive)が2020年8月に初めて有人飛行公開実験を成功させている。
「陸空両用」が絶対的な開発コンセプト
空飛ぶクルマという夢の技術を実用化に近づけたことはもちろん素晴らしいことだが、クレインビジョンの特筆すべき価値は、一見したところ普通の乗用車が(スーパーカー風だが)、航空機に変形して空を飛ぶという、SFの世界から飛び出してきたようなデザインにある。
言葉で説明するより、この場合は動画を見るのが手っ取り早い。下は6月28日の都市間有人飛行試験の模様を終始撮影したものだ。
中欧スロバキアの中核都市ニトラから首都ブラチスラバの有人飛行試験の様子。
Klein Vision YouTube Official Channel
動画開始1分28秒以降で見られるように、ブラチスラバ空港に着陸したエアカーは、両翼をたたんで機体に格納し、同市の繁華街へとそのまま乗り出していく。陸空モード間の「変形」はボタンを押すだけで完了し、所要時間は3分という。
先述の(日本の)スカイドライブや、トヨタ自動車(傘下のトヨタ・ベンチャーズ)が出資するジョビー・アビエーション(Joby Aviation)をはじめ、空飛ぶクルマと呼ばれる開発中の機体の多くは、航空機やドローンに近い。
その点、クレインビジョンは当初から「陸空両用」にコンセプトをしぼり込んで開発を続けてきたため、公道をクルマとして走行する状況がデザインの基本にある。動力源はもちろんエンジンだ。
今回の試験で使われたプロトタイプ1号機は、最高出力160馬力(HP)のBMW製エンジンを搭載。高度約2500メートルを時速190キロで飛行することに成功した。
クレインビジョンが「実用化一歩手前」と位置づける、開発中のプロトタイプ2号機は、BMW製エンジンを同300馬力にグレードアップし、欧州航空安全機関(EASA)が定める固定翼機の基準(CS-23)認証を受ける予定。
飛行速度は時速300キロ、航続距離は1000キロとなる見通しだ。
(文:川村力)