Insiderは、2021年における最も有望な暗号資産(仮想通貨)スタートアップを、トップのベンチャーキャピタリスト(VC)たちに挙げてもらった。
対象範囲は、非代替性トークン(NFT)から分散型金融まで、幅広く暗号資産業界としている。彼らが実際に投資しており、かつ投資以外の資本関係を持たない先に限定することを条件とした。
各スタートアップの推定総調達額は、PitchBookまたは個別に記載の出典によるものだ。
ソラナ(Solana):より効率的なブロックチェーンのネットワークを開発
総資金調達額:4億3500万ドル(約478億円)
概要:イーサリアム(Ethereum)のような主力ブロックチェーンよりも高速かつ効率的に設計されたブロックチェーン
見通し:イーサリアムのマイニング過程における電力消費の高さが問題視されるなか、ソラナはより省エネの選択肢となっている。さらにソラナは、取引をより高速で処理できるとしている。ブロックチェア(Blockchair)の情報によると、イーサリアムが1秒あたり14取引を処理するのに対し、ソラナは1秒あたり1000取引を処理できるという。
ソラナは、プラットフォーム開発を目指す「新たなレベルの暗号資産開発者を惹きつけている」と、VCのギャリー・タンは述べる。
さらに、トップクラスの投資家の関心も引いている。アンドリーセン・ホロウィッツがリード投資家を務めた直近の資金調達ラウンドでは、31億ドル(約341億円)を調達した。この金額は、PI(収益性指標)の値に1億ドル(約110億円)を掛けて算出された。
ファルコンX(FalconX):暗号通貨取引プラットフォーム
ファルコンX 共同創設者:ラグー・ヤーラガッダ
ファルコンX提供
総資金調達額:6700万ドル(約73億円)
概要:暗号資産価格情報とデジタル資産売買のプラットフォーム
見通し:2021年、ビットコイン価格が6万ドルを超えて最高記録を更新したこともあり、暗号資産への関心は急速に高まった。ファルコンXはその恩恵を大きく受け、売上は前年比46倍と急増した。
VCのマデュー・ヤラマーティの言葉を借りれば、ファルコンXは「暗号資産ツールの世界において、コインベース(Coinbase)に次ぐ最大級の恩恵を受けている」
コインDCX(CoinDCX): インド最大の暗号資産取引所
コインDCX 共同創設者:サミット・グプタ
コインDCX提供
総資金調達額:1900万ドル(約20億円)
概要:インド最大の暗号資産取引所。数百万人のユーザーの安全な暗号資産取引を支えている。
見通し:コインDCXのこれまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。コインDCXの設立後、インド準備銀行(インドの中央銀行)は各銀行に、暗号資産を取り扱う銀行との取引を禁止した。しかし、VCのサリル・デシュパンデは強気の見方を崩さなかった。
「インド当局の姿勢は長続きしないと考えました。インドのように人口が多く、自由な民主国では、イノベーションや草の根の動きを遮断することはできません。たとえ国家が遮断しようとしても、です」とデシュパンデは語る。
2020年、インドの最高裁判所は取引禁止を違法と判断した。苦難を耐えたコインDCXは、200万人超のユーザーを獲得し、事業を1年で1000%も拡大させる結果となった。
「CoinDCXの売上は、今後長年にわたり持続するでしょう」とデシュパンデは言う。
Alchemy(アルケミー):ブロックチェーン開発者向けツールを提供
アルケミー 共同創設者:ニキル・ヴィズワナサンとジョー・ラウ
アルケミー提供
総資金調達額:9900万ドル(約108億円)
概要:エンジニア向けの、ブロックチェーン技術を用いた製品開発を容易にするためのツール提供。
見通し:2021年、非代替性トークン(NFT)と呼ばれるブロックチェーン技術を活用したデジタル資産、そしてNFTのマーケットプレイスが急拡大した。OpenSeaやSuperRareは数百万ドルを調達し、数カ月にわたり市場を席捲した。
アルケミーは、両社にプラットフォームを提供している企業だ。2021年4月、シリーズBで8000万ドル(約88億円)を調達したアルケミーは、CryptoPunks(クリプトパンクス)やMarketPlace(マーケットプレイス)など話題の暗号資産企業にもプラットフォームを提供している。
VCのサム・フォートによれば、アルケミーのプラットフォームは数百万人のユーザーによる300億ドル(約3.3兆円)規模のブロックチェーン取引を支えているという。
テクノロジー専門メディアTechCrunchの取材によると、アルケミーの事業規模は資金調達シリーズB以降、8倍にまで拡大しているという。
スタックト(Stacked):暗号資産投資家の資産運用をサポート
スタックト 共同創設者:ジョエル・バーチとステファン・ビーヴィス
スタックト提供
総資金調達額:100万ドル(約1億円)
概要:暗号資産取引所と連携し、ユーザーがワンストップで投資資産を運用できるサービスを提供。さらに、ヘッジファンドなど優れた投資家のポートフォリオを模したポートフォリオに投資することも可能にする。
見通し:コインベース(Coinbase)のIPOは、暗号資産投資に対する需要の大きさを示した。VCのローレン・デルーカいわく、スタックトは個人による暗号資産投資を新しいステージに進化させるという。あらかじめ構築されたポートフォリオに投資し、投資資産の全体像を把握するためのツールを投資家に提供する。
スタックトは過去6カ月間で10倍の成長を遂げた。もっとも、コインベースとの連携や、モバイル・プラットフォームの立ち上げはこれからだ。今後、アメリカの取引所との連携やアプリ開発を進めることで、スタックトは「信頼でき、責任ある暗号資産の取引手法」になるだろう、とデルーカは言う。
ダッパー・ラボ(Dapper Labs):NBAトップショット(NBA Top Shot)を手掛けるNFTスタートアップ
ダッパー・ラボ CEO:ローハム・ギャレンゴズロウ
Getty Images/Vaughn Ridley/Sportsfile
総資金調達額:4億ドル(約440億円)
概要:バスケットボール関連のバーチャル収集アイテムを売買できる人気の「NBAトップショット」や、育成ゲーム「クリプトキティーズ(Cryptokitties)」を運営。
見通し:2021年のNFTを語るうえで、ダッパー・ラボに触れない訳にはいかないだろう。VCのビル・タイによると、ダッパー・ラボは「長年にわたりNFT分野における開拓者であり続けている」という。ダッパー・ラボは、2017年の時点ですでにブロックチェーンゲーム「クリプトキティーズ」を開発していた先駆的企業だ。
CEOローハム・ギャレンゴズロウは、暗号通貨に特化したニュースサイト「coindesk」の取材に対し、NBAトップ・ショットをスタートして以来、2021年には100万人のユーザーを獲得し、7億ドル(約770億円)超の売り上げを上げている、と述べている。
さらにニューヨークタイムズが報じたように、NBAプレイヤーがファインプレーを見せたとき、本人が「今のシーンをトップ・ショットに載せろ」と叫ぶという現象まで起きている。
テクノロジー系ニュースサイト「The Information」によると、ダッパー・ラボは、次の資金調達におけるバリュエーションを75億ドル(約8250億円)超と想定しているようだ。
ソラレ(Sorare):NFTサッカー・トレーディングカード
ソラレ 共同創設者:ニコラス・ジュリアとアドリアン・モントフォート
ソラレ提供
総資金調達額:5800万ドル(63億円)
概要:NFTサッカー・トレーディングカードの開発、デジタル収集アイテムを売買するプラットフォームの提供。
見通し:2021年、スポーツとNFTが手を結ぶことが増えた。ダッパー・ラボがNFTバスケットボール・カードなら、ソラレはNFTサッカー・カードだ。
VCのイーアン・エイブハセラいわく、ソラレは「狂気レベルの成長性」と「明確な市場適応力」を併せ持つ企業だという。2021年2月、ベンチマーク・キャピタルがリード投資家を務める資金調達のシリーズAにおいて、ソラレは5000万ドル(約55億円)を調達した。
ナショナルサッカーチームのフランス・フットボール・フェデレーションは、ソラレNFTカード発行の初ディールを締結したが、ソラレの事業はまだ始まったばかりだ。ソラレは、「これから似た企業が多く誕生するでしょう」と語る。
ファウンデーション(Foundation):NFTマーケットプレイス
総資金調達額:200万ドル(約2億円)
概要:オークション形式のNFT用プラットフォームを提供。価格は時に数千ドル(数十万円)にのぼることもある。
見通し:NFTが話題になってから数カ月は、NFTを通じて誰もが利益を得られるように思えた。NonFungible.comによると、2021年の第1四半期だけでも20億ドル(約2200億円)超のNFTが取引されたほどだ。しかし、何百万種類ものNFTが作成されるなかで、著作権、盗作、詐欺などに対する懸念も高まった。
ファウンデーションは、市場を整備することで、高品質なアイテムの取引を維持。ニューヨークタイムズのコラム記事やニャンキャット(Nyan Cat)など、価値の認められたNFTを取引するためのプラットフォームへと成長を遂げた。
VCのジェフ・モーリス・ジュニアいわく、「NFT市場は騒がしく、バブル化しています。2021年は『質への逃避』が起きることで、アーティストやコレクターがますますファウンデーションを選ぶようになるでしょう」と述べる。
ミラー(Mirror):分散型出版プラットフォーム
総資金調達額:非開示
概要:いわば暗号資産版のミディアム(Medium)とでも呼ぶべき、分散型出版プラットフォーム。著者はNFTを売ることで収入を得られる。
見通し:正確な資金調達額は非開示だが、「The Information」によると、ユニオンスクエアベンチャーズによる直近のバリュエーションは1億ドル(約110億円)にのぼるという。
2021年におけるNFTスタートアップは視覚芸術に関わるマーケットプレイスや収集家アイテムを取り扱うものが多いなか、ミラーは出版に注力することで差別化を実現している。
VCのキンジャル・シャーは、「Web3.0クリエイター向けツールを開発するためのミラーの実験とコミットメントは、まさに既成の概念を覆すものです」と話す。
ヤット(Yat):絵文字ベースの本人認証システム
総資金調達額:非開示
概要:自分にぴったりの絵文字を選び購入できるサービスを提供。絵文字のユーザーネームは、URLや支払いに利用することもできるうえ、将来的にはNFTとして売ることもできる。
見通し:ヤットが2021年4月に初のオークションを開催した際は、金の鍵の絵文字が42万5000ドル(約4670万円)で落札された。
同社はセレブにも人気だ。ポップスターのケシャやミュージシャンのクエストラブは、自身のツイッターのプロフィールにヤットの絵文字を使っている。ケシャは虹、ロケット、宇宙人を使い、クエストラブはウエスチョンマークとハートマークを使っている。
ヤットの絵文字はまだNFTではないが、クリエイターたちはヤットの事業がいずれ分散化されることを期待しているようだ。
ヤットの絵文字は、本人認証システムとして「エレガントなソリューション」であり、「普遍的で、表現力が豊かで、何より驚くほど楽しい」とVCキンジャル・シャーは言う。
[原文:Here are the 10 Most Promising Crypto Startups of 2021, According to Top VCs]
(翻訳・住本時久、編集・野田翔)