セブン&アイ・ホールディングスは2022年2月期通期の業績見通しと、2021〜25年の中期経営計画を同時に発表した。
撮影:今村拓馬
セブン&アイ・ホールディングスは7月1日、米コンビニ3位スピードウェイ(Speedway)買収のめどが立ったことを受け、保留していた2022年2月期通期(2021年3月1日〜2022年2月28日)の業績見通しを発表した。
売上高に相当する営業収益は、前期比39.4%増の8兆380億円。営業利益は3.7%増の3800億円、純利益は6%増の1900億円を見込む【図表1】。
【図表1】2022年2月期連結業績見通し。
出所:セブン&アイ・ホールディングス「2022年2月期業績予想」
主にスピードウェイ買収により、海外コンビニ事業の売上高で一気に2兆1176億円を積み増すことになる。国内コンビニ事業も売上高が392億円増、営業利益で118億円増と、堅調に推移する見通しだ【図表2】。
【図表2】セグメント別営業収益・営業利益 前期増減。
出所:セブン&アイ・ホールディングス「2022年2月期業績予想」
スピードウェイのアメリカ総店舗数(2020年12月末)は3854店舗で、セブンイレブン既存店と合わせて1万3373店舗となる。米コンビニ市場におけるシェアは8.9%に達する(なお、閉店計画を加味した2022年2月末時点の総数は1万3324店舗と若干減る見通し)【図表3】。
【図表3】スピードウェイ取得に伴う店舗成長機会。
出所:セブン&アイ・ホールディングス「7-Eleven, Inc.によるSpeedway取得」
スピードウェイの魅力とリスクは、ガソリンスタンド併設店舗が8割を超えることだ。
ここで2020年をふり返っておくと、セブン&アイの海外コンビニ事業(スピードウェイ買収前)は、コロナ禍の行動制限により5500億円近い巨額の売上減を記録し、そのほとんどをガソリン売上の減少(5425億円)が占める結果となった。
ところが、ガソリン販売量やコロナ対策を含めた販管費などによる利益の減少を、プラス582億円という(1ガロン当たりの)荒利の増加が補い、営業利益の減少は2019年比でわずか39億円にとどまった【図表4】。
【図表4】前期(2021年2月期)決算における海外コンビニ事業の決算概要。ガソリン売上の推移に注目。
出所:セブン&アイ・ホールディングス 2021年2月期決算補足資料
今後もガソリン仕入れ価格や需要の変動により、スピードウェイの売上高や利益は大きくブレる可能性がある。
そしていま確実に言えることは、気候変動対策の一環として昨今急激に進む「電気自動車(EV)シフト」により、ガソリン販売は遠からず事業として成立しなくなる可能性が高いということだ。
セブン&アイはスピードウェイ買収後3年目に想定されるシナジーとして、「(他の既存店舗との)ガソリン物流統合」をあげている【図表5】。
【図表5】スピードウェイ取得によるシナジーの発現。
出所:セブン&アイ・ホールディングス「7-Eleven, Inc.によるSpeedway取得」
しかし、すでに2035年のガソリン車販売禁止を表明したカリフォルニア州の動きに代表されるように、全米でガソリン車の規制が進む可能性はますます高まってきており、物流統合が長期的な利益を生みだせるかどうかは不透明だ(統合による効率化そのものはポジティブな動きだが)。
同社ももちろんそれは強く認識していて、従来の目標を5年前倒しして2022年末までに、250店舗を対象に500台のEV充電設備を設置する計画を最近発表している。ガソリン車規制後に備えてさっそく手を打ったわけだ【図表6】。
【図表6】持続可能な社会への取組み。
出所:セブン&アイ・ホールディングス「7-Eleven, Inc.によるSpeedway取得」
アメリカでは、自動車燃料のおよそ80%がコンビニで販売されており、食品や飲料など店内での支出につながる強力な「呼び水」になっている。
調査によると、給油する客の約半数はコンビニ店内に入り、平均して15分程度滞在するという。ガソリン販売のみならず、この付随する商品需要は看過できない。
そうした展開を想定しつつ、セブン&アイはスピードウェイ買収による業績への影響を、2025年に「EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)・営業利益ともに2020年度の2.5倍以上に伸張」と表現している【図表7】。
【図表7】スピードウェイ取得後の業績見通し。左がEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の推移、右が営業利益の推移。
出所:セブン&アイ・ホールディングス「7-Eleven, Inc.によるSpeedway取得」
それでも、気候変動対策のためのコストやガソリン調達戦略など、10〜15年後に向けて大きなリスクを伴う難しい舵取りを迫られる可能性があることは指摘しておくべきだろう。
EBITDAで1兆円超えの青写真
もちろん、リスクばかりではない。
セブン&アイが業績見通しとともに発表した「中期経営計画2021-2025」にあるように、海外コンビニの平均日販(=店舗あたりの販売日額)は食品が成長をけん引して、10年前との比較で10万円前後増えている。
今後も品揃えの最適化や新しい飲食体験の提案などの効果で増加が期待される【図表8】。
【図表8】北米コンビニ事業の成長(食品による成長)に関する資料。セブン&アイが7月1日に「満を持して」発表した新たな中期経営計画より。
出所:セブン&アイ・ホールディングス「中期経営計画 2021-2025」
客単価が店頭の約1.7倍に達するというデリバリーサービス(7NOW)も、コロナ禍で売り上げを伸ばしており、取り扱い店舗数も2021年4月の約3890から2025年度までに約6500へと、大幅増をはかるという【図表9】。
【図表9】北米コンビニ事業の成長(DXの推進)に関する資料。
出所:セブン&アイ・ホールディングス「中期経営計画 2021-2025」
セブン&アイ・ホールディングスは、ネットコンビニの全国展開など国内コンビニ事業のサービス強化や効率化も進めていくとしているが、それでも、将来グループの業績を左右するのは「海外コンビニ事業の伸張」であると考えていることが資料から見てとれる。
同社は今回発表した中期経営計画で、2025年度までにEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)で1兆円以上を目指すというきわめて野心的な目標を掲げた。
その内訳としても、海外コンビニ事業のEBITDAが国内コンビニ事業を上回る展開を想定している【図表10】。
【図表10】財務の量的拡大(EBITDA・営業CF)。
出所:セブン&アイ・ホールディングス「中期経営計画 2021-2025」
セブン&アイがこれから目指すグループ像について、中期経営計画は以下のように書いている。
「セブンイレブン事業を核としたグローバル成長戦略と、テクノロジーの積極活用を通じて流通革新を主導する世界トップクラスのグローバル流通グループ」
(文:川村力)