LIMEXで作られたビニル袋。
撮影:三ツ村崇志
石灰石を主原料とした紙やプラスチックの代替素材「LIMEX(ライメックス)」を開発するTBMは、7月2日、韓国の大手財閥SKグループの投資法人SK Japan Investment Inc.(SK日本投資会社)と135億円の資本業務提携に合意したことを発表した。
SKグループは、サムスングループ、現代自動車グループに次ぐ韓国3位の巨大財閥。SK日本投資会社は、2021年5月にSKグループの4社が共同出資して日本への投資向けに設立されたばかりの投資会社だ。
同社にとってもTBMが初の投資先となり、TBMの株式の約10%を保有することになる。
LIMEXの海外展開を加速
LIMEXの主原料となる石灰石。
提供:TBM
TBMは、国内の未上場企業を対象にした日経新聞NEXTユニコーン調査(2020年)で、推定企業価値約1233億円で3位に入るなど、国内注目の素材メーカーだ。
石灰石(炭酸カルシウム)などの無機物質を50%以上含む複合素材「LIMEX」を、主にレジ袋や食品容器などのプラスチック製品の代わりの素材として提供している(名刺など紙製品の代替素材としても使用可能)。
LIMEXには、既存のプラスチックリサイクルの工程と分けてリサイクルしなければならないなど課題もある。
ただし、枯渇が心配される石油資源や森林資源などの消費を削減することが可能であることはもちろんのこと、仮にゴミとして燃やされた場合でもプラスチック100%からなる製品と比較して二酸化炭素の排出量を削減できる面などから注目度は高かった。
TBM広報はBusiness Insider Japanの取材に対して、今回の提携の意図をこう語る。
「現時点でTBMの売り上げは国内が主だが、LIMEXの素材及び製品の生産については、OEMを含む海外でのファブレスモデル(製品の製造工場をもたないモデル)を実現している。その結果、価格競争力のあるLIMEX Pelletを製造することができ、本格的にグローバルで勝負できる素地が整った。グローバルに広くネットワークを持つSKグループと連携することで、TBMの環境技術やLIMEX素材・製品を世界に広めることが可能となり、グローバル展開が加速する取り組みになると確信している」
今後、グローバル展開を加速させていくうえで、TBMは各顧客や国の環境対応のニーズに合わせたLIMEX Pellet(プラスチックのように加工しやすいペレット状のLIMEX)やLIMEX Sheetの用途開発を進めていくとしている。
調達した資金はそのための研究開発費用、グローバル人材採用、SKグループの事業会社との合弁事業などのために利用する予定だ。
「SKは韓国をはじめアジア、北米に強い販路を持っている。それらのエリアを中心に、SKグループと協力して、TBMの製品であるLIMEX PelletやLIMEX Sheetをグローバルに拡販したい」(TBM広報)
JV設立で生分解性LIMEX開発。中国の巨大市場見込む
TBMの山崎敦義代表(モニター手前)と、SK Japan Investment Inc.のソン・ヒョンホ代表(モニター左)。
提供:TBM
今回、TBMは業務提携の一貫として、SKグループの化学素材大手であるSKCとジョイント・ベンチャー(JV)を設立する。JVへの出資比率は、SKCが51%、TBMが49%だ。
資本業務提携で調達した資金の一部は、このJVに出資される。なお、TBMが海外大手財閥とJVをつくるのは今回が初めてだ。
JVでは、TBMが保有する石灰石(炭酸カルシウム)を活用した材料設計技術と、SKCが製造する生分解性プラスチック(PBAT)を組み合わせた「生分解性LIMEX」の開発・事業化を目指すとしている。
TBMによると、「生分解性LIMEX」は原料価格の安い石灰石を使うことで、通常の生分解性プラスチックに比べて価格競争力を持たせることが可能だとしている。
仮に生分解性LIMEXがゴミとして環境中に流出した場合、生分解性プラスチックの部分は分解されるため海洋マイクロプラスチック問題などに寄与することができそうだ。
JVでわざわざ「生分解性LIMEX」の開発を進める背景にあるのは、世界的に進められるプラスチック規制だ。
とりわけ中国では、2020年1月から省や都市レベルで次々とプラスチック禁止政策を策定している。これに伴い、環境配慮型の生分解性プラスチックの需要が高まっている。
中国循環経済協会(China Association of Circular Economy)によると、2030年までに中国の生分解性プラスチックの需要は428万トン、市場規模にして855億元(約1兆4000億円)にまで膨らむと推定されている。TBMとしても、JVで開発する生分解性LIMEXの販路や販売地域として、中国市場は重要なターゲットになると見ているわけだ。
世界的に高まるESG投資熱
ここ数年、世界ではESG投資の波が加速している。
日本国内でも、多くの企業で脱炭素を始めとした環境配慮型の経営方針の策定が強く求められている。
SK日本投資会社のソン・ヒョンホ代表は、今回のTBMとの資本業務提携について、
「SKグループが積極的にESG経営を推進するという意思を示すという点で、SK Japan Investment Inc.の初めての投資先がTBMであることは非常に大きな意味がある。今回の提携を通じて、SKグループの環境に優しい事業の成長が加速化すると確信している。今後、SK JapanはESG領域への投資機会を継続して発掘していく」(ソン・ヒョンホ代表)
とESG領域に注目していると言及している。
TBMとしても、今回のSKグループから声がかかった要因を、
「枯渇リスクのある原料の使用量を減らしながら、環境配慮型の素材を開発しており、グローバルに展開できる可能性及び価格競争力がある点が評価に繋がっている」(TBM広報)
と認識しているという。
世界的なESG投資熱の高まりは、間違いなく日本にもやってきている。
(文・三ツ村崇志)