カナダのブリティッシュ・コロンビア州上空では、記録的な暑さと山火事によって、雷を呼び起こす嵐が発生している。
大規模な火災からの熱と煙が上昇すると、「火炎積乱雲(pyrocumulonimbus)」と呼ばれる雷雲が発生する。これらの雲は、まれに竜巻を含む悪天候を作り出し、それがさらに新たな火災を引き起こすことがある。これは悪循環だ。
バンクーバーの南150kmに位置するリットンでは、2021年6月29日に気温が摂氏50度近くまで上がり、同国の新記録になった。この熱波は山火事の前兆であり、町長は住民250人全員に避難命令を出した。地元紙「City News」によると、7月1日の朝の時点で、山火事は2万エーカー(約80平方km)も広がり、リットンの90%を焼き尽くしたという。
カナダ。ブリティッシュコロンビア州のリットンを脅かす山火事。2021年6月30日。
Lytton Weather Station
ブリティッシュコロンビア州の当局は、6月30日に同州でさらに2件の火災が発生したとを報告した。
アメリカ・コロラド州立大学の共同研究大気研究所の気象学者ダコタ・スミス(Dakota Smith)は、リットン上空の衛星画像で「信じられないほど巨大な嵐をもたらす火災積乱雲の噴出」が見えたと述べた。
これには言葉がない…いくつかの点で単なる山火事のようだと思っていたが、ダコタ・スミスによると、この火災積乱雲はレベルが違う
「火を吐く雲のドラゴン」
山火事の煙の上に分厚い雷雲があるのを見つけたら、それはほとんどの場合、火災積乱雲だ。NASAによると、この「火の雲」の別名は「cumulonimbus flammagenitus」で、2つ目の単語はラテン語で「炎から生まれた」という意味だという。
一般的に雷雨は、地上の暖かく湿った空気が上昇するときに発生する。大気の最下層に入った空気は冷やされ、地表に向かって下降し、またそこで暖められて再び上昇する。この上昇と下降のサイクルが対流と呼ばれるもので、そこで積乱雲(雷雲)が生まれる。
しかし、その熱と湿気が地表からのものではなく、山火事によるものであっても、対流が起こって積乱雲が発生する。
この金床状の雲は、他の雲と同様に雨を降らせる。しかし、それらはしばしば、水滴ではなく空気を吹き下ろす「ダウンバースト」を起こす。ダウンバーストは、乾燥した空気を地上に吹き付けることで、炎の燃えカスや煙を遠くまで飛ばす。その結果、嵐の原因となった炎がさらに燃え上がる。
NASAは火災積乱雲を「火を吐く雲のドラゴン(fire-breathing dragon of clouds)」と表現しているます。また、数多くの稲妻を発生させることもあり、それがさらなる炎を引き起こすこともある。
2020年9月にカリフォルニア州で発生した山火事では、アメリカでの観測史上最大級の積乱雲が発生し、その大きさは17万5893エーカー(275平方マイル:約710平方km)にも及んだ。
2020年にカリフォルニアで発生した山火事の上の積乱雲。
Thalia Dockery
火炎積乱雲の対流する空気が渦巻き状の円柱を形成すると、嵐が「火災旋風(fire tornado)」に変化することがある。2003年にオーストラリアのキャンベラ郊外で起きた山火事では、同市周辺が2週間にわたって燃え続けた後に発生した。
複数の雲を発生させることもある。2009年2月から3月にかけて、オーストラリア南東部の1700平方マイル(約4400平方km)を焼いた大規模な山火事では、同国ビクトリア州の上空には3つの火災積乱雲(高さ1万4000mに達するものもあった)が発生した。
気候変動が原因である可能性も
オーストラリアのキャンベラ南部の山火事によって形成された火災積乱雲。2020年2月1日。
Brook Mitchell/Getty
気温の上昇と空気の乾燥は、山火事の頻度と強度の増加に関連している。また、山火事の規模や深刻さが増すにつれ、山火事を原因とする暴風雨も多くなっている。
2002年、カナダ、アメリカ、メキシコでは、そのような嵐が17件発生した。その約20年後、北米西部だけで年間平均25回の積乱雲が発生するようになったと、Yale360は報じている。
これらの暴風雨は、成層圏に届くほど高く上がることがあり、地上の煙を上空へと送り出す。それによって煙は数カ月から数年にわたって上空にとどまることもある。2018年に発表された研究によると、大きな火災積乱雲は成層圏に大量の煙の粒子を送り込んでおり、中規模の火山噴火に匹敵するという。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)