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谷口真由美さんが語る、なぜ私はラグビー界から“追い出された”のか

ラグビー谷口

撮影:安田菜津紀、Getty Images/PeopleImages

2022年1月発足を目指しているラグビー新リーグで、法人準備室長と審査委員長として中心的な役割を果たしていた谷口真由美さんが6月末をもって、新リーグの役職から完全に退くことになった。準備室長は2月に突然解任されたが、公表も遅れ、理由もいまだに判然としない。新リーグだけでなく、2年間務めていた日本ラグビーフットボール協会(以下、ラグビー協会)の理事も6月で退任となった。

一時はラグビー界改革の象徴とみられていた谷口さん外しとも見える一連の人事。背景には何があったのか。

── ラグビー新リーグの役職も、ラグビー協会の理事も退任されました。突然の準備室長解任も含めて、一体何があったのですか。

谷口真由美さん(以下、谷口):なんでそんなことになっているのかと、皆さん思っていらっしゃるでしょう。

準備室長解任の際の記事では、「谷口さんは合理的に説明ができない」「谷口さんではまとまらない」というラグビー協会やチームのコメントを見ましたが、私は長年、大学教員として研究室という「1人商店」を回してきた自負があります。ここまで「何にもできない人」「無能な人」という扱いをされるとは思いもしませんでした。

そもそも私はラグビー経験者ではないので、準備室長を依頼された当初は迷いました。でも法学者や人権関係の団体の理事として、物怖じせずに発言してきた経験や専門性を買われての依頼だと思い、引き受けたのです。

特定のチームや学閥と関係がないので、しがらみもない。ラグビー界で何者でもない私だからこそ、できることがあると思い、とにかくフェアにやることを心がけました。

ラグビー

2019年のW杯を機に日本でも人気が広がったラグビー。人気を持続させるためにも、新リーグの役割は大きい。

Getty Images/Hannah Peters

── それにしてもなぜラグビー協会の理事まで退任することになったのですか?

谷口:新リーグの理事との兼務はできないという理由でした。しかし、結果的に新リーグの理事からも外されました。

なんとなく蚊帳の外に置かれる感じ

── 谷口さんはラグビー界の外の人間、しかも女性で新リーグ準備の責任者を務めてこられましたが、仕事を進める上でやりにくさはどの程度あったのですか。

谷口:新リーグの会議の男女比は1対50とか、場合によって1対70でした。チーム関係者も協会関係者も全部男性ということが多くて。ラグビー選手のジャージは黒色が多いので、カラスの集団に一人だけ熱帯魚がいるみたいなものですね(笑)。

私の父は近鉄ラグビー部(現・近鉄ライナーズ)の監督で、家族で花園ラグビー場のメインスタンドの下にあるラグビー部の合宿所に住んでいました。女性は母と私だけという環境で育ちましたが、さすがに仕事の場でここまで男性ばかりというのは初めてでした。

── 50人の男性に対して、女性1人という状況では自分の意見が言いにくいのでは?

谷口:圧は感じますよね。女性ということに加えて、選手としての経験がないというダブルマイノリティーで、完全に外様でした。最初はどう振る舞えばいいのか、すごく戸惑いました。

協会の理事で室長という立場だったので、みなさん尊重はしてくださった。ただなんて言うんでしょう。「谷口さんは分からへんもんな。かわいそうやんなぁ」と、なんとなく蚊帳の外に置かれる。そして「この人に言ってもしゃーないから責任者を連れてこい」みたいな話の流れになっていく。「いや、私がその責任者なんですけど?」と(苦笑)。

そうしたことが、たびたびありました。

── それは、いわゆる気遣いや配慮という名の“排除”では? 男性が作り上げた組織の暗黙知が分からないから発言しづらいと、日本人の男性中心で作り上げれてきた企業や組織ではよく聞く話です。

谷口:でも責任者だったので私が原案を考え、必要に応じて協会の専務理事にも相談し、協議の上で決めてきました。ところがいざ会議の場になると、「やっぱり、こういうのは経営者の人が来てくれないと」と言われてしまう。私は請われてきたはずなのに、「なんでこの仕事を頼まれたのかなあ」と自分でも分からなくなることがよくありました。

スタートラインを整えるだけではダメ

働く女性管理職

機会の平等だけでは本質的な男女平等は実現しない。結果の平等を実現するために、クオータ制などの数値目標が必要だという(写真はイメージです)。

Getty Images/Masafumi Nakanishi

── 今、社外取締役として他分野から女性を登用する企業が増えています。数が増える一方で、肝心の意思決定の場にどのぐらい参画できているのかとも感じます。組織のルールや内輪の論理がわからず、議論に踏み込んでいけない状況です。

谷口:さんざん、「昇進したがらない女たち」みたいな言われ方をしてきましたよね。でもそうでなく、そもそも機会の平等すら与えられてこなかった。今は機会の平等を形式上整え、「スタートラインに立たせてやっただろう?」と強調されている感じです。

1985年に日本が批准した女性差別撤廃条約は本来、機会ではなく結果の平等を求めています。機会の平等は形式上だけになりがちだからです。「スタートラインに立たせてやった。あとは君の能力次第」とうそぶかれ、結局そこで終わってしまう。

けれど、実のところマイノリティになると、マジョリティーが有している情報の出され方などにそもそもの差があって、結果として差がついてしまうものです。 だから、パリテ法やクオータ制(※)だという実質的平等をちゃんと求めなければいけないのです。

結果の平等を求めながら、暫定的な措置として一定期間、実質的平等な状態を維持し、女性がいるのが当たり前の光景にしていく。そうしなければ現状が固定化され、マイノリティーはいつまでたってもそのままの状態です。

でも、こうしたジェンダー研究をしてきた私自身が、いざそういう現場の中に入った時に、まず思い知ったのが、組織内のルールさえ教えてもらえないということでしたね。

さらにスポーツ界の難しいところは、企業のように株主がいるわけではない。それが女性差別の解決を含めた改革を難しくしているように感じます。

※パリテ法は、男女平等の政治参画を規定するフランスの法律。選挙の候補者数を男女同数にするなどを定める。クオータ制は国会や地方議会などの選挙で、候補者や議席数の一定割合を男女に割り当てる制度

── スポーツ団体ではこれまでもハラスメントや、長年トップに君臨する人による独裁的な運営が問題になってきました。運営の実態へのチェックも甘くなるということでしょうか?

谷口:ラグビー協会も含めスポーツ団体は、公益法人であれば公益に資する存在でなくてはいけません。情報公開をして運営や財務もチェックされなくてはいけない。社会に対する責任もあるけれど、公益性の高い団体を運営しているという意識がどこまであるのかと思うこともよくありました。

昔ながらの方法で「こういう風にやってたらええねん」という空気があり、何かといえば弁護士が出てきて「法的には問題ない」という。法学の世界では「法は倫理の最低限度」という言葉があり、法の前に人としての正しさ、倫理観、誠実さが求められる。でも、そこの意識があるのかどうか。

一方で、チームは企業主体なので、そちらの論理で迫ってくる。うまく噛み合わない場合、トップに個人的に会いにいって裏ルートで何とかしようとする。表でも裏でも毅然と対応するぐらいの強い意思が上層部全体になければ、改革は難しいと思います。

役割を果たすには情報格差の解消を

森喜朗元会長

今年2月の森発言によってスポーツ界での根深いジェンダー不平等問題や意識が露わになった。

REUTERS/Yoshikazu Tsuno

── スポーツ界も競技団体の幹部や監督に女性が占める割合が低く、ジェンダーギャップの大きい世界です。スポーツ庁は競技団体の女性理事の割合を40%以上とするガバナンスコードを策定し、ギャップ解消に取り組もうとしています。谷口さんは外れましたが、ラグビー協会は6月の役員改選で女性理事を増やし、24人中5人から25人中10人にはしました。

谷口:数が増えたことは良かったと思います。しかし、自分の経験からも無給の非常勤で月1回の理事会で報告を受けるだけでは、圧倒的に協会側との情報量が違う。その中で、間違いを指摘したり意見を言ったりするのは相当難しい。

「話が長い」と揶揄(やゆ)されるほど私たちは言うべきことは言ってきましたが、最終的な意思決定はどうしても、協会幹部に一任せざるを得ないことも多かった。

女性や外部人材の数を増やすことはとても大事ですが、その人たちが役割を果たすには、情報格差をなくす努力をするなどは必要だと感じます。

── スポーツ庁が示した女性理事4割というのは大事な基準ですが、4割をどういう人で構成するのかも大事ですよね。

谷口:「それぞれのジャンルで活躍されている方」といった基準ですが、活躍されている女性が、まだまだ男性中心の常識で回っている組織にいらっしゃることも多い。生きてきた組織や引き上げてくれた人がわきまえろというタイプだった場合、意見は言いにくいでしょう。紐付きでない人を採用するなら、公募制という形をとってもいいのかもしれません。

もう一つの問題は、ラグビー協会で理事を女性5人にする時にもあった、「次に、自分はようやく協会の理事になれる」と思っていた男性がなれなかったということです。

谷口さん

ガバナンスを重視し、ファン目線での新リーグ立ち上げに奔走してきた谷口真由美さん。新リーグの役職だけでなく、ラグビー協会理事からも退任することになった。

撮影:安田菜津紀

── 男性が席を失う問題ですね。

谷口:女性登用にはいまだに、「女性優遇だ、逆差別だ」「男でも女でも能力あったらええねん」という声があります。でも、それはマジョリティーの論理です。

今活躍している女性は、活躍している男性の何倍も能力が高い可能性が大きい。それぐらい努力をしないと認められてこなかったからです。

それをなかったことにして、「能力があったらどっちでもええねん」とマジョリティーと同じ文脈でマイノリティーを語るのは無理があります。マジョリティーがぼんやりしていた間にマイノリティーが追い上げてきたからといって、「なんであいつらに椅子渡さなきゃならないねん」と言われてもね。

もともと下駄をはいていた人たちに言いたいのは、そろそろ下駄を脱いだらどうですか、見下す目線やめてくださいということです。そしてスタートラインにも立てていない女性たちは、社会で支援しないといけないと思います。

「俺たちのルール」でのお手並み拝見だった

#MeTooデモ

数年前に始まった#MeToo運動の影響もあり、ジェンダーギャップ解消は女性の人権の問題だと捉えられるようになっている。

REUTERS/Lucy Nicholson

── 今までジェンダー問題やダイバーシティの話は、企業など経済界を中心に、組織改革のため、イノベーションを起こすために、あるいは労働人口が減るから女性にももっと活躍を……といったロジックで語られてきました。でもここに来て、意思決定の場から疎外されることは、女性の機会を奪っている、差別の問題であり人権の問題だという流れになっています。

谷口:おっしゃる通りです。女性差別を解決しようとするとき、これまでは根拠として経済的合理性が語られて、そういう論理が受け入れられてきました。

安倍政権の文脈における女性活躍推進法の本音は新自由主義が先鋭化したものだと、私は批判をしてきました。「これで数は増やせるから」「清濁併せ呑まなきゃいけない」というのが、女性活躍推進法だったと思います。

そのことすら理解せず、キラキラした女性活躍のみが“活躍”かのように振る舞う人たちは、結局わきまえている。わきまえさせられている。状況の中に全部組み込まれてしまっている。これはある種のマインドコントロールです。

俺たちのルール(論理)に従うか?と踏み絵を踏まされ、「このゲームの中でやれるもんならどうぞ。お手並み拝見」と言われる。あげくに女性は3割が目標だと。いやいや、だったらなんで3割? 雑な話になりますが、人口で言えば半分でしょうと。

やっとここに来て少しずつ気づき出した人が増えていると感じます。言語化できないこの妙な居心地の悪さに。この居心地の悪さは人権を踏みにじられているからだ、ということに。

差別は道徳や優しさでは解決しません。人権問題は本当に勉強して、全員で考えをアップデートするしかない。そもそも人間は排他的な動物です。自分の仲間以外に対して、すごく“いけず”なんですよ。それを違う集団とも平和に暮らしていくために考え出したのが人権という概念です。

── 基本的な人権の意識を持たないまま、組織改革をしている風に見せなくてはいけない。だからアリバイ的に女性を登用するけど、本質が理解できていないから、森発言のような本音も出るし、改革のために意見を言う谷口さんは外されるということでしょうか。

谷口:いろいろな組織でうっかりすると、すぐに男性一色の世界に押し戻されることは起こりがちです。

意思決定者の中で、マイノリティーの割合が35%を超えると決定内容がひっくり返ると言われますが、そこまでいくのには、よほど意識的にならないと無理でしょう。

どれだけの男性トップに、その意識と覚悟があるか。「周りが言ってるから」という意識レベルで始めると、「よく分かんないんだよね」で終わる人が増えるだけです。セクハラという言葉が出た時と同じで、「こんなん言うたらセクハラって言われるから言わんとこ」というのと、今のレベルは同じではないでしょうか。

私はラグビーの世界から退場させられましたが、女性の理事が発言するという灯火(ともしび)を消さないようにしないといけない。もう(国際女性デーのシンボルである)ミモザを松明にしたらええんちゃうかなと思います(笑)。みんなでミモザをかわいく持っているだけでなく、松明にして燃やしてみんなで、「いくでー!」とならないといけないんじゃないかと思いますね。

(取材・浜田敬子、構成・浜田敬子、三木いずみ

編集部より:初出時、ラグビー新リーグの発足予定を2021年1月としておりましたが、正しくは2022年1月です。お詫びして訂正致します。 2021年7月5日 11:30

谷口真由美:大阪府出身。法学者。専門は国際人権法、ジェンダー法、憲法など。大阪芸術大学の客員准教授。「全日本おばちゃん党」を立ち上げ、社会問題を“大阪のおばちゃん目線”で追求し、テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍してきた。2019年6月、日本ラグビーフットボール協会理事に就任。2020年1月にラグビー新リーグ準備室長に就任。その後新リーグ審査委員長も兼任するが、2021年2月に準備室長は退任。6月には協会理事、新リーグ審査委員長も退任。

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