マイクロソフトは突如として、ゲーム機をめぐる競争の一プレイヤーから一躍、業界のディスラプター(創造的破壊者)となりそうだ。
2021年6月に開催された世界最大級のゲームイベント「E3」において、マイクロソフトはリリース予定の最新Xbox用ゲームタイトルを発表した。しかしそのゲームでは、必ずしもXboxを必要としない。マイクロソフトのゲーム・サブスクリプション・サービス「Game Pass(ゲームパス)」や、iPhoneやiPad上でもプレイできるものがあるからだ。
一方、任天堂は得意のアプローチを踏襲している。ヒットした既存作品に登場するキャラクターの見せ方を変えるというもので、目新しくはないがこれまでのところ手堅い方法と言える。
今回のE3に不参加だったソニーも、同じく従来の方法を続けている。少数のプレイステーション(PlayStation:PS)専用ゲームタイトルをリリースするというものだ。
だがゲーム機戦争は、新たな局面に入った。従来のルールで競争するゲームメーカーにとっては試練の時代と言える。3Eでの発表が示すように、マイクロソフトが描く未来ビジョンはライバル企業よりアグレッシブだ。
2021年のE3は、マイクロソフトとソニーが前年11月にそれぞれ新コンソールを発売してから初めて開催された。クリスマスシーズンに向けて売上を伸ばすためにも、E3でゲーマーに好印象を残すことは両社にとって非常に重要だ。
前回の新コンソール発売競争をめぐっては、PS3とXbox Oneはともに出遅れた。それもあって、両社はE3におけるユーザーの意見がいかに重要かを痛感している。
以降では、ゲームメーカー各社の主な動きと、その動きが今後数年にわたって業界にどのような影響を与えるかを見ていくことにしよう。
マイクロソフトよ、ゲームはどこにある?
マイクロソフトが2017年に開始したゲームのサブスク「Xbox Game Pass」。
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ゲーマーは移り気だ。それだけに、ゲーマーがマイクロソフトの動きを辛抱強く待っているというのは、驚くべきことだ。というのも、2020年11月にマイクロソフトがXboxシリーズXとSを発売して以来、リリースされた専用コンテンツはほんのわずかだからだ。
その間、マイクロソフトはGame Passを開始。2021年4月20時点のユーザー数は2300万人と、大成功を収めている。そこにはマイクロソフトの工夫が見られる。ユーザーは、ゲーム1タイトルを60ドルで購入する代わりに、1カ月当たり10ドルを支払うことでGame Pass上で好きなゲームを楽しめる。
マイクロソフトは後方互換性(過去作品との互換性)も向上させている。1秒当たり30フレームだった旧作品約100点を、同60フレームでプレイできるようにした。Game Pass上でプレイできるゲームも増え続けており、その中にはかつてはPS専用だった『MLB The Show』もある。ユーザーの満足度は高い。
とはいえ、今でもほとんどのゲーマーは、大きくてピカピカな新しいコンソールを買い、大きくてピカピカな新しいゲームをプレイする。
彼らは、スマホやパソコン上でストリーミングや対戦ができても見向きもしない。動作認識デバイスKinect(キネクト)によってコンソール以外のデバイス上で同じようにゲームができても、家庭用ゲーム機Xbox Oneの売上が倍増しても、やはり見向きもしない。
こうした教訓から、マイクロソフトは遅まきながらゲーム機戦争の最終ラウンドに挑んでいる。
だからこそマイクロソフトは2021年のE3までに、ユーザーが楽しめる新ゲームを制作できることを証明する必要に迫られていたのだ。
過去6年間、マイクロソフトはZeniMax Media(ゼニマックス・メディア)を75億ドル(約8250億円)で買収したのをはじめ、6つのゲームスタジオを買収した。投資家は、こうした投資がリターンを生むことを期待している。
つまりマイクロソフトは、同じ過ちを犯さないこと、そしてクラウドコンピューティングなどの巨大事業に集中するあまりゲーム事業を無視しているわけではないことを示す必要があったのだ。
マイクロソフトの切り札
ビデオゲーム「ハロ(Halo)」の新作『ハロ・インフィニット(Halo: Infinite)』。
343 Industries
マイクロソフトは、E3で実施したショーケースイベント「Xbox and Bethesda」で、『Elder Scrolls』や『Fallout』といった人気タイトルの新作にユーザーが直接アクセスできることや、ZeniMaxの買収によって今後ベセスダがリリースするヒット作品を扱えるようになったことを強調した。
ショーケースの冒頭では、ユーザーが待ち望んでいた作品『Starfield』が2022年11月11日にリリースされることが発表された。また終盤では、ベセスダのアーケインスタジオが制作する『Redfall』が2022年夏にリリースされることもサプライズ発表された。
マイクロソフトは、Xbox専用や専用以外を含めて30作品を順次リリースすると発表した。注目すべきは、うち27作品がGame Pass上でもプレイできるということだ。これはサブスクリプション型、つまりGaaS(Game as a Service、ゲームのサービス化)としてのGame Passの価値を示すものだ。
Xbox専用作品としては、『サイコノーツ 2(Psychonauts 2)』が8月に、また『Halo Infinite』がクリスマスシーズンに、それぞれリリースされる。
ほかにも専用作品として『Microsoft Flight Simulator』もリリース予定だ。これは、PCからXboxシリーズSやXに取り込めるコンテンツだ。また、『フォルツァ・ホライゾン5(Forza Horizon 5)』が11月にリリースされる。
怒濤の新作リリースが示すのは、マイクロソフトの戦略がついに実を結びつつあるということだ。
マイクロソフトは、xCloudをアップルのiOSプラットフォームと連携させた。つまりユーザーは、早ければ6月から、好みのゲームをiPhone上でプレイできるようになる。今回のE3では、マイクロソフトが、数多くのゲームを安価に提供できるよう工夫を重ねてきたことが示された格好だ。
ソニーのリードはいつまで続くか
2021年4月にリリースされたPS5の『Returnal(リターナル)』。
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ソニーの反応は、沈黙のみだ。
ソニーは2021年のE3にも登壇せず、不参加はこれで3年連続になる。もっとも、ゲーム機戦争の勝者であるソニーは、他社と並んで登壇する理由がないのだろう。アップルがCESテック・カンファレンスにあまり参加しないのと同じなのかもしれない。
ソニーの優位は長年続いている。2015年にソニーの優勢が明らかになって以来、マイクロソフトはXboxの売上を開示していない。そのため、直近のコンソール売上において、PS4がXboxをどれほど上回っているかは不明ではあるものの、大方の推計では、PSの販売台数約1億6400万台に対し、XboxOneの販売台数は約5000万台にとどまると見られている。
これだけ多くのユーザーが既にPSのエコシステムに投資をし、ソニーのゲームにハマっているのだから、PS5を売り込むことはさほど難しいことではない。成功は成功を生む。PS5の発売以来数カ月の売上を見れば、成功の大きさが分かる。
ソニーの年度末である3月末までに、PS5の販売台数は780万台に達した。この数字は、新コンソール発売から5カ月の売上としては全米最高額を塗り替えたという(ビデオゲーム業界の売上を集計しているNPDグループ調べ)。PS5はその後も販売台数を伸ばし続けており、マイクロソフトのXboxシリーズXとSは、大きく水を開けられている。
PS5が成功した要因のひとつは明らかにそのユーザー基盤の大きさだが、それ以外に、専用ゲームの豊富さも挙げられる。マイクロソフトとは異なり、ソニーは、コンソールの処理能力を活用したゲーム作品を、ゆっくりとではあるが安定的に提供するという、コンソール・メーカーのルールを堅守してきた。
大きくてピカピカの新しいコンソールで、大きくてピカピカのゲームをプレイする——これぞまさしく、ゲーマーが望むことだ。
マイクロソフトはGame Passの作品を拡充し、後方互換性を高めることで、遊べる作品が少ないという不満が出るのを抑えてきた。ソニーにはその懸念はなく、年内にPS5専用作品を多数リリースする予定だ。
ソニーは、4月にリリースした『Returnal』が既にヒットしている。6月にはユーザー待望の『Ratchet & Clank: Rift Apart』をリリース。さらに9月には『DEATHLOOP』、10月に『Ghostwire: Tokyo』、クリスマスシーズンに『Horizon Forbidden West』をリリースする。これらは大人気の専用ゲームで、PS4の記録的売上につながった作品だ。ソニーは従来の戦略を続けている。
売上を見ると、ソニーの戦略は功を奏しており、直近のゲーム機戦争においても勝利を収めている。しかし、それはこれまで、マイクロソフトが試行錯誤の段階にあったゆえの勝利なのかもしれない。
馴染みのある任天堂キャラクターたち
任天堂の『あつまれ どうぶつの森』はコロナ禍の追い風で記録的なヒットとなった。
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「ゲーム機戦争」という呼び名は、最近の状況を適切に表現していない。コンソール発売におけるソニーとマイクロソフトの接戦を見ると、「コンソール対抗戦」といった状況だ。
市場シェア獲得のための新コンソール対抗戦が繰り広げられるなか、任天堂の存在が忘れられがちだが、同社のNintendo Switchは発売から4年目を迎え、想定ライフサイクルの半分に至っている。
そこへコロナ禍が発生した。『あつまれ どうぶつの森』がリリースされたのはその直後のことだ。
その数カ月前まで、ゲーマーの間ではマイクロソフトとソニーの大きくてピカピカな新しいコンソールの話題で持ちきりだったのに、コロナ禍によって突如、皆がSwitchでゲームをするようになった。
任天堂の人気は、人々が巣ごもりする中でハマった『マリオカート8 デラックス』のような、最近のヒット作品のおかげと思われがちだが、実は任天堂のゲームは以前から人気が高い。Switchは、2018年12月以来30カ月間で最も売れたコンソールだ。その最大の要因は、任天堂が持つ非常に強力な知的財産権(IP)だ。
ユーザーは任天堂のキャラクターを愛し、お気に入りのゲームに何度も戻ってくる。このことは数字が裏付けている。直近の決算発表によると、任天堂のゲーム売上の約60%は旧作品の売上だ。
2018年リリースの『大乱闘スマッシュブラザーズ:アルティメイト』と2017年リリースの『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は、Switch用ゲームの中で、それぞれ3位と4位の売上を誇る。『スーパーマリオ3Dオールスターズ』のような古典作品のリマスター版の売れ行きも好調で、前四半期の販売本数は900万本に達した。
ソニーはスタジオを強化し、効果的なIP創出に注力している。マイクロソフトは資金力にモノを言わせ、Game Passサービスの拡充を推進している。
任天堂のキャラクターは、デビューから数十年が経過し、今日ではどの家庭でもお馴染みの存在となった。
2021年は、任天堂がファミコン用のゲームソフト『メトロイド』の1作目をリリースしてから35周年にあたる。同じく、小型ゲーム機ゲーム&ウオッチで遊べる『ゼルダの伝説』のリリースからも35周年だ。2020年9月には『スーパーマリオブラザーズ』が初登場から35周年を迎えた。また、任天堂は『ポケモン』誕生25周年販売拡大キャンペーンを開始しており、2021年いっぱい継続する。
任天堂は、自社キャラクターの人気度をよく認識している。それは、E3におけるプレゼンにも表れていた。プレゼン『Nintendo Direct』の中で、特に2つのタイトルが大々的に紹介された。
ひとつは『メトロイド ドレッド』。長寿シリーズ初の新版だ。もうひとつは、ベストセラー『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の続編だ。2022年にリリースされる予定で、プレゼンでは感嘆符付きで紹介された。
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)
[原文:Here's how Microsoft is preparing for a future without Xbox and PlayStation video game consoles]