複数の関係筋によると、アマゾンは仕事効率化アプリ市場におけるマイクロソフトの独占状態に対抗するため、「反乱同盟」を結成しようと他社に働きかけているという。
この動きはまだ構想段階だが、ソフトウェアメーカー各社と提携して仕事効率化アプリのバンドルを単一価格で提供することを目標としている。
法人顧客はアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウドプラットフォームを通じてシングルサインオン(1回のユーザー認証で複数のウェブサービスやアプリケーションにログインできるようにする仕組み)や一括請求などの機能を備えたパッケージを購入できるという。
関係筋によると、アマゾンはこのバンドル製品について、Dropbox、Slack、Smartsheet(スマートシート)などとすでに複数回協議したという。この動きはAWS内部で「反乱同盟」と呼ばれているが、これは邪悪な銀河帝国と戦うため「反乱同盟軍」が団結する映画『スター・ウォーズ』から着想を得た名称だと思われる。
協議は1年以上前から続いているが、このほどジェフ・ベゾスに代わってアマゾンCEOに就任したアンディ・ジャシー(元AWSのCEO)はまだ正式に契約を結んでおらず、自社のチームに対しては過去に何度か、もっと説得力のあるプレゼンをするよう求めているという。協議はまだ続いているのか、また、AWSの新CEOとなるアダム・セリスキーがこれを支持しているのかは不明だ。
アマゾンにコメントを求めたが、回答は得られなかった。Dropbox、Slack、Smartsheetもコメントを差し控えるとした。
バンドルは、個々の企業から別々に製品を購入するのではなく、さまざまなビジネスアプリをまとめて購入したいと考えている企業にとって、購入処理を簡略化するのに役立つだろう。また、文書作成、表計算、ビジネスチャット、テレビ会議など多様なサービスで市場をリードしているMicrosoft 365製品群に代わる製品を生み出すことにもなる。
アマゾンにとってさらに大きな目標は、AWSが同社の主力クラウドインフラ事業を超えて、仕事効率化アプリの領域にまで業務範囲を拡大できるよう支援することだ。
AWSは依然としてコンピューティングパワーやデータストレージなどのクラウドインフラストラクチャサービスから収益の大半を得ているものの、ビジネスアプリ(広義のSaaS)の分野への進出では大きく後れをとっている。
AWSは数年前からこの収益性の高い市場に参入しようとしてきたが、現時点ではほとんど成果を上げていない。Dropbox、Tableau(タブロー)、Slackなどと直接競合する製品をいくつか発売してきたが、どれも大成功とは言い難い状態だ。
AWSは先ごろ、企業向けメッセージングサービスのWickr(ウィッカー)を買収すると発表したが、この決断は、暗号化メッセージングアプリ「Signal(シグナル)」の買収を検討していたことと、政府機関の顧客からセキュリティに対する需要が高まっていたことを受けたものだ。
先ごろアマゾンCEOに就任したアンディ・ジャシー。
Amazon提供
会議で聞かれるのはマイクロソフトに関することばかり
AWSのアプリ事業チーム内では最近、幹部が頻繁に入れ替わっている。Insiderが2021年5月に報じたように、アプリケーション担当シニアバイスプレジデントのラリー・オーガスティンは就任から2年も経たないうちに突然辞任した。関係筋によると、彼は「反乱同盟」のバンドル製品の構想を強く支持していた。
他にも、最近辞任した人物としてはAWSのビジネスインテリジェンスおよび分析サービス担当シニアバイスプレジデントのドロシー・リー、仕事効率化アプリのグローバル責任者のヤセル・エル・ハガンがいる。
同関係筋によると、ジャシーはAWSの幹部を長年務めた人物を苦戦中の事業の責任者に任命したいと考えており、オーガスティンの辞任後、AWSのグローバルインフラストラクチャ担当シニアバイスプレジデントを務めていたピーター・デサンティスを同アプリ事業の統括責任者に任命したという。
このプロジェクトに詳しい人物によると、AWSにとってバンドル構想は、クラウド分野におけるマイクロソフトの脅威の高まりを受けてのものだという。
この人物によると、マイクロソフトのAzureはクラウドコンピューティングの分野で追い上げを見せており、すでに主流となっている「Office」製品群とバンドルすることで、AWSにとってはさらに強大な競争相手になる可能性が高い。AWSでの会議ではこのような論点がよく出てきたと同関係筋は言う。
「アマゾンは競合他社を意識しているわけではないと言っていますが、どの会議もマイクロソフト、マイクロソフトと、マイクロソフトに関するものばかりでした」
AWSのソフトウェアバンドルは、目的別に個別のアプリを購入しようとしている企業顧客には魅力と映るだろう(業界用語では「ベスト・オブ・ブリード(最高の組み合わせ)型アプローチ」と呼ばれる)。これならば、例えばマイクロソフト1社からすべての製品を購入するのではなく、社内チャットにはSlackを、クラウドストレージにはDropboxを、というように組み合わせて購入できる。
ベスト・オブ・ブリード型のアプローチは近年人気が高まっているが、それでも特に中小企業にとっては、個々のアプリにお金を払って管理することが頭痛の種になるおそれがある。
AWSのビジネスアプリ(既存のものであれ、新たに開発しようとしているものであれ)が、すでに広く普及しているソフトウェア上で本格的な基盤を築くのはもう手遅れかもしれないことを考えると、ベスト・オブ・ブリード型のアプローチはAWSにとってもプラスに働くかもしれない。
さらに、人気の高いビジネスアプリの多くはすでにAWSのインフラ上で展開されているため、これらのアプリの利用が増えればアマゾンの収益増にもつながるだろう。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)