米ゼネラル・モーターズ(GM)の電気自動車(EV)ラインナップに加わる「ハマーEV」。同社はじめレガシー自動車メーカーに熱い視線が注がれている。
GMC
米電気自動車大手テスラ(Tesla)の株式市場における躍進は、この2年間の自動車産業では最高のサクセスストーリーと言える。ただ、レガシー自動車メーカーもやられっぱなしではなく、ここに来て盛り返しを見せている。
米投資調査会社CFRAの自動車アナリスト、ギャレット・ネルソンはInsiderの取材に対し、次のように語る。
「自動車業界は競争が激しく、資金や物的リソースへの需要も切迫しており、なおかつ利益率が低いので、収益規模に比べて安い価格で取り引きされがちです。そんなわけで、従来から投資家は自動車メーカーをあまり気にかけてきませんでした」
そうした流れが変わり始めたのは、テスラ株の急激な値上がりがきっかけだった。
2019年後半に40ドル台で推移していたテスラの株価は、2020年に行った株式分割の調整後、2021年1月のピーク時には900ドル超に達した。同時期、中国EVスタートアップのニオ(NIO、蔚来汽車)の株価も急騰している。
「行き過ぎた過小評価」
米ゼネラル・モーターズ(GM)、米フォード(Ford)、独フォルクスワーゲン(Volkswagen)といった大手自動車メーカーの株価は当初、この動きに追随することはなかった。
2019年7月1日から2020年6月30日の株価を見ると、フォルクスワーゲンの株価は6%、GMは34%、フォードは41%、それぞれ下落した。
米投資運用会社ハリス・アソシエイツのポートフォリオマネジャー、ジャスティン・ハンスはInsiderの取材に対し、状況を次のように説明する。
「投資家は、テクノロジー先行型のスタートアップがそのうち自動車業界の巨人たちを追い抜く日を想定して資金を投じていました。結果として、2020年半ばには、レガシー自動車メーカーの株価は「行き過ぎた過小評価」の水準にまで入り込んだように思います」
ところが、新型コロナの世界的大流行と半導体チップの不足という危機のさなかにもかかわらず、レガシー自動車メーカー各社が市場予想を上回る業績を発表したのをきっかけに、投資家たちは態度をあらため、ガソリン車の消える未来に備えようというメーカーの論理を支持するようになった。
2020年7月1日から2021年6月30日の株価の推移を見ると、GM、フォード、フォルクスワーゲンの3社とも90%以上の上昇。とくに、2021年上半期は3社ともテスラを超える上昇率を記録した。ただし、株価そのものは3社ともテスラを下回ったままだ。
パンデミックや半導体不足など、自動車メーカーにとって不安の種が尽きない時期が続くものの、自動車メーカーの収益はさほど悪化していない。フォードの第1四半期(1〜3月)は前年比で利益倍増、同四半期のGMの利益は40%増を記録した。
バンク・オブ・アメリカの自動車アナリスト、ジョン・マーフィーはこう指摘する。
「半導体不足には希望の兆しとしての一面もある。自動車の生産台数が軒並み減少している状況を受け、自動車メーカーは販売価格を引き上げることができるからだ」
実際、GMとフォードは販売価格のトレンドが良好に推移したことを第1四半期の業績好調の理由にあげている。
レガシー勢のアドバンテージとは
自動車メーカーは最近の堅調な業績を背景に、より大胆なEVシフト計画を打ち出している。
GMは2021年1月、2035年までに全車種をEVに切り替える方針を明らかにし、その5カ月後には、今後5年間に計画していたEVおよび自動運転車への投資額を75%引き上げると発表した。
フォードも2021年5月、2025年までのEV向け投資予定額を30%以上積み増し、「マスタング・マッハE」「ハマーEV」など新車種の発表やお披露目で活気を呈している。
ただ、こうした熱気を長く維持して収益に結びつけるのは簡単なことではない。
自動車メーカーは当面、微妙なバランスを保ちつつの経営を強いられるだろう。
消費者の購買意欲が十分に高まっていないうちにEV一辺倒になってしまうと、良くても数カ月、場合によっては数年の販売不振に陥る可能性がある。何と言っても、2020年のアメリカ自動車市場におけるEVのシェアはまだたった2%にすぎないのだ。
しかし、だからと言って手をこまねいていると、よりアグレッシブな戦略をとるライバルにすべてを持っていかれるおそれもある。
創業100年以上の歴史を誇るレガシー自動車メーカーは、新興EVスタートアップにはないアセット(資産)を有している。数十年にわたる製造分野での知見や、新型車種の開発に向けて株式や社債に頼ることなくキャッシュフローでまかなえる資金力などがそれだ。
もしレガシーメーカーがそうした圧倒的なアドバンテージを有効活用できるなら、EV革命恐るるに足らず、ということになるだろう。
[原文:GM and Ford have overtaken Tesla as the auto industry's hottest stocks. Analysts explain why]
(翻訳・編集:川村力)