全固体電池の開発で有望株とされる米クアンタムスケープ(QuantumScape)のウェブサイトより。強力な人材を引き込んで飛躍を遂げるか。
Screenshot of QuantumScape website
電気自動車(EV)の普及拡大を背景に、より安全で高品質な車載電池の実現に取り組むスタートアップが出てきている。
そうしたスタートアップの一角、米カリフォルニア州に本拠を置くクアンタムスケープ(QuantumScape)は、テスラ出身のエンジニアを採用してプロダクト開発をスケールアップし、次世代車載電池の実現に近づきつつある。
クアンタムスケープのコアプロダクトは「全固体電池」。現在主流のリチウムイオン電池に比べて多くの利点がある。とりわけ、エネルギー密度が高く、寿命も長く、高出力で、発火や爆発の危険性が低いのが特徴だ。
大手自動車メーカーや投資家もその可能性に注目する。全固体電池の開発を手がける企業には、国籍を問わず巨額の資金が流れ込んでいる。
クアンタムスケープは、(マイクロソフト創業者の)ビル・ゲイツ率いるブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ、独フォルクスワーゲン、ベンチャーキャピタルのクライナー・パーキンスらの注目を集め、これまでにおよそ20億ドル(約2200億円)の資金調達に成功している。
そしてそのクアンタムスケープに、EV市場拡大をけん引するテスラでエンジニアリング部門を率いたセリーナ・マイコライチャックが加わった。
研究・開発中の有望な技術を、プロダクトの製造段階へと移行させるのが彼女の仕事だ。
テスラからウーバー経由で北米パナソニックへ
北米パナソニック時代のセリーナ・マイコライチャック(Celina Mikolajczak)。冒頭では13歳の長男(2020年時点)がいると語る。
PanasonicCanada YouTube Official Channel
リンクトイン(LinkedIn)のプロフィール情報などによれば、マイコライチャックは「モデルS」の市場投入に向けてスケールアップを目指していた時期(2012〜18年)のテスラに在籍、リチウムイオン電池開発部門のシニアマネージャーを務めた。
その後、ウーバーに移籍して、マイクロモビリティ向けや電動垂直離着陸機(eVTOL)向けを含む電池関連エンジニアリング部門の責任者に就任。
2019年からは、電池産業におけるグローバルリーダーの一角、パナソニック・ノースアメリカのバイスプレジデント(電池技術担当)として活躍した。
マイコライチャックはInsiderの取材にこう語った。
「電池セルの組み立てやフルサイズでのパッケージングは、オーケストラが交響曲を演奏するのと似ています。皆がそれぞれ自分のパートに責任を持ちつつ、同時にすべてのパートをシンクロさせることで、はじめて適正な音楽が奏でられるのです。
これは非常に難しいことで、甘く見ている人も多い。大容量の電池を必要とするEVの場合、1日に数百万という電池セルを組み立てなくてはならないのですから」
マイコライチャックによれば、そうした大規模な電池生産において重要になるのは人工知能(AI)とオートメーションの力であって、彼女はそれを、ミスを極限まで減らすための安定した品質チェックシステムと組み合わせることを考えている。
マイコライチャックは7月19日からクアンタムスケープでの仕事に本格着手(移籍自体は5月に発表済み)し、試験用車両に搭載される電池セル年間20万個を生産できる、高度に自動化されたラインの開発導入に取り組む。
「プレパイロット(検証作業)用のラインは、試験用車両だけを想定して開発すべきではないと私は考えています。
アグレッシブかつ爆速でプロダクトを市場投入しようと狙っているのだから、大規模生産に移行する準備としての位置づけにすべきです。数年かけて数世代の設備更新を経て、などと悠長なことを考えている場合ではありませんから」
(翻訳・編集:川村力)