Insiderは、有力ベンチャーキャピタリストたちに、2021年現在で最も有望だと思える小売スタートアップ企業を選んでもらった。
そこで名前の挙がった企業のうち、本稿では、屋内農業やフードロス解消など小売業界におけるサステナビリティに取り組むスタートアップ企業5社をピックアップして紹介する。
なお各社の推定総調達額は、特段の記載がない限り、調査会社PitchBookの報告書に基づく。
バワリー・ファーミング(Bowery Farming):屋内垂直農業
Bowery Farming 公式サイトより
総資金調達額:4億7200万ドル(約520億円)
事業内容:バワリー・ファーミングは、垂直農業(屋内での人工光を使った農業)を行う企業だ。作物を建物内で栽培する画期的な方法を探るために、自動化、機械学習、ロボティクスを活用している。現在はウォルマート、ホールフーズ、アルバートソンを通じて13種の葉物野菜を販売する。
推薦理由:気候変動や食料難をめぐる懸念が世界的に高まっているが、こうした問題は、最新の屋内農業によって緩和できる可能性がある。
そのため投資家の間では、垂直農業を手掛ける企業への関心がますます高まっている。バワリー・ファーミングはアグリテックの先駆者的存在で、先日も植物科学の研究開発施設「ファームX」を開設すると発表したばかりだ。
バワリーを推薦したGGVキャピタルのマネジングパートナーのハンス・タンは言う。
「農業の未来にとって、地方で行う大規模スマート農業はよりサステナブルなモデルになり得る。バワリーはそのことを示唆しています」
シェルフ・エンジン(Shelf Engine):食料品の在庫管理計画
kostasgr / Shutterstock.com
総資金調達額:5392万ドル(約60億円)
事業内容:シェルフ・エンジンは、食料廃棄を減らすため、食料品の需要予測とオートメーション(自動化)を可能にするシステムを提供する。
推薦理由:シェルフ・エンジンによると、全米の食料品店では、在庫のうち平均でフレッシュ・ジュース14%、パン35%、サンドイッチ40%が廃棄される。これを防ぐため同社は、予測(日次単位での需要予測モデルの構築)、いわゆる「ラストワンマイル(物流の最終拠点から消費者までの最終区間)」の配送、食料の製造および生産といったプロセスをインテリジェントに行えるハイエンド・システムを提供する。
「シェルフ・エンジンは、サプライチェーン全体を刷新するほどの能力を有しており、食料品業界と地球環境のどちらにとっても直接的かつ具体的な恩恵をもたらしています」と前出のハンス・タンは語る。
また、イニシャライズド・キャピタルのマネジングパートナーであるゲイリー・タンも次のようにコメントしている。
「まだ創業したばかりですが、シェルフ・エンジンのおかげで廃棄にならずに済んだ生鮮食品は、創業以来100万ポンド(約453トン)にのぼります」
プラス(Plus):廃棄物ゼロのパーソナルケア製品
総資金調達額:非公開
事業内容:水を加えるだけでボディソープになる固形洗浄剤を販売。パッケージは水に溶けるため、ごみが全く出ない。
推薦理由:プラスは、美容・スキンケア市場ですでに存在感を確立したニキビパッチ、スターフェイス(Starface)の創業者が手掛ける事業。同アイテムはZ世代から支持されている。
ドリーム・マシーンのジェネラルパートナー、アレクシア・ボナトソスによると、プラスはパーソナルケア製品を環境保護の視点から再考することで「消費財業界のテスラ」になることを目指しているという。
「プラスのおかげで、テクノロジーによって生まれた問題の多くはテクノロジーによって解決できるのだ、という希望を持てるようになりました。この製品に関して言えば、テクノロジーによってプラスチックごみ問題を解決した例になりますね」
ザ・コブラーズ(The Cobblers):デジタル式靴修理
総資金調達額:非公開
事業内容:フロリダ州・マイアミを拠点とするザ・コブラーズは、スニーカーや高級皮革のハンドバッグ・衣類を専門としたクリーニング、修理、修復、カスタマイズのサービスを提供している。
推薦理由:ザ・コブラーズは、代表的な伝統産業をDXすることで、靴やハンドバッグの修理・修復を身近で簡単なものにした。2019年の創業以来、「毎月」30%以上の増収を実現し続けている。
ディアスポラ・ベンチャーズの共同創業者イラン・アベハセラは次のように説明する。
「新品を買うよりもリユースやアップサイクル(本来は廃棄物となるものに付加価値を付けて生まれ変わらせること)をしたり、中古品を購入したりする人がどんどん増えています。同社が特別な理由は、そんな時代に私たちが生きていることを証明しているからに他なりません。ザ・コブラーズはまさに、この文化自体を培っているのです」
グダー(Goodr):食料廃棄問題のソリューション
Goodr公式サイトより
総資金調達額:112万ドル(約1億2000万円)
事業内容:グダーは、企業から出る余剰食料を寄付してもらい、集荷から配布までを追跡するサービスを提供している。SaaSを通じて社会・環境面への影響に関するリアルタイムな分析レポートを提供することで、飢餓と食料廃棄問題の解決を目指す。
推薦理由:グダーは2017年にアトランタで創業。貧困世帯に対して配布できる食事の量は、創業当初は一晩につき10食だったが、2020年のコロナ禍ピーク時には一晩約360食、週2500食にのぼった。同社はまた、食料を迅速に供給するためにドライブスルーの食料品店もオープンさせている。
グダーを推薦したライトシップ・キャピタルのゼネラルパートナー、キャンディス・マシューズ・ブラッキーンは言う。
「サステナビリティを促進し、飢餓と闘うというグダーの企業理念や、同社のトリプルボトムライン(社会・環境・経済という3つの軸で評価)のモデルに感銘を受けました」
[原文:19 of the most promising retail startups of 2021, according to top VCs]
(翻訳・松丸さとみ、編集・野田翔)