ワシントンD.C.で発見された鳥。この病気によく見られる目の腫れとかさぶたの症状がある。
Leslie Frattaroli, NPS via US Geological Survey
- アメリカのいくつかの州で、謎の病気によって数百羽の鳥が死んでいる。
- この病気は、奇妙な行動をしたり、手足が動かなくなったりするという症状が伴う。
- 科学者がウイルス、細菌、化学物質などの検査を行っているが、まだ原因は分かっていない。
アメリカの少なくとも8つの州で、数百羽の鳥が奇妙な症状を伴う謎の病気で死んでいるが、専門家にも原因が分からないという。
アメリカ地質調査所(US Geological Survey)が2021年6月9日に発表したところによると、アメリカのいくつかの州で、病気になったり死んだりしている鳥が報告されており、その鳥たちには神経的な症状や目の腫れ、かさぶた状になった目ヤニなどの症状があるという。
現在、インディアナ州、オハイオ州、ケンタッキー州、ワシントンD.C.、ペンシルバニア州、デラウェア州、ウェストバージニア州、バージニア州、メリーランド州でこのような症状の鳥が報告されている。インディアナ州天然資源局(Indiana Department of Natural Resources)の鳥類学者、アリシン・ジレット(Allisyn Gillet)によると、多種多様な鳥が未知の病気で死んでいるという。
彼女はInsiderに、「我々は、この病気がどのようにして異なる種の鳥に影響を与えているのか、そして、なぜこのようにさまざまな州に渡っているのかを解明しなければならない」と語っている。
影響を受けている鳥は、一般的に家の裏庭で見られるもので、オオクロムクドリモドキ、アオカケス、ホシムクドリ、コマツグミ、ショウジョウコウカンチョウなどが挙げられている。
「まるで自分の頭をコントロールできていないかのよう」
ジレットによると、インディアナ州の野生動物リハビリテーションセンターが、同じような症状の鳥を受け入れ始めたことで、何が起こっていることに気付いたという。その鳥たちは目が見えなくなるほど目が腫れ、かさぶたができて、目ヤニが出ていた。
また、鳥たちは方向感覚を失っており、奇妙な歩き方をしたり、よろけたりするなど、異常な行動をするといった症状があった。また足の自由が利かず、仰向けの状態で足を蹴り上げるなどの行動も見られた。
「鳥たちは、まるで自分の頭をコントロールできないかのように、奇妙な方法で頭を揺らしていた」とジレットは話す。
鳥たちは人を恐れていないように見えたとの報告もあったが、ジレットは、鳥たちは目が見えなかったり、方向感覚を無くしてしまい、反応できなかったのではないかと話している。また、この病気の死亡率は高く、ほとんどの鳥が当局に報告された後に死んでいるという。ジレットによると、インディアナ州だけでもこの症状が確認された鳥の死亡例は280件に上るという。
診断機関では、鳥の検体にウイルスや細菌が含まれていないか検査し、化学物質の毒物検査なども行っている。鳥インフルエンザとウエストナイルウイルス(West Nile virus)ではないことは判明したが、それ以外のことはあまり分かっていない。「何の結論も出ていない。今のところ決定的な結果は出ていない」とジレットは話す。
要因の一つとして、最近アメリカ東部でセミが大量発生していることが考えられる。セミの発生と鳥の病気の発生時期や範囲は一致している。ジレットは、「相関関係はあるが、関連性はまだ判明していない」と話している。
エサ箱や水浴び場を撤去することで、鳥と「ソーシャルディスタンス」を取ることができる
一方で、被害があった州の関係者は、鳥が集まるエサ箱や水浴び場を撤去するよう市民に呼びかけている。
「鳥にソーシャルディスタンスを取ってもらいたい」とジレットは説明する。「我々は十分な知識がないので、適切な予防措置を取らなければならない」
またジレットは、このような症状を示す鳥を発見した場合は、地元の野生動物保護団体に報告することを推奨している。ケンタッキー州やインディアナ州のように、市民が感染した鳥の写真やビデオをオンラインでアップロードし、野生動物の病気をレポートするシステムがある州もある。
ジレットは、北アメリカ大陸の鳥類が、生息地の喪失、窓ガラスへの衝突、天敵の個体数の増加など、すでに多くの脅威に直面していることを考えると、今回の病気は特に残念だと話す。
2019年に学術雑誌『サイエンス(Science)』に掲載された研究によると、1970年以降、30億羽の鳥が北アメリカから消え、一般的な種でも減少していることが判明した。
「残念なことに、鳥の個体数に悪影響を与えている別の要因があることはまちがいない」とジレットは述べた。
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)