モデルナ社のプレスリリース。
撮影:三ツ村崇志
新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンを開発・提供しているアメリカの製薬ベンチャー・モデルナは7月7日(現地時間)、季節性インフルエンザに対するmRNAワクチン「mRNA-1010」の第1/2相試験(開発初期の臨床試験)を実施することを発表した。
「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン」は、コロナ禍で登場した次世代ワクチン。
モデルナの新型コロナウイルス用mRNAワクチンは、5月の段階で世界45カ国で使用が許可されており、契約数だけで見ると約13億回分を超えている(日経新聞より)。日本でも職域接種に導入され、7月8日の段階で約150万回の接種が完了している(首相官邸より)。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)用としては、モデルナの他にも、アメリカ製薬大手のファイザーとドイツのベンチャーBioNTechが共同開発したmRNAワクチンも世界で広く接種が進められている。
これまでの各国の接種状況から、mRNAワクチンはモデルナ製にしろファイザー製にしろ、COVID-19に対して90%を超える発症予防効果が確認されている。
また、変異ウイルスに対しても一定の予防効果が期待できるとする研究結果も報告されるなど、非常に有用なワクチンだといえるだろう。
今回、モデルナが臨床試験を実施すると発表したインフルエンザ用のmRNAワクチンも、COVID-19用のmRNAワクチンと同様の仕組みで機能するワクチンだ。
モデルナが計画する1/2相試験では、約180人の健康な成人を対象に実施される予定だ。安全性はもちろん、接種した際の反応や免疫の付き方などを評価することを目的としている。
mRNAワクチンでインフルエンザワクチンを作る意味
モデルナのmRNAワクチン。
REUTERS/Kai Pfaffenbach/File Photo
モデルナが開発するmRNAワクチンは、ウイルスの部品であるタンパク質の設計図情報(遺伝子)を組み込んだmRNAと呼ばれる分子を接種することで、細胞内でウイルスの部品を製造するタイプのワクチン。
体の免役システムが体内で作られたウイルスの部品を目印として記憶し、いざウイルスが体内に侵入してきた際にウイルスを攻撃することができる。
従来のインフルエンザワクチンは、卵の中でインフルエンザウイルスを培養。これを無害化してから体内に接種することで免疫を獲得する「不活化ワクチン」が主流だった。
ただし、モデルナのプレスリリースによると、従来のインフルエンザワクチンの効果は40%〜60%程度で、突発的な変異を発生させてしまうリスクもあったという。
WHOによると、インフルエンザの重症者数は世界全体で毎年約300万〜500万人。このうち、29万〜65万人が亡くなっていると推定されている。
アメリカでは、インフルエンザによる経済的負担が年間約112億ドルにのぼるとの推計もあることから、より効果的なインフルエンザワクチンが期待されていた側面があった。
なお日本国内でも、コロナ禍以前は感染者数が毎年1000万人程度にのぼり、数百人〜2000人がインフルエンザを直接の死因としていた。インフルエンザの流行による「超過死亡」という概念をもとに推計すると、国内での死亡者数は約1万人ともいわれている(厚生労働省)。
今回モデルナが実施する臨床試験では、季節性インフルエンザとして知られているA型の2種類(H1N1、H3N2)とB型の山形系統とビクトリア系統、合計4種類のインフルエンザウイルスに対応したワクチンを投与する予定だ。これは、一般的な季節性インフルエンザワクチンと同様だ。
モデルナの製薬パイプラインの一部。mRNAの技術を使って、さまざまなワクチン・治療薬の開発を進めている。
出典:モデルナ
モデルナのステファン・バンセルCEOは、インフルエンザに対するmRNAの治験が始まることについて
「今回の季節性インフルエンザワクチンは、将来の『呼吸器系混合ワクチン』の重要な構成要素となることを期待しています。
mRNAワクチンの利点は、異なる抗原を組み合わせて複数のウイルスを防御できることと、インフルエンザ、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)、RSウイルスなどの呼吸器系ウイルスの進化に迅速に対応できることだと考えています」
と、1度のワクチン接種で複数の呼吸器疾患に対する免役を獲得できる呼吸器系の混合ワクチンの開発を進める上でも、今回の治験開始は非常に重要だと語る。
モデルナのプレスリリースでは、mRNAを活用した技術が新型コロナウイルスのような感染症に対する効果的なワクチンとして機能することはもちろんのこと、「がん」「希少疾患」「心血管疾患」「自己免疫疾患」など、他の疾病に対しても治療薬やワクチンを開発できる可能性を秘めているとしている。
実際モデルナでは、こういった治療領域に対して、全24の開発プログラムが進行中だ。
今回のインフルエンザワクチンの開発によって、このうち15プログラムが臨床試験段階に進んだことになる(COVID-19ワクチン含む)。
(文・三ツ村崇志)