コロナ禍で2回目の夏。子どもたちは今、何を思うのか?
撮影:今村拓馬
新型コロナウイルス禍の2回目の夏がやってくる。東京都は4度目の緊急事態宣言下となった。
目下、話題の中心はワクチン接種と五輪で、経済と安全のバランスをとるための新たなルールづくりは、明確な緒が見えないまま模索されている。しかし、社会の構成員は大人だけではない。子どもたちは今、何を思うのか。
大人が決めたルールを従順に守りながらも、実はストレスを抱えていないだろうか。
子どもたちに直接思いや考えを聞く取材を続けている筆者は今回、東京都杉並区の民間学童「いおぎみんなの学校」に通う小学1年生から4年生までの14人の子どもたちを訪ねた。
※取材時期は、緊急事態宣言下、2度目の延長期間にあたった6月初旬。学童の協力を得て、外部講師を呼ぶ活動時間を使ってヒアリングを実施した。
「おじいちゃんと釣りしたい」
取材では、子どもたちへの質問に、思い思いに回答を画用紙に書いてもらった。
撮影:今村拓馬
学童の部屋を訪ねると、学校を終えて集まった子どもたちは、放課後特有のリラックスしたムードで、思い思いに過ごしていた。ただし、その顔には当たり前のように「マスク」がある。この“新しい日常”を子どもたちも受け入れているように見える。
取材チームの自己紹介を簡単に済ませ、「今日はみんなのお話を聞かせてほしいと思って、ここに来ました!」と言うと、何人かの顔がパッと上がった。ソワソワと落ち着かない様子の子もちらほらと。
最初に聞いたのは、「コロナが消えてなくなったら、やりたいこと」。弾けるように手を挙げた小学3年生男子の「野球やりたい!」という一声を皮切りに、続々、声が上がった。
「中止になった遠足に行きたい」
「よみうりランドのプールに行きたい」
「沖縄に旅行に行きたい」
「ずっと会えていない友達とお泊まり会したい」
「外食したい」「家族と一緒にお買い物したい」「ゲームのカードをたくさん買って、お店の会場でトーナメント戦をやりたい」「パーティーでコスプレしたい」「学校の校庭でみんなで鬼ごっこがしたい!」……。
これらはすべて、子どもたちにとって1年半前まで当たり前だった“かつての日常”だ。
「遠足に行きたい。中止になっちゃったから」(3年生女子)など学校行事の復活や、「おじいちゃんと釣りしたい」(3年生女子)と遠方に暮らす祖父母との対面を望む声も目立った。
「マスク、ぽーい!」
マスク生活への不満は絵にも表れている。見えていないストレスも感じているのかもしれない。
撮影:今村拓馬
画用紙を配ると、気になる絵を描き出した子がいた。
人らしき集団が武器を持って何かに立ち向かっている。「何の絵?」と聞くと、「人間対コロナの戦い!」という答えが返ってきた。 別の子が描いたのは、人がマスクを外して投げ捨てる絵。吹き出しには「マスク、いらなーい ぽーい!」。やはり、マスク生活に対する不満は溜まっているようだ。
「走ったときに息苦しくなるから、マスクを外したい」
「給食でマスクを外してしゃべりたい。今日の給食のとき、お友達としゃべりたいことあったのに、お話しできなかった」
「そうそう! コロナが始まってからずっとそうなんだよ」
「しゃべる時にはわざわざマスクしないといけないしね」
「もう全部、解放されたい!」
「みんなの学校」の高橋さんは「過剰なほどに適応しているのでは」とコロナ禍の子どもたちを心配していた。
撮影:今村拓馬
部屋の空気が徐々に熱を帯びてくる。
子どもたちの普段の姿をよく知る「いおぎみんなの学校」代表の高橋和の助さんは、少し意外そうな表情で様子を見守る。
「コロナ禍の生活が始まった1年以上前から、子どもたちが従順にマスクを着け続ける点が気になっていた。開放的に遊びたくなる年齢の子たちの本来の姿とは違うはずなのに、過剰なほどに適応しているのではないかと。けれど、こうやって話を聞く時間を設けると、予想以上に活発に意見が出てきた。少しは気持ちが解放された子もいるのではと、ホッとしている」
「『○○しちゃダメ』ってばかり言っている」
大人たちの矛盾や不公平さには子どもたちは敏感だ。
撮影:今村拓馬
2つ目の質問を投げかけた。「大人の皆さんに言いたいことはありますか?」。すると、鋭い意見が飛び交った。そのほとんどが大人への不満だ。不満の内容は大きく分けて2つ。
一つは、コロナ禍で決められたルール、あるいはその決定プロセスの不公平感だ。
「大人だけでなんでも決めないでほしい。子どもの意見も聞いてほしい」
「もうちょっと優しくしてほしい。子どもに対して怒ってばかり。『○○しちゃダメ』ってばかり言っている」
「大人だけ楽しないでほしい」(2年)
「緊急事態宣言という言葉なくなればいいのに」
もう一つは、ルールを決める側である大人たちの行動の矛盾だ。AはOKだが、Bはダメという基準の曖昧さに子どもたちも気づいている。
「総理大臣たちが外出するなって言ったのに、自分たちはしている。パーティーするな!」
「(午後)8時以降は外に出ちゃダメとか言いながら、大人たちは自由に外に出ている!それでコロナに勝手にかかって、また緊急事態宣言になる」
「オリンピックやるなら、学校の運動会もやってほしい」
「自分たちが緊急事態宣言を出したくせに外出しないで」
「映画館とか劇場とか、最初の緊急事態宣言のときは行けなかったけれど、次は行けるようになった。どうしてなのか教えてほしい」
特に何度も延長を重ねた「緊急事態宣言」に対しては、「ストレスが溜まっている」という声が多数聞かれた。
撮影:今村拓馬
「緊急事態宣言という言葉がこの世からなくなればいいのに」
「(宣言を)延長するなら大人だけにして! 子どもたちまで巻き込んでほしくない。子どもには特別なルールも考えてほしかった」
子どもにメッセージを伝えてきたか
子どもたちとの会話を通じて「大人から子どもへのメッセージの不足」を痛感した。
撮影:今村拓馬
筆者がハッとさせられたのは、「大人と子どもの立場を逆転したい」という小学4年生男子のつぶやきだった。
同学年の女子も続いた。
「本当は、子どもが自由に生きるために大人が我慢してくれるはずなのに、大人が自由に過ごして、子どもが我慢している!」
この発言をした女子は、テレビの報道で政治家がパーティーをしたと知ってガッカリしたのだという。子どもたちの目は厳しい。
このような子どもたちの不満や批判に触れたとき、大人の立場から冷静に説明したくなる事情は、すぐにいくつも浮かぶかもしれない。しかし、これまでのコミュニケーションは、果たして十分だっただろうか。
取材を通じて痛感したのは、「大人から子どもへのメッセージの不足」だった。
高橋さんも言う。
「『みんなで頑張って我慢しましょう』という制限の中で、素直な欲求を抑えている子は、大人が思う以上に多いのかもしれない。大人がもっと子どもたちに向き合い、『君たちの話を聞かせてほしい』と耳を傾ける意識を持つべきです」
「前向きな考えを押し付けてこないで」
子どもたちの思いを「まずは受け止める」ことが大事だと半谷医師は話す。
撮影:今村拓馬
とはいえ、大人側にも余裕がないのもまた事実だ。
「子どもから感情をぶつけられても、どう対処していいか分からない。だから、うまく向き合えない」という後ろめたさを筆者自身も抱えてきた。
しかし、臆せず向き合っていいのだと、コロナ禍の子どもたちの生活と心の変化について調査をしてきた半谷まゆみ医師(国立成育医療研究センター社会医学研究部研究員)は言う。
「まずは、子どもたちの気持ちを聞いて受け止めるだけでいい。子どもが訴える問題を解決しなければと背負う必要はなく、『そういうふうに感じているんだね』と受容するだけで、子どものストレスは軽減されます」
半谷医師らが子どもたちに行ったヒアリング調査では、「『おうち時間を楽しもう』とか、前向きな考え方を押し付けてこないでほしい」という意見もあったという。
また、社会のルールが変更されたときには、「理由もセットで伝えることが重要」(半谷医師)。同時に、それを聞いて子どもが感じた“気持ち”も、否定せずに聞くのもポイントだ。
撮影:今村拓馬
例えば、緊急事態宣言の延長が発表されたとしたら、“なぜ延長しなければならなくなったのか”、延長の理由も含めて子どもに伝える。
その上で、「どう思う?」と聞く。すると、「えー!もううんざりだよ」などネガティブな反応が返ってくるかもしれない。その際には「そんなこと言わず、もう少し頑張りなさい」とたしなめたりせずに、「そうだよね。うんざりするよね」と感情を受け止めるといいという。
ワクチン接種が広がる一方で、国内外で人の移動が増える東京オリンピック・パラリンピックを前に、コロナ禍の終わりは見えるようでまだ見えない。見えないからこそのモヤモヤを、大人と子どもがお互いに、もっとぶつけ合ってもいいのかもしれない。
(文・宮本恵理子)