7月6日、アマゾンの新CEOとなったアンディ・ジャシーは就任後初の全社一斉メールを従業員に向けて送った。
Insiderが入手したメモによると、ジャシーは創業者ジェフ・ベゾスへの敬意を表すとともに、革新的な文化を築く決意を改めて表明し、アマゾンを「日々改善する」と誓ったという。
アマゾンにとって今は大変重要な時期だ。高い株価パフォーマンスを維持し、従業員による労組結成や不当な待遇を受けたとの報告に対処し、規制当局から不正な商慣習だと指摘を受けた場合はそれに対応し……と数々のプレッシャーにさらされている。
Insiderでは、アマゾンの研究者で『Bezonomics(邦題:アマゾン化する未来——ベゾノミクスが世界を埋め尽くす』の著者ブライアン・デュメインと、フォーチュン500社のCEO向けコミュニケーション・コンサルタントであるエリック・ヤバーバウムに、ジャシーの最初のメモについて話を聞いた。
両氏によるとこのメモは、ベゾスの理念に対するジャシーの決意を明確に示し、ベゾスが重要課題だと認識していた従業員の労働環境問題の解決に向けてジャシーがどう取り組むかを示すものだったという。「私が何を重要だと考えているか、知っておいてください」と、ジャシーはアマゾンの社風について語った。
ヤバーバウムは「もし私がアマゾンの広報担当だったら、このメモに書いたことをそのまま宣伝に使うよう彼にアドバイスしたでしょうね」と語る。
ベゾスの顧客第一主義路線の拡大
メモの中でジャシーは、アマゾンの最優先事項について単刀直入に切り出し、自身の目標について「お客様の生活をより良くすることに日々集中し、チームメイトを大切にすること」だと述べている。
アマゾンの従業員については、配達員が忙しすぎてペットボトルに排尿している、倉庫の作業員が解雇を恐れて毎日1分単位で労働時間を記録している、従業員が週60時間体制で仕事をしている、アラバマ州の従業員が組合活動をしようとしたが失敗した、などと報じられている。
ベゾスもこうした問題については認識していた。ベゾスは2021年4月の株主宛ての書簡で、アマゾンは従業員のために「さらに努力する必要がある」と述べていた。今回のメモは、ジャシーがこのメッセージをしっかりと聞いていたことを示している。
「労働者の権利は、アマゾンのイメージにとって大きな問題になっています。ジャシーはこの点について触れざるを得ませんでした」とデュメインは言う。
ヤバーバウムも同様の見解だ。ジャシーは「アマゾンが常に正しい方向に向かっているとは限らない。変化が必要だ」と認めている点が賢明だと指摘している。
リーダーとしてのスタイルを打ち出す
アマゾンでは最近、バイスプレジデント級の幹部が大幅に入れ替わっている。従業員の中には、幹部の動きが鈍いことでアマゾンの社風に悪影響が及ぶのではないかと懸念している者もいる。
しかしジャシーは、次のような一行でこうした疑念を払拭した。
「私たちは、お客様の生活をより良くするために、大胆で革新的で長期的な賭けをする意欲を示してきました。今後もこの姿勢は変わらないでしょう。また、私たちはスピード感をもって行動します」
この発言は別の役割も果たしている、とデュメインは言う。
ジャシーは自分に「ソフトで曖昧なCEOになることを望まないで欲しい」と言っているのだと言う。ベゾスが築いた、従業員にハードワークを求める社風は今後も続くだろうとデュメインは見ている。
ベゾスに対する忠誠心を明確にする
ベゾスに代わりアマゾンのCEOに就任したアンディ・ジャシー。
Mike Blake
ジャシーは、ベゾスの下で20年にわたって働いてきたことについても触れ、そこで学んだ自身の経験を強調している。また、アマゾンという組織を心から愛していること、創業者であるベゾスへの深い尊敬の念を語っている。
ヤバーバウムによると、これはジャシーにとって、トップの交代がスムーズに行われることを従業員に保証するための手段だという。「会社の安定を求めるのは誰でも同じです。それに、誰が何と言おうとベゾスが成功者であることは確かです」とヤバーバウムは言う。
デュメインも同意見で、ジェシーはベゾスのハンドブックを「捨てていない」ことを明らかにしたのだと述べている。
従業員の士気を高める
ジャシーはメモの後半で、アマゾンがコロナ禍でも食料品やマスクなどの防護用品、生活必需品を提供し続けたことや、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)がTwitchやNetflixといった企業の需要拡大を支えたことなどを挙げ、社会的に影響力のあるこの仕事をこれからも続けて欲しいと、従業員を鼓舞している。
そしてデュメインに言わせると、終盤の部分は、今いる従業員だけでなくこれから入社する可能性のある一般消費者も感動させる内容になっている。
アマゾンは長年、顧客を満足させることを最大の目的としてきたが、「いまやどの企業も、お金を稼ぐこと以上の何らかの目的を求めている」とデュメインは指摘する。
「このジャシーのメモの終盤の部分は、朝ベッドから跳ね起きて仕事に向かいたいと思わせるようなメッセージではありません。私たちは仕事を通じて社会に貢献できていると感じたいのです。ジェシーはそれを理解したうえで、会社には顧客を満足させること以上の目的があるのだと従業員に伝えなければなりません」とデュメインは言う。
ジャシーが従業員に送ったEメール全文
アマゾニアン(アマゾンの従業員)の皆さんへ
新CEOに就任するにあたり、いくつか皆さんにお伝えしたいことがあり、このメモを書くことにしました。
まず、この役割を受け継ぐことになったことを大変光栄に思います。ジェフ・ベゾス前CEOには深い尊敬の念を抱いていますし、彼の下で直接20年近く働くことができたことは幸運でした。
アマゾンのCEOという仕事を引き継ぐことがどれほど大きな責任を伴うことなのかは十分理解しています。お客様の生活をより良くすることに日々集中し、ともに働くメンバーを大切にし、皆さんが成長しキャリアで成功できるようにサポートすることを、私だけでなく、経営陣の幅広いリーダーシップチームが約束しています。
2つ目に、私はアマゾンが大好きです。私がアマゾンの従業員になって24年以上になりますが、1997年に入社した時よりもはるかにアマゾンに情熱を燃やしています。
お客様を起点として、そこから逆算して戦略や戦術を進化させていく企業で働くというのは、当たり前のことではありません。これをやると言っている企業は多いものの、実際に実践できている企業は少ないものです。この点、アマゾンは稀有な企業と言えます。
私たちは発明家でもあります。お客様のために結果を変えたいと思うのであれば、時に自社の事業とカニバリゼーションを起こすことになったとしても、常に発明と改革を行う意思(とハングリー精神)を持たなければなりません。
私たちは、お客様の生活をより良くするために、大胆で革新的で長期的な賭けをする意欲を示してきました。今後もこの姿勢は変わらないでしょう。
また、私たちはスピード感をもって行動します。戦略的には辛抱強いですが、戦術的には短気です。スピードは、お客様にとっても、あらゆる規模の企業にとっても、あらゆる進化過程で非常に重要です。
「私の商品はもっとゆっくり届けてほしい」「私の顧客体験は古くさくなってほしい」「動きの鈍い企業で働きたい」と思う人は少ないでしょう。お客様にとって何が重要かを素早く見極め、お客様の問題を解決し、お客様の生活をより便利にし、お客様のために発明を続けていくことは、私たちの文化の中核であり、今後もそうあり続けます。
3つ目に、私の仲間であるアマゾニアンの皆さんが、私にとって非常に大切な存在であることを知っていただきたいのです。
私がアマゾンに入社したのは従業員わずか250人足らずの頃でした。現在、従業員数は120万人を超えています。特にこの10年間は、事業の拡大に伴い、急激なペースで従業員が増えています。
私たちの規模の企業で、お客様のために動こうとするこのスピード感で、何事も実験的にやってみようとするこのスタンスの中では、何もかもがうまくいくわけではありません。すぐに解決できるものもあれば、時間がかかるものもあります。それでも、私たちはこれらの課題に取り組まなければなりません。
しかし、私が皆さんのことを気にかけていること、そして私たちは日々、アマゾンをより良くするために一緒に働いていくのだということをどうか忘れないでください。
最後に、アマゾンが世界で果たし続けている役割について皆さんに思い出していただきたいと思います。これは実は、とてつもないことなのです。
私たちは日々、数千万個もの荷物を発送し、お客様にお届けしています。これはコロナ禍以前の話です。そして新型コロナウイルスの感染が拡大し、多くの実店舗が閉鎖される中で、私たちは多くの人々が必要とするマスクなどの防護用品や食料品、その他の生活必需品を手に入れる手助けをしたことで、配送量はさらに増えました。
おそらく皆さんもそうだと思いますが、私もたくさんの方から「アマゾンがあって本当によかった。もしなかったらどうなっていたか分からない」という声をかけていただきました。
またAWSを介して、何百万人というお客様のために事業の継続性を確保することもしてきました。Zoom、Netflix、Blackboard、Epic Gamesなどでは、自宅待機を強いられた多くの人々によって突如として需要が跳ね上がり、今もその状況は続いていますが、こうした局面にも対処できるようサポートも行いました(皆さんのお子さんがどのくらいEpic Gamesの「フォートナイト」にハマっているか分かりませんが、私の息子はいろいろな端末で遊べるようになってよかったと言っています:-) )。
Prime Video、Amazon Music、Twitch、Audible、Alexa、FireTVなどのアマゾン製品は、気晴らしが最も必要とされるときに、エンターテインメントや友人同士のつながりを多くの人に提供しました。
私たちは昨年1年間で50万人の雇用を創出し、初任給を15ドルに引き上げることで他社に先駆けて最低賃金を引き上げてきました(これは連邦最低賃金の2倍以上です)。多くの企業がこれに追随しており、今後もさらに多くの企業が続くことを期待しています。
さらに、私たちは190万もの出品者が世界中のお客様を相手に顧客基盤を拡大し、収益見通しを大きく変える手助けをしました。
また、2040年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成することを公約する「気候変動対策に関する誓約(The Climate Pledge)」では、より持続可能な地球の実現に取り組んでおり、いまや私たちは、再生可能エネルギーの購入企業としては世界最大手となっています。
先月、私たちはブラック・ビジネス・アクセラレーターを通じ、黒人が所有する企業を強化するための取り組みに1億5000万ドルを投じました。また、ピュージェット湾、アーリントン、ナッシュビルの各地域の世帯のために、2万戸以上の手頃な価格の住宅を確保・建設することを目的として、20億ドルの「住宅エクイティファンド」を立ち上げました。
こうした活動は始まったばかりですが、世界に極めて大きな影響を与えています。私たちが消費者、出品者、開発者、企業、著者、アーティスト、クリエイター、その他のパートナーにどのようにサービスを提供していくかについては、まさに「初期段階」にあります。
お客様の声に耳を傾け、ニーズを理解し、お客様の生活をより良くするために、お客様に代わって発明するというこの仕事を、皆で一緒に盛り上げていきましょう。
皆さんと一緒に冒険できることを楽しみにしています。
アンディ・ジャシー
(訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)
[原文:Andy Jassy's first email to employees as Amazon CEO is a master class in memo-writing]