パナソニック、韓国LG化学という「電池業界の巨人」がいずれも出資する電池ベンチャーが独自技術の商用化に向けた正念場を迎えている。
Screenshot of Enevate website
バイデン米大統領は、電気自動車(EV)の普及拡大を促そうと、急速充電システムとそれを実現する技術の開発に1000万ドル(約11億円)を投じる考えを明らかにしている。
いままさに、この政府の「大盤ぶるまい」の可能性に賭け、飛躍を遂げようというスタートアップがある。エネベート(Enevate)だ。
電池分野の有力スタートアップの多くは公的資金の獲得にほとんど興味を示していない。一方、急速充電に特化したエネベートは、公的資金の投下候補として政府の目をひこうと、総額2億ドル(約220億円)の民間資金を使って生産体制を拡充しようとしている。
同社のセールス&マーケティングリード、ケビン・シュランツはバイデン大統領の狙いに賛同する。
「(急速充電インフラの開発と整備は)重要な取り組みです。当社はそこで役割を果たし、貢献したいと考えています」
米カリフォルニア州アーバインに本拠を置くエネベートは、電池メーカー向けのプレゼンによれば、よりエネルギー密度の高いシリコン主体のアノード(陽極)技術を武器に、従来のリチウムイオン電池に代わるコスト競争力のある電池を実現できるという。
端的に言えば、電池の核心部分の素材を、より安全、安価で効率性の高いものに置き換えるというわけだ。
エネベートは2008年に初めての資金調達ラウンドを実施。その後、パナソニック、韓国LG化学、ルノー・三菱・日産アライアンスなどからも資金を集めてきた。
米調査会社ピッチブックのモビリティアナリスト、アサド・フセインによれば、エネベートのシリコン主体リチウムイオン電池技術はすでに十分な信頼を獲得している。フセインは状況をこう説明する。
「エネベートの電池技術は既存の生産設備を活用して導入できるようになっているので、切り替え面倒なプロセスを経る必要がないのです」
すでにある生産設備を転用できる技術を生み出すだけでなく、そもそも電池セルに使う材料を減らすことで、顧客側のコスト削減に貢献しつつ、リチウムイオンに依存しないローカーボン(低炭素)の電池を同社は目指している。
「電池産業にとってきわめて重要な転換点になると考えています。エネベートが思い描くビジョンを実現できれば、電動化に向かう世界的トレンドの恩恵を受ける好位置につけることができるでしょう」(フセイン)
エネベートが電池セルの商用化に取り組み始めたのは15年前。前出のシュランツによれば、目標にたどり着く最終段階の入り口に差しかかったところだという。
「まだはっきりとわからないのは、さらなる技術開発を進める上で活用できる資金があるかどうかです。自分たちで資金を得られなければ、電池開発に投じる資金を得た他の企業に技術や部品を提供するサプライヤーの道を選ぶことになるかもしれません」
バイデン大統領の資金拠出計画から直接キャッシュフローを得られなかったとしても、資金の一部が他社を経由してエネベートに流れ込み、将来普及する大量の電気自動車(EV)が同社の急速充電技術を活用できるようになればいいと同社は控えめだ。
(翻訳・編集:川村力)