落語協会の柳亭市馬会長、落語芸術協会の春風亭昇太会長、新宿末広亭・席亭の真山由光氏。
撮影:吉川慧
コロナ禍で売り上げが大幅に減少している東京都内の寄席を支援しようと、落語家など寄席に出演する芸人らが参加する「落語協会」と「落語芸術協会(芸協)」が呼びかけたクラウドファンディングは、1カ月余りで1億円を超える支援金が集まった。
これを受けて7月13日、支援金の贈呈式が新宿末広亭で開かれ、落語協会の柳亭市馬会長と落語芸術協会の春風亭昇太会長、寄席側から新宿末広亭の席亭・真山由光氏が出席した。
今回のクラウドファンディングは5月18日〜6月30日まで実施。当初の目標金額5000万円の2倍以上となる1億377万円が集まった。
支援金は手数料を差し引き、都内5つの寄席(鈴本演芸場、新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋園芸、上野広小路亭)に規模に応じて分配する予定。第2の目標金額8000万円を超えた分は、各寄席の音響設備などの整備費に充てる方針だ。両協会は支援金は受け取らないという。
「恩返しは一つしかない。とにかく、いい高座を」
落語協会の柳亭市馬会長、落語芸術協会の春風亭昇太会長。
撮影:吉川慧
落語協会の市馬会長は「温かいお客さんの励ましが何よりも嬉しかった。私たち噺家(はなしか)が抱いております危機感、寄席がなくなっちゃうんじゃないか、えらいことになるのでは……という危機感をお客様が共有してくださった」と、寄付をした人々へ深い謝意を述べた。
そのうえで、「いま客席に制限がある中、お越しになるお客さんの前でも一生懸命に高座をやるのはもちろん、遠慮なく満席にお客様を呼べるような世の中になった時が、私たちの見せ所かもしれない。何とか、いい高座で御恩に報いたい」と話した。
落語芸術協会の昇太会長は、市馬会長の話を受けて「私が言いたいことは、だいたい市馬会長が言ってくれました。ぜひ私が言った言葉として書いてもらいたい(笑)」と報道陣を沸かせつつ、改めてファンへの感謝の言葉を語った。
「今回感じたのは、お客様の落語愛。落語、そして寄席を愛していただいていたんだなとあらためて強く感じました。僕たちだけじゃなく、先輩たちがずっと続けてきた落語という文化を色々な方に知っていただきたい」
「恩返しの仕方は一つしかありません。みんなで努力して、いい高座が務められるよう恩返ししたい」
末広亭席亭「年内持つかどうか…」
新宿末廣亭。米津玄師さんの楽曲「死神」のMVでも使われた。
撮影:吉川慧
末広亭・席亭の真山氏は「この1年5カ月ほどコロナ禍の影響でお客さんが全く入らず、毎月赤字を抱え、それを何とか埋めながら今日までやって参りました」「ありがたく、重ねて御礼申し上げたいです」と支援への謝意を語った。
それでも、寄席をめぐる状況は緊迫しているようだ。コロナ禍の休業や入場制限で、寄席によっては毎月200万〜300万円の赤字が出ており、今まさに「存続の危機」にあるという。
落語芸術協会の田澤祐一事務局長によると、2020年度の寄席の売り上げは「各席平均で前年度比70%減だった」(5月18日の会見)という。
この時、田澤氏は「想像もつかない数字だった」「いわゆる借金状態の小屋もある」と危機感を吐露し、直近では2021年4月の興行が「前年同期比50%減」だったことも明かした。
折しも7月12日から東京都では4度目の緊急事態宣言が発出され、寄席も緊急事態措置で客席数50%以下での営業となる。
真山氏は支援金によって「数カ月は生き延びることができる」としつつ、「不確かですが、ざっと年内持つかどうか…。現状としては厳しい…」と先行きへの不安を語った。
市馬会長は「緊急事態宣言は私たちが何か言ったって仕方がないので、しょうがない」「なんとか我慢しながら1年半来ているが、いつまで続くのか…」と4度目の宣言への胸中を明かした。
昇太会長も「感染する方が増えているので仕方がないが、我々だけじゃなくて日本中のいろいろな方が大変」とした上で、こう語った。
「地球上の全ての生き物で、芸術や文化を楽しめるのは人間だけ。これが人間の証明だと思う。芸術文化をやっている我々は、そこを信じてやり続ける」
「お客さまが少なくても多くても、とにかく懸命にやる。今はとにかく辛抱しながら、自分の今までやってきたことを信じてやり続けるしかないと思う」
(文・吉川慧)