BMOキャピタル・マーケッツのアナリスト、アンブリーシュ・スリバスタバは2021年7月1日、アメリカの半導体メーカー、エヌビディア(NVIDIA)の目標株価を1000ドル(約11万円)とした。
この数字はアナリストによるエヌビディアの目標株価として今までにない高値だ。その時点では800ドル近くで取引され、7月13日時点では820ドルで取引されている。
エヌビディアの株価は、今年だけで57%の上昇、1年前と比較すると95%もの上昇という状況にもかかわらず、アナリストたちは強気のままだ。
ブルームバーグのデータによると現在、ウォールストリートのアナリストたち46名のうち、83%がエヌビディアの株を「買い」としており、13%は「中立」としている。「売り」としているのはBNPパリバのデイビッド・オコナーと、モーニングスターのアビナブ・ダブルリの2人のみだ。
エヌビディアについて最も強気および最も弱気なアナリスト両方のレポートから、なぜこれほどエヌビディアが期待されているのかを見ていこう。
強気に見る4つの理由
1. データセンターの成長
エヌビディアの主要な収入源の一つが、企業のコンピューターシステムが入るデータセンター向けの製品・サービスだ。
エヌビディアのデータセンター事業は絶好調だ。2021年の下期もその状態が続くと、レイモンド・ジェイムズのアナリストであるクリストファー・カソは見ている。
エヌビディア株においてブルームバーグのアナリストランキング首位であるカソは、エヌビディアの目標株価を900ドルとしている。
目標金額を1000ドルとしたアナリスト、スリバスタバは言う。
「エヌビディアのデータセンター事業の今後を考えると、以前の予想だった250億ドル(約2兆7500万円)どころか、2〜3年後には320億ドル(約3兆5200万円)の事業規模になっていくでしょう」
スリバスタバが強気な理由の一つが、エヌビディアがデータセンター事業について、以前は純粋にハードウェアに注力していたが、今はソフトウェアも含めた事業に転換した点にある。これがエヌビディアのコア事業になりつつあるのだ。
2. AIとソフトウェア・サービス
ウェルズ・ファーゴのアーロン・レイカーズは目標株価を875ドルとしているが、ソフトウェアに注力することでより継続的な収入が得られやすくなると見ている。
企業向けAI分野におけるエヌビディアの勢いは衰えておらず、ソフトウェアへの事業拡大が収益基盤をさらに強固にする、とレイカーズは指摘する。
前出のカソも、「長期的に見て、AI分野におけるエヌビディアの優位性に対する大きな脅威は見当たりません。AIによって、過去6年間で見られた売上の複合年間成長率27%の勢いは今後も続くでしょう」と6月22日に述べている。
3. Armの買収
エヌビディアはイギリスの半導体企業Armホールディングスを買収したことで、AI分野における優位性をさらに強固なものにした(この買収は、まだ規制当局から承認は下りていない)。
「エヌビディアがArmホールディングスを買収したことで、AIに特化した業界のリーダーが生まれることになります」とタイグレス・フィナンシャルのアイヴァン・ファインセスは指摘する。
ファインセスもブルームバーグによるエヌビディアのアナリストランキングでトップに選ばれており、目標株価を920ドルとしている。エヌビディアのバランスシートとキャッシュフローは良好であり、今後のイノベーションや戦略的買収も実行しやすいだろうと考えている。
ただし、Armの買収は承認されないだろうと見ているアナリストもいる。
「Armの買収は承認されないと考えていますが、(2023年のGraceに始まる)CPUへの動きは変わらないでしょう。これがもう一つの成長の柱になると考えています」とレイモンド・ジェイムズのカソは6月22日に話している。
モーニングスターのダブルリは、規制当局による審査とArmの顧客からの抵抗で、買収が実行される確率は半々だと言う。
4. ゲーミングからの収入
コロナ禍が始まり、また暗号資産(仮想通貨)の価値が急上昇したこともあって、エヌビディアはゲーミングの収入が好調だ。
しかしエヌビディアは、深刻な自社のゲーミングカード不足に対応するため、新しく生産するカードについてはマイニングの機能をなくす予定だ。ゲーミングカードは、ネットワーク上のコンピューターを使って難しいパズルを解くことでデジタルコインを稼ぐ、いわゆるビットコインマイニングに使われている。
「投資家の主な懸念材料の一つだった暗号資産リスクも、これにより緩和されます」とカソは5月18日に話している。
しかし、ゲーミングカードがこうしたマイニングに使われること自体が、株価を疑問視する理由になると指摘するアナリストもいる。
慎重になるべき2つの理由
1. 暗号資産のマイニング
2018年、イーサリアムのプラットフォームのトークンであるイーサの価格下落により、グラフィックカードの需要が減退し、エヌビディアの売上に影響を及ぼした。
イーサリアムは今後アップデートされ、マイニング方式がPoW(プルーフ・オブ・ワーク)からPoS(プルーフ・オブ・ステーク)という方式に変更される。これによりマイニングの需要がまた減退することが予想されている。
マイニングはそれでも収入面でのリスク要因だとカソは語る。
「いずれにしろ、現在の四半期あたり4億ドル(約440億円)の収入が年末までにはゼロになると見込んでいます。前回の対話でも、経営陣はその点について反論しませんでした」
しかし、これまでカード購入を妨げられてきたゲーマーたちの需要が、しばらくは消費を支えるとカソは考えている。モーニングスターのダブルリが慎重な見方をしているのも同じ理由だ。
「実際の影響はより大きく、ゲーミング向けGPUの勢いが鈍化するタイミングは2021年の後半になると見ています」と4月13日に述べている。
2. 膨れ上がった企業価値
慎重になるもう一つの理由がエヌビディアの企業価値への評価だ。
エヌビディアは現在株価収益率が96倍にも膨れ上がっている。これはつまり、投資家たちは一株当たり利益の96倍の値段を払ってエヌビディアの株を買う気があるということだ。
ニュー・ストリート・リサーチのピエール・フェラグが慎重に考えるのはこれが理由だ。フェラグは目標株価を570ドルとして中立の立場をとっており、投資のタイミングとして今はベストでないと言う。
「エヌビディアは高値を更新しましたが、その後の株価の下降が見えるまでは、エヌビディアの株を読むのは難しいでしょう」と5月27日に話している。
(翻訳・田原真梨子、編集・野田翔)