マイクロソフトは、コミュニケーションプラットフォーム「Teams」を、拡大し続けるエコシステムの中核へと成長させるためにさらなる施策を講じている。
マイクロソフトは既に、TeamsとWordやExcelといったアプリケーションやCRM(顧客関係管理)ソフトウェア「Dynamics 365」等のビジネスアプリケーションとのネイティブ統合を提供している。
さらに一歩踏み込み、マイクロソフトは「協働アプリ」と呼ばれるアプリ群をリリースする予定だ。これによりユーザーは、Teams上でDynamics 365から得られるデータを活用して直接的なコラボレーションができるようになる。
マイクロソフトのビジネスアプリケーション担当コーポレートバイスプレジデントであるアリサ・テイラーは、Insiderの取材に対し次のように語る。
「(パンデミックを経て)業務フローをよりコラボレーティブなものにする必要があり、スピードが重視されます。重要データはすべての事業領域において共有できなければなりません。
そこで、Teamsを最新のUIあるいはフロントエンドとし、ネイティブなビジネスプロセスアプリケーションをTeamsに組み込もうというわけです」
「協働アプリ」を使うことで、ユーザーはDynamics 365の顧客・見込み顧客情報をTeams上で直接編集したり、Dynamics 365に入力したアポイントメントにTeamsによるオンライン会議を追加したりできる。
また、その会議のメモを直接Dynamics 365に取り込むこともできる。同僚がDynamic 365のファイルに更新や追加を加えると、ユーザーに自動でTeamsから通知が送られる。
ユーザーは、Teams上から直接Dynamics 365の情報を閲覧・編集できる。
Microsoft
マイクロソフトがTeamsをより重視するこの動きは、コミュニケーション・協働アプリケーション利用の急拡大を受けてのものだ。マイクロソフトによると、2021年4月時点におけるTeamsの1日あたりアクティブユーザー数(DAU)は1億4500万人と、2020年10月時点の1億1500万人から大幅に伸長したという。
この背景には、マイクロソフトとセールスフォースの競争激化がある。セールスフォースは、ビジネスコミュニケーション市場におけるTeamsのライバルSlackを277億ドル(約3兆470億円)で買収した。
セールスフォースは今後、SlackをセールスフォースプラットフォームのUIにする予定だという。つまり、マイクロソフトにとってのTeamsと同様の機能を果たすことになる。
セールスフォースは現在、クラウドCRMソフトウェア市場における最大手だが、以前Insiderの取材に応じたアナリストによれば、マイクロソフトDynamics 365の利用者は急拡大しており、両社はDX(デジタルトランスフォーメーション)のための企業のIT予算を巡って競合しているという。
マイクロソフトの強みは、「協働アプリ」がそうであるように、全ソフトウェア群をネイティブ統合しユーザーにシームレスな体験を提供できることだ、と前出のテイラーは言う。
今回のアップデートによって、マイクロソフトはこれまで見られた複数のアプリ統合における干渉をなくすという。ユーザーは、Teams上で協働的アプリを使うために、TeamsとDynamics 365それぞれのライセンスを購入する必要はなくなる。例えば営業責任者のように、企業のDynamicsアカウントに直接アクセスして管理する必要のある人だけライセンスを持っていればよい。
調査分析会社フューチャラムのアナリスト、ダニエル・ニューマンはInsiderの取材に対し、次のように述べる。
「今回の動きは、マイクロソフトのエコシステムへの参加障壁を低くし、ユーザーを囲い込む狙いでしょう。少数の限られたタスクを必要とするユーザーが、すべてのライセンスとアクセス権を得る必要をなくすことです」
マイクロソフトは以前、ソフトウェアの抱き合わせ販売について取り調べを受けている。マイクロソフトがTeamsとOffice 365を抱き合わせて販売するやり方が独占禁止法に違反するとして、Slackが2020年、マイクロソフトをEUに訴えたのだ。
しかし、ユーザーが使える協働アプリはDynamics 365だけではない。セールスフォースやSAPやサービスナウなど、他のソフトウェア提携企業もTeamsと統合できる協働アプリを開発している。ユーザーがマイクロソフトのエコシステム以外のソフトウェアも利用できるということは、Slackの訴えに対する強力な防御になるとニューマンは見ている。
テイラーは、マイクロソフトが目指す究極の目的は、タスクの中断を減らしてシームレスに作業できる手段を提供することだとして、次のように語る。
「コンテキストスイッチ(PCのCPUが現在実行中の処理を一時停止し、別のものに切り替えて実行を再開すること)には負荷がかかります。アプリからアプリに移行する際、生産性は低下し、作業フローが遅くなります。今回のアップデートによって、重要なデータを必要とする人にリアルタイムで届け、生産性を高めることが可能になります」
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)