多くの企業が従業員のオフィス復帰を画策するなか、大手コンサルティング会社、マッキンゼーのリポートは「リモートと出社を組み合わせたハイブリッド勤務の体制整備は容易ではない」と指摘する。
アップル、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、ブルームバーグらの幹部は、週の大半を出社するよう従業員に求めているのに対し、フェイスブック、Spotify、Zillowなどの大手企業では、従業員は勤務場所を自由に選択できる。
マッキンゼーの最新調査によると、週4日以上の出社を従業員に求めている企業は52%、少なくとも週3日を求めるのは36%だと分かった。
しかし従業員約5000人を対象にした別の調査では、フルタイムでオフィス勤務を希望するのは37%、完全リモートワークもしくはハイブリッド勤務を希望するのは63%だった。
柔軟性のない画一的な働き方では、出社を好む社員とリモートワークを好む社員との間で対立が起きかねない、とマッキンゼーは懸念を示す。リモートワークを長年研究している専門家は「数週間や数カ月ではなく、数年かけて試行錯誤を繰り返しながら、最適な働き方を模索すべきだ」とInsiderに語る。
マッキンゼーによれば、多くの企業が少なくとも週数日、「オフィス勤務を再開したい」と考えている。
しかしハイブリッド体制は複雑なため、「既成概念にとらわれず、あらゆる制度や環境の見直しが必要となるが、経営陣はどう対応すべきか分かっていない」というのが実情だ。
労働市場の変化に注目
コロナ禍により労働市場は悪化し、多くの人の労働環境も激変した。その一方で、ワークライフバランスを見直す労働者も増えている。今や求職者は、企業の社会的責任や多様性を重視し、リモートワークやハイブリッド勤務の選択肢がある企業を選んでいる。
とりまく環境の変化により、働く価値観が変化したにもかかわらず、経営陣はハイブリッドモデルを「コロナ前から浸透していた在宅勤務に、少し柔軟性を持たせたもの」と捉えがちだ。マッキンゼーは、それだけでは不十分と警鐘を鳴らし、リポートで次のように指摘している。
「新型コロナウイルスに悲痛な叫びを挙げた企業もあるが、その影響を最低限に抑えた企業も多くある。そんなビジネスリーダーは、『新たな働き方』を早期に整えられると信じている。一方、従業員は、企業の考える『新たな働き方』に不満を抱いたとしても、異を唱えることをせず、会社を去る選択をしている」
リモートワークに慣れ、オフィス勤務に疲労を感じる人や、好条件を求めて離職する人が急増している。業種によっては採用活動が活況に動いている企業も多数あり、労働市場は今後も激動する見通しだ。企業は従業員をオフィスに戻しつつも、「ハイブリッド体制を継続的に検証、改善していくべきだ」とマッキンゼーは助言する。
『Flux: 8 Superpowers for Thriving in Constant Change(未訳:激動の時代を生き抜く8つの習慣)』の著者、エイプリル・リンネはInsiderの取材に対し、「ビジネスリーダーは『受け入れるか去るか』という最後通告を示唆するような態度を改めなければいけない。このままでは、優秀な人材がこぞって離職することになる」と話す。
経営陣は従業員との思惑の違いを認識すべき
マッキンゼーのリポートによると、経営陣は「新たな働き方」を急いで完璧につくりあげるのではなく、前へ進みながらも継続的に柔軟な働き方を模索していく必要がある。
そのために重要なのは、従業員の意見を汲み取り、丁寧に検討していくことだ。いつ仕事をしたいか、誰と共同作業をするのか、など従業員の勤務パターンを調整したり、企業の取り組みに対する従業員の反応を見極めたりすることも大切だという。
さらに、さまざまな手段で従業員の希望や意見を吸い上げ、新たな働き方を決める過程に従業員を巻き込んでいく。そうすることで、従業員は自身が会社の大切なメンバーであることを認識し、全社一丸となって新たな働き方へ向けて移行していると実感できるだろう。
リポートは「企業にとって大切な人材資源である、従業員の価値観やニーズ、気持ちを尊重するのは、会社の目指すべき理念」と述べている。
ビジネスリーダーは、環境や仕組みづくりは一朝一夕にはいかないと認識しなくてはいけない。
そして「試行錯誤していくことに、企業文化として受け入れがたいビジネスリーダーがいるかもしれない。しかし解決策はすぐには見つかるものではなく、誰もが満足するハイブリッド体制の実現には、何年もかかることを覚悟するべきだ」とリポートは締めくくる。
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)
[原文:McKinsey: Hybrid work will be messier than anyone realizes]