宇宙を舞台に、世界の富豪たちが熾烈な競争を繰り広げている。
2021年7月11日、2020年に宇宙旅行会社としては初の上場を果たしたヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)が有人飛行試験に成功した。
宇宙船には創業者のリチャード・ブランソン氏が搭乗し、無重力を楽しむ様子が配信された。
出典:Virgin Galactic
ヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅行は、25万ドル(約2800万円)で座席券を販売しており、すでに600人が予約している。なかには、日本人の購入者も数人いるという。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が創業した、ブルーオリジン(Blue Origin)は、7月20日に同社が開発したロケット・ニューシェパードによる初の宇宙旅行を実施すると発表。このフライトには、ジェフ・ベゾス氏本人も搭乗する予定だ。
宇宙に滞在できる時間は、たった10分であるのにも関わらず、オークション販売された座席券は2800万ドル(約30億円)という高値で落札された。
世界の注目を集める宇宙旅行だが、40兆円ともいわれる宇宙ビジネス全体の市場規模に占める金額はごくわずかでしかない。
出典:さくらインターネット
業界の成長を促しているのは、人工衛星による通信やデータを使ったビジネスやその周辺サービスだ。
日本もその例外ではなく、宇宙産業に参入する企業やベンチャー企業が増えている。国内の宇宙ビジネスの全容と注目企業を紹介したい。
※この記事は、衛星データプラットフォーム「Tellus」のオウンドメディア「宙畑」との共同企画です。「宙畑」がリストアップした企業をもとに、Business Insider Japanが抜粋、カオスマップ化し、解説しています。
※本記事の資本金表記は、各社公式サイトの公開情報をベースとしています
国内で宇宙産業に携わるプレーヤーをまとめた。
背景画像:NASA、デザイン:さかいあい
成長分野の「衛星ビジネス」
国内で最もプレーヤーが多いのは、衛星の製造や衛星が取得したデータを活用するビジネスに関わる分野だ。
従来は、衛星といえば重量が1トン以上の大型のものが一般的だったが、近年衛星の小型化が進んでいる。今や、100kg以下の超小型衛星は当たり前。なかには手のひらサイズの衛星もある。
小型の衛星は機能を絞ることで開発期間が短いうえ、打ち上げにかかる費用を大幅に削減できる点がメリットだとされている。
出典:さくらインターネット
そのトレンドを受けて実用化が進んでいるのが、数十から数百機の小型衛星を連携して利用する「衛星コンステレーション」の構築だ。
衛星画像サブスク開始の「アクセルスペース」
国内では、アクセルスペース(本社:東京都・中央区/資本金:45億3686万円、資本準備金を含む)が、コンステレーションを使った衛星画像のサブスクリプションサービス「アクセルグローブ(Axcel Globe)」を2021年6月にリリースした。
ユーザーの用途と予算に応じて指定のエリアの画像データを毎月1〜6枚提供するというサービスで、画像データは精密農業や船舶のモニタリングなどに広く利用できる。
地球観測衛星コンステレーションによるサービスインは国内初だ。
東京湾の船舶を自動検出した例。1機体制だったこれまでは、2週間に1度の頻度で撮影していたのが、5機体制になり、2〜3日に1度の撮影が可能になった。
出典:アクセルスペースホールディングス
現在、アクセルグローブは衛星5機体制で運用されているが、2023年に、5機の衛星が追加で打ち上げられる予定だ。衛星が増えて撮影の頻度が向上すれば、衛星画像の用途がさらに広がるのではないかと期待されている。
衛星画像の弱点を補うSAR衛星で注目の「QPS研究所」と「Synspective」
アクセルスペースが撮影するような(光学)衛星画像には、直感的でわかりやすく、扱いやすいというメリットがある一方で、夜間や雲に覆われている場所は観測できないという弱点がある。
その弱点を補えることで注目されているのが、レーダーで撮影を行うSAR衛星だ。国内のベンチャー企業では2社がSAR衛星を運用している。
九州大学発のベンチャー企業QPS研究所(本社:福岡県・福岡市/資本金:30億2300万円)は、難しいと言われていたSAR衛星の小型化に成功し、これまでに2機の打ち上げに成功している。
2021年5月には、国内では初となる解像度70cmの画像取得にも成功している。
さらに、QPS研究所は、36機のコンステレーションを構築して、同じ領域を10分間隔で撮影する計画を発表している。
同じ領域を数分ごとに撮影するには、本来なら数百機規模のコンステレーションが必要になるといわれているが、日本やアメリカ、フランス、スペインなどの主要都市が集中する北緯45度〜南緯45度に撮影エリアを絞ることで、比較的少ない衛星でも高頻度の撮影を実現させるユニークな戦略だ。
右下の東京ドームは、屋根が透けて電光掲示板が見える。これもレーダーで観測するSAR衛星ならではだ。
出典:QPS研究所
Synspective(本社:東京都・江東区/資本金:109億1600万円)は、内閣府の衛星プロジェクトの成果を応用した独自の小型SAR衛星を運用し、画像の販売やソリューションを提供するベンチャー企業。
サービスを本格始動するのに必要な衛星コンステレーションの構築には時間がかかるが、自社のデータと他社の衛星データを組み合わせることで、地盤変動や浸水被害のモニタリングサービスなど、複数のソリューションを開発・リリースしている。
衛星を使って「農業」に挑む「天地人」
JAXA職員と農業IoTに知見を持つメンバーによって設立された天地人(本社:東京都・港区)は、衛星データと気象や地形などの情報を複合的に分析し「農作物の栽培の適地探索」という、ユニークなサービスの開発に取り組んでいる。
施設園芸の高収量化を進める誠和や大手米卸業者の神明ホールディングスなどに、サービスを提供している。
国内大手通信事業社が競い合う「衛星通信」事業
SpaceXのスターリンク。5機の衛星が夜空に軌跡を描いている。
Ritzau Scanpix/Mads Claus Rasmussen via REUTERS
通信事業は、宇宙ビジネスのなかでも市場が拡大すると見られている分野の一つだ。通信衛星のコンステレーションを構築することで、全世界にブロードバンド通信を提供できる。
この分野では、海外の事業者と国内の大手通信事業者(ソフトバンク、KDDI、NTT)の提携が目立つ。
KDDIはイーロン・マスクのSpaceXと提携を検討
代表的なのは、1万機の通信衛星を打ち上げて、世界中にブロードバンド通信を提供するアメリカ・SpaceXの「スターリンク(Starlink)」だ。
既に1000機以上の衛星の打ち上げが完了しており北米やヨーロッパを中心に、ベータ版のサービス提供を開始している。8月には極圏を除いた世界全域でサービスが開始する予定だ。
日本では、通信キャリアのKDDIが提携を検討している。
英米の2社と提携のソフトバンク
ソフトバンクは、スターリンクと肩を並べるイギリスの衛星通信企業のワンウェブ(OneWeb)に出資し、衛星の製造を支援してきた。
ワンウェブは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で2020年4月に破産を申請することになったものの、英国政府とインドの大手通信企業Bharti Globalが出資し事業を再開させた。ソフトバンクは再出資し、5月に協業を発表している。
さらにソフトバンクは、欧州の大手通信事業者の衛星を借りてサービスを提供するアメリカのスカイロテクノロジズ(Skylo Technologies)との提携も発表している。
ソフトバンクの子会社が開発するHAPSと、ワンウェブとスカイロテクノロジズの衛星を活用して、通信環境が整っていない産業向けに衛星通信サービスを提供する方針だ。
スカパーと壮大な構想企むNTT
国内三大通信事業者、残りのひとつであるNTTは、衛星通信に限らず壮大な宇宙ビジネスを構想している。
アジア最大の通信事業者であるスカパーJSATと提携し、通信が整備されていないエリアであってもIoTセンサのデータを収集できるようにする事業や衛星を使ったデータセンタを設置する計画などを2021年5月に発表した。
「宇宙ビジネスにも遊び心」日本で注目のエンタメ事業
軍事やB to Bビジネスでの利用が中心だった衛星の利活用に、遊び心を持ち込んだのは日本だ。「人工流れ星」を開発するベンチャー企業のALE(本社:東京都・港区)が登場して以来、宇宙空間や衛星を利用したエンターテイメント事業に乗り出す企業が増えてきている。
そこで注目したいのは、ソニーだ。
ソニーは、JAXAと東京大学と共同で、「エンタメ衛星」を打ち上げる計画を発表。
超小型衛星にソニーの高感度のカメラを搭載し、アーティストやクリエイターが自由に操作して宇宙や地球を撮影できるようにするという。
この衛星を使って、新規事業の創出も進めていく考えだ。
(文・井上榛香)