REUTERS/Isaiah J. Downing
- ジェフ・ベゾスはブルーオリジンの宇宙船「ニューシェパード」で飛び立つ際、一定のリスクを許容することになる。
- ニューシェパードはこれまで、テスト飛行を15回行っているが、ベゾスのフライトが初の有人飛行だ。
- 一方、地上では、アメリカの輸送および倉庫労働者が毎年約900人、仕事中に死亡している。
ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)は2021年7月20日(現地時間)、自分の会社のロケットに乗り込む時、同乗者とともに、準軌道飛行による生命および身体に対する一定のリスクを負うことになる。これまでアメリカから飛び立った宇宙飛行はわずか382回で、このう4回が悲劇的な結果に終わっている。
つまり、失敗する確率は約100分の1ということになる。宇宙政策・戦略センター(Center for Space Policy and Strategy)の報告書によると、これは、事故率が100万分の1という民間航空機でのフライトや、地上でのほとんどすべての活動に比べて遥かに危険だ。
「航空機のように、長年に渡って何百万回と飛行して多くの経験を積むまでは、学習が必要だ」と報告書の共同著者、ジョージ・ニールド(George Nield)はInsiderに語った。
「車や船、飛行機、電車でも毎年、人が死んでいる。宇宙飛行も同じだ」
だが別の見方をすると、アメリカでは宇宙船事故で命を落とした人の数は、労働災害で死亡する人に比べてはるかに少ない。アメリカの労働統計によると、毎年約5000人の労働者が死亡しているが、アメリカの宇宙開発の歴史で死亡した宇宙飛行士は15人だ。
さらに、アメリカでは2019年に死亡した5333人の労働者のうち、913人以上が運送業および倉庫業だった。つまり、労働者が死亡した場合、トラックの運転中や倉庫での作業中だった可能性が高いのだ。
全業種では、労働者の死の半数以上が交通事故か、転倒や転落によるものだ。命に別条のないけがや病気になる確率は当然、それよりもはるかに高い。2019年、仕事中の病気やけがで1日以上の休業が必要となったのは、労働者100人あたり約3件だった。
宇宙飛行の危険度をその他の活動と単純に比較することは難しい。宇宙産業はまだ新しく、リスクが大きいからだ。そのため、アメリカ連邦航空局(FAA)は現在、宇宙飛行における健康と安全に関する規則を行うことはまだできない。
ブルーオリジンのニューシェパードは、2015年以来15回の飛行を行った。そのうち3回はロケットが故障した際に乗客カプセルを船外に射出する緊急脱出装置のテストに成功している。ベゾスのフライトは、ニューシェパードにとって初の有人飛行となる。
ブルーオリジンの製品開発アプローチは、初飛行から宇宙飛行士を乗せたNASAのスペースシャトルに比べて「はるかにリスクが少ない」と、ジョージ・ワシントン大学の宇宙政策研究所の創設者で、NASA諮問委員会の元メンバーでもあるジョン・ロッグスドン(John Logsdon)は述べている。
一方、地上では、アマゾン(Amazon)の配達代理店ドライバーが、配達スケジューリング・アプリに車線をまたいで走るよう指示され、ノルマの達成と安全運転の選択を迫られると説明している。
ベゾスがCEOとして最後にしたことの1つは、アマゾンが現在抱えている労働災害の問題を強調し、同社を「世界で最も安全な職場」にすると誓うことだった。
株主への文書の中でベゾスは、引き続き役員を務めるにあたり、職場の安全を重要分野の1つにすると述べた。同社は2021年、3億ドル(約330億円)を投じ、2025年半ばまでに労働災害を半減させることを目標にしている。これにはフォークリフトなどの産業車両の衝突を防ぐための6600万ドル(約72億6300万円)のプロジェクトも含まれる。
「ベゾスはリスクを恐れない」とロッグスドンは述べた。
「(宇宙飛行に)リスクがあることをもちろん理解しているし、どの程度の危険なのかをきちんと把握しているのだろう」
(翻訳:Ito Yasuko、編集:Toshihiko Inoue)