「パレートの法則」によると、成果の80%は20%の社員が生み出しているそうだ。では残りの80%の社員は何をしているのだろうか?
マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Co.)やゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)を経て、現在はエグゼクティブ専門の人材紹介会社スペンサースチュアート(Spencer Stuart)でシニアディレクターを務めるジム・シトリン(Jim Citrin)は、残り80%の社員の可能性を解き放ちたいと考えている。
シトリンは、最近公開されたゴールドマン・サックスの「Talks at GS」というインタビュー形式のイベントで、ゴールドマン・サックスのデイビッド・ソロモンCEO(David Solomon)にこう語った。
「社員たちが意義あるタスクをこなすよう手助けをすればするほど、組織はより大きな価値を生み出せるようになります。
頼まれたことをもっとやるだけでなく、頼まれたことはやり遂げて目標を達成したうえで、さらに期待を上回る成果を出す、ということです」
ハイブリッド勤務への移行が進むなか、リーダーたちはクリエイティブにならざるを得ない。社員はラップトップPCを持って思い思いの場所に散らばりたがる。つまりマネジャーは、この環境でチーム作りをして社員の成果を最大化する手段を新たに見つけなくてはならないのだ。
決められた業務内容以上の付加価値を出そうとする社員は、他の社員や会社全体に好ましい影響を与える、とシトリンはソロモンに語る。例えば、自ら進んで研修を企画するインターンは、他のインターンも巻き込みつつ彼らが高い職業倫理の持ち主であることをアピールできる。
「自分一人の成功だけが成功ではありません。同僚の成功も自分の成功のうちです」とシトリンは言う。
与えられた仕事をするのではなく、自ら仕事を作り上げる
クリエイティブ・シンキングができる社員は、同僚が仕事をやり遂げるのにも役に立つ。
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シトリンが提唱するのは、80:20の法則ならぬ「20:80の法則」だ。20%の成果しか生まない80%の人が、仕事に主体的に取り組み、大きなインパクトを生むよう変革を起こすことが必要だと強く訴える。
シトリンは、同僚のダーリーン・デローザ(Darleen DeRosa)との共著『Leading at a Distance: Practical Lessons for Virtual Successes(未訳)』を執筆するあたり、600のバーチャルチームと1000人の最高人事責任者(CHRO)を対象に調査を行った。
その結果、平均的な社員と抜きん出た社員の違いは、必ずしも目標設定の仕方にあるのではなく、新しいマイルストーンの特定の仕方にあると分かった。
シトリンによれば、インターンからCEOに至るまで誰であれ、割り当てられた役割にとらわれず、クリエイティブに考えることができる。有能な人ほど、独自の視点に立ってどうすれば組織が「想定外の方法で」成長できるかを考えるものなのだ。
シトリンによれば、素晴らしい社員は割り当てられた仕事の中から重要度の高いものを選ぶだけでなく、自分の仕事を作り出すのだという。20:80の法則を使うことで、社員が平均点で満足せず、業務範囲を広げる機会を率先して探すように仕向けられる。
「世間ではたいてい、仕事や成功は目標とひもづけて捉えられ、仕事とは目標を達成することだと思われています。しかしそういう考え方では平均的な成果しか生まれません」とシトリンは言う。
「20:80の法則」は職場環境を問わない
クリエイティブ・シンキングの利点は企業も認識するところだ。例えばグーグル(Google)には、エンジニアが業務時間の20%を自分のプロジェクトに使える「20%ルール」がある。
クリエイティブな時間を組織的に導入する、というのは矛盾しているようだが、Gmailなどグーグルの主力のプロダクトは社員に時間の使い方を委ねたことで生まれたものだ。
20:80の法則を使えば、社員は自律的にスケジュールを見直すようになるかもしれない。割り当てられたタスクの間違いから、解決すべき課題を導き出すこともあるだろう。やることリストに載っているタスクを試してみることで、最高の意思決定につながることもあるのだ。
「ポストイットは失敗の産物なんです」とシトリンは明かす。ポストイットに使われている接着剤は当初意図したものではなかったが、作り手が実験してみようと前向きに取り組んだおかげで新しい産業が拓けたのだ。
シトリンは言う。「大きな成果を上げられる20%の人は、期待値を20%上回る成果を出します。しかしトップ1%は仕事の内容を再定義するのです」
(翻訳・カイザー真紀子、編集・常盤亜由子)