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メルカリ山田社長が語る「新設高専に1億円寄付した理由」。教育が変わらなければ、社会は変わらない

メルカリ社長・山田進太郎氏、Sansan社長・寺田親弘氏

メルカリ社長の山田進太郎氏(左)と、Sansan社長で「神山まるごと高専」理事長の寺田親弘氏。

撮影:稲垣純也

名刺アプリSansanの社長・寺田親弘氏が理事長を務め、徳島県の神山町で2023年4月の開校を目指す私立高専(高等専門学校)「神山まるごと高専」。そのパートナーとしてメルカリが参画することが7月20日、発表された。

メルカリは「企業版ふるさと納税」を活用して同高専に1億円を寄付するほか、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に関わる特別授業の設計などを通じて、教育現場のD&Iを推進するという。その意図を、寺田氏とメルカリ社長の山田進太郎両氏に直撃した。

高専学生は男女半々をイメージ

メルカリ社長・山田進太郎氏、Sansan社長・寺田親弘氏

「リスク管理という意味でも、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)への理解は必要だ」(寺田氏)。

撮影:稲垣純也

スタートアップ起業家が理事長となって立ち上げる「高専」。学校の場所は徳島県、約21億円の設立資金はふるさと納税やクラウドファンディングで募る ── 。

異例続きの「神山まるごと高専」に、新たな“異例”が加わった。

「女性の起業家やエンジニアを増やすため、高専の学生比率は男女半々をイメージしている」(寺田氏)

一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)の2020年のデータでは、IT業界における女性エンジニア比率は約25%。

さらに遡ってSTEM教育(Science、Technology、Engineering、Mathematics)を受ける学生のデータを見てみると、高専の学生における女子比率は約2割(国立高等専門学校機構のデータ)。工学部や理学部に進む学生の女子比率も同程度(文部科学省データ)。男女半々という数字は、かなりチャレンジングな目標だ。

高専

高専学生の男女比率(2017年)。女性は2割を切っている。

画像:国立高等専門学校機構ウェブサイト

その背景には、「起業家を輩出する学校」を目指す寺田氏自身の、強い危機意識がある。

会社の競争力という生々しい部分で、D&Iへの理解がなければもはや難しい時代。そうしなければより多くの優秀な人材を採用できないし、リスク管理という意味でも必要だと思っている」(寺田氏)

寺田氏が学校の設立について構想し始めたのは2017年。グローバルなビジネスの現場で、多様な人材を組織に活かす「ダイバーシティ経営」の機運が高まってきた時期だ。

それに比べて、日本の起業環境はまだ多様性からはほど遠い。帝国データバンクの2020年の調査によると、女性社長の割合は 8.0%と1割にも満たない。

「人間には(ジェンダーや国籍に関する)バイアスがある、とメタな認知をしておくのは、早ければ早い方がいい。D&Iは(『神山まるごと高専』のモットーであるモノをつくる力でコトを起こす人が身につけなければならない、一般教養だ」(寺田氏)

雪だるま作りみたいに頑張らないと

メルカリ社長・山田進太郎氏

「中学や高校から働きかけていかなければ、社会の均質的な体制は変わらない」(山田氏)。

撮影:稲垣純也

課題の多い「IT業界や起業教育におけるダイバーシティ」。カリキュラムはテクノロジーと起業家教育に加えて「デザイン」も大きな柱として、従来には声が届かなかった学生たちへのアピールも狙う。

一方で、多様性に対する、本人や周囲の意識も改めなければならない。そこで寺田氏が頼ったのが、メルカリ・山田進太郎氏だった。

「スタートアップ界隈だと、メルカリさんは圧倒的にダイバーシティが進んでいる企業だと思っている」(寺田氏)

メルカリは2018年からD&Iの推進活動を進めており、2021年1月には山田氏自らがチェアパーソンとなって社内委員会「D&I Council」を設立している。

※D&I Council:多様性ある環境を実現し、イノベーションを加速させるためのメルカリの社内組織。人材の育成や組織の中長期的な成長にD&Iの観点を盛り込む役割を果たす。

社内向けの「無意識(アンコンシャス)バイアス・ワークショップ」や、女性やLGBT+コミュニティを対象にしたエンジニア育成プログラムの運営など、その取り組みも多岐にわたる。こうした知見を教育に活かせないか、と寺田氏は考えた。

一方の山田氏も、同じ課題意識を持っていた。

「メルカリはエンジニアの半数が外国籍。国籍の多様性は進んでいるが、女性(ジェンダー)のダイバーシティはなかなか進んでいかない。中学や高校から働きかけていかなければ変わらない。雪だるまを作るみたいに、最初は頑張ってやらないと、と」

実は当初、寺田氏が打診したのは「企業版ふるさと納税」を通じての寄付のみだった。「それだけではなく……」と山田氏が返したのが、D&I教育を通じてメルカリも運営に参画する、という今回の座組みだった。

メルカリ山田氏「教育に興味はあったが……」

メルカリ社長・山田進太郎氏、Sansan社長・寺田親弘氏

全く異色の起業家に見えるふたりだが、同年代であるなど共通点も多い。

撮影:稲垣純也

フリマアプリのメルカリと、名刺アプリのSansan。

コンシューマー向け(CtoC)と法人向け(BtoBのSaaS)というサービス内容も対象者も違う事業に取り組んでいるだけでなく、学生時代からスタートアップ業界にいる連続起業家の山田氏と、三井物産を経て起業した寺田氏は辿ってきたキャリアも異なる。

一方で、年齢はほぼ同じ(寺田氏は1976年生まれ、山田氏は1977年生まれ)、東証マザーズに上場したタイミングもちょうど1年違いなど、2人には共通点もある。

その山田氏も、教育分野の参入に関心があったと、取材のなかで明かした。

「教育は興味があったが、手を出すのが難しいと思っていた。責任も重いし、長期でのコミットも求められるので」

だからこそ、寺田氏のような存在がスタートアップ業界から教育に切り込むのを応援したかった、と語る。

「自分も男子校出身で、起業後も男性エンジニアが圧倒的に多い環境にいたため(以前はダイバーシティについて)あまり考えたことはなかった。(D&Iの重要性に)もっと早く気付けていれば、また全然違う展開もあったかもしれないと、今は思う

スタートアップが教育に踏み込む意義

メルカリ社長・山田進太郎氏、Sansan社長・寺田親弘氏

「教師も変える必要がある。あらゆることをやって、日本全体で変えていくしかない」

撮影:稲垣純也

校長にはZOZO元CTOの大蔵峰樹氏、クリエイティブディレクター兼理事にはオーダーメイドウェディングの「Crazy Wedding」創業者の山川咲氏、カリキュラムディレクターにはクリエイティブ集団「PARTY」代表の伊藤直樹氏。

そして今回、新たにメルカリを迎え入れ、「神山まるごと高専」には異色の起業家チームが揃いつつある。今は10月に迫る文部科学省の認可申請に向けた準備の真っ只中だ。

スタートアップ関係者が教育に携わることで、STEM人材や起業家における女性比率も上がっていくのでは、と山田氏は期待を寄せる。

「女子学生は、理系の先生が女性だと理系に進みやすいというデータもあるそうです。そうすると教師から変えないといけない。韓国や欧米ではSTEM教育に力を入れて、理系の女性比率が高まっている。日本もあらゆることをやって、全体で変えていくしかない」(山田氏)

テック業界のジェンダーギャップの解消へ向けて、課題は多く、道のりは険しい。

(ジェンダーギャップ解消のためにも)この学校を成功させたい。成功すれば、当たり前のように『なんだ、そういうこと』となるんじゃないか。(高専をつくるのは)田舎だけれど、メッセージは届くと思う。インターネットの時代ですから」(寺田氏)

壮大な旗を掲げ、船は少しずつ、動き出している。

(文・西山里緒、撮影・稲垣純也)

編集部より:工学部・理学部に進む女子学生のデータについて、参照先を文部科学省のデータに差し替えました。 2021年7月20日 12:45
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