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- アメリカのタホ湖では7月中旬、観光客らのすぐ近くで泳ぐクマの一家の姿が目撃された。
- この動画は、気候変動の影響の危険性がいかに高まっているかを示すものだ。
- 温暖化によって異常気象はますます増加していて、それから逃れようとしているのは人間だけではない。
浜辺で遊ぶ人間たちのすぐ近くをクマの一家がトボトボとまっすぐタホ湖に向かって歩いて行く動画は、かわいらしく見えるかもしれないが、実は恐ろしい話だ。
湖へ遊びに来ていた近くに住むヘザー・ブラマーさんが7月11日に撮影したこの動画は、3匹の子どもを連れた大きなクマが人間のすぐ近くを歩いて行く様子を捉えていた。どうやらクマの一家は湖へ涼みに来たようだ。タホ湖周辺のこの日の最高気温は華氏91度(摂氏約33度)に達した。この地域は記録的な熱波に見舞われていた。
しぶきを跳ね上げたり、湖の中で互いにじゃれ合うクマの一家はかわいらしく見えるかもしれないが、クマは人間にとって潜在的に危険な野生動物であり、特に子どもを連れている時は絶対に近付くべきではない。
保全生物学者のイモーゲン・カンチェラーレ(Imogen Cancellare)氏は、子連れの母クマに近付き過ぎる危険性についてツイートしている。
「子連れのクロクマはものすごく攻撃的になる可能性があり、(母クマが)何を許し、何を許さないかは必ずしも明確ではない」とカンチェラーレ氏は指摘した。
「彼女が誰かを傷つければ、州は彼女を安楽死させるだろう。そうすれば、子どもたちは餓死するか(捕獲されて)一生をケージの中で過ごすか、だ」
そして、これは人間とクマだけの問題でもない。世界自然保護会議(WCC)によると、動物たちの分布パターンの変化や人間の土地使用の変化、予測不可能な気象イベントがこうした問題をさらに悪化させそうだ。
温暖化によって異常気象はますます増加していて、それから逃れようとしているのは人間だけではない。気候難民はさまざまな形と規模で発生している。ロシアでは、生息地の氷床が溶けるにつれ、シロクマが食べ物を求めて町に入り込んでいる。オーストラリアでは、大規模な山火事で負傷したり、驚いた動物たちが住宅街に飛び出してきた。干ばつに見舞われたジンバブエでは、食べ物や水を求めるゾウが付近の町や村を襲撃した。
熱波は動物にとっても人間にとっても危険
熱波は人間と動物を"捨て身"にさせかねず、科学者らは気候変動が熱波をさらに悪化させると確信している。
アメリカの西部、南西部、太平洋岸北西部は6月に入ってから、何度も記録的な熱波に見舞われてきた。中でも6月下旬のヒートドームは数日にわたってワシントン州とオレゴン州に居座り、科学者たちを驚かせた。
7月中旬には、太平洋岸北西部の海洋生物が無慈悲な太陽によって焼き殺される中、科学者らはうだるような熱波によって10億を超える海の生き物が死んだと突き止めた。集計作業は続いていて、命を落とした動物の数はさらに増えるだろうと科学者らは見ている。
専門家は、これほど多くの生物が失われると、一部で海の安定性が損なわれ、結果的に種の多様性が低下する可能性があると科学雑誌『サイエンティフィック・アメリカン』に語った。
大気に温室効果ガスを放出する石炭や石油といった化石燃料を人間が燃やし続ける中、こうした猛暑はより一般的かつ深刻になりつつある。地球は温暖化し、さらに過酷な暑さをもたらしている。
アメリカ50都市のこれまでの記録によると、1960年代に比べて熱波の発生回数は3倍に増えていて、その期間も約1日長くなっている。そして、発生時期もスタートが早まり、終わりが延びている。"熱波シーズン"は1960年代よりも47日長くなっている。
ただ、こうした理解ですら、すでに時代遅れかもしれない。世界の極端な気象の要因を分析しているワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)は、7月の太平洋岸北西部の熱波は人間の活動によって生じた地球温暖化抜きにはまず起こり得なかったと指摘している。
「誰も予期していなかったことです。こんなことが起こり得るとは、誰も考えていませんでした。そして、わたしたちは自分たちが思っていたよりも、熱波について理解していなかったのだと感じます」と報告書の共同執筆者であるヘールト・ヤン・ファン・オルデンボルフ(Geert Jan van Oldenborgh)氏は記者会見で話した。
「気候が熱波にどう影響しているのか、わたしたちは2週間前よりもよく分からなくなっています」
(翻訳、編集:山口佳美)