アップルのバイスプレジデント(テクノロジー担当)ケビン・リンチ。2019年の開発者会議(WWDC)基調講演にて。
Brittany Hosea-Small/Getty Images
アップル(Apple)のバイスプレジデント(テクノロジー担当)ケビン・リンチが、水面下で極秘に進められている「アップルカー」プロジェクトのメンバーに加わった。詳しい関係者4人がInsiderの取材を通じて明らかにした。
リンチはアップルウォッチの設計に関わった重要人物のひとり。2013年、当時まだアイデアの段階だった同プロダクトを商品化するために鳴り物入りでアップルにジョインした。
アップルにとってまだ新たなプロダクトカテゴリーだった「ウェアラブル」の形成に大きく貢献した人物として皆が認めるところだ。
同カテゴリーは現在、四半期ごとに数十億ドルという巨額の利益を生み出している。
アップルに移籍する以前、リンチはアドビ(Adobe)の最高技術責任者(CTO)として、画像修正やグラフィック作成ツールの「クリエイティブクラウド」の市場投入に大きな役割を果たした。
また、アドビが2005年に34億ドル(約3700億円)で買収した、ウェブデザインツール「ドリームウィーバー(Dreamweaver)」で知られるマクロメディア(Macromedia)では、ソフトウェア開発チームを率いた。
現在はウェアラブル向けオペレーティングシステム「watchOS」の開発責任者であると同時に、アップルのヘルスケア分野における戦略決定にかかわるひと握りのバイスプレジデントのひとりでもある。
リンチ率いるチームの業績としては、2014年に公開された「ヘルス」アプリの開発や、心拍の電気(的)活動を検知して心房細動をチェックする心電図機能のコーディングが知られる。
冒頭の詳しい関係者のひとりによれば、リンチのアップルカー部門での任務はすでに数カ月前に始まっている。テクノロジー担当バイスプレジデントという肩書きは変わらずで、アップルウォッチとヘルスケアの両方に関与していくという。
リンチのアップルカープロジェクトへの関与およびそれが彼の担う他の役割にどんな影響を及ぼすのか、Insiderはアップルにコメントを求めたが得られなかった。
アップルは自動運転開発プロジェクトについて見直しを行っていると報じられており、ヘルスケア部門に関しても流動的な部分がある。
売上高の大部分を占めるスマートフォンの需要が鈍化していることから、アップルは新たなカテゴリーのデバイスを生み出す必要に迫られている。将来の発展をより確かなものにするため、ヘルスケアや自動車のような新たな分野を模索しているというわけだ。
幹部級の退職など開発状況は依然として不透明
2021年6月24日、米ロサンゼルス中心部のアップルストアに姿を見せたティム・クック最高経営責任者(CEO)。
REUTERS/Lucy Nicholson
ここ数年、アップルが電気自動車(EV)分野のテクノロジー開発を進めていることは、さまざまな形で報じられている。
同社のティム・クック最高経営責任者(CEO)は、自動車に関するプロジェクトが何かしら進んでいることはぼんやりと認めている。米ニューヨーク・タイムズ(4月5日付)のインタビューで、クックは自動運転関連の取り組みについてはっきり言えることはないと語っている。
「われわれアップルが何をしようとしているのか、そのうち皆さんにもわかる日が来るでしょう」
アップルは2014年、テスラ(Tesla)のようなEVスタートアップに対抗してアップルカーの開発に着手。ブルームバーグやロイターの報道によれば、2016年前後にはその規模を縮小して、基礎となる自動運転技術に特化する方針に転換した模様だ。
ロイターの昨年末の報道(12月22日付)によると、アップルは自動運転技術の開発を進めており、早ければ2024年にも旅客輸送を想定した自動車の生産を開始する計画という。
また、ブルームバーグ(6月2日)によれば、アップルは2021年上半期に離職した数人のマネジャー級人材の穴埋めとして、自動車分野のエキスパート採用を進めている。
現在アップルカー関連を率いるのはテスラから出戻り(それ以前はアップルのハードウェアエンジニアリング担当)のバイスプレジデント、ダグ・フィールド。直属の上司は機械学習・人工知能(AI)担当のシニアバイスプレジデント、ジョン・ジャナンドレア(前職はグーグル)。
一方、内情に詳しい関係者によれば、リンチはアップルカーの開発に関与することになってからも、直属の上司は最高執行責任者(COO)のジェフ・ウィリアムズで変わらないという。
ソフトウェアのエキスパートであるリンチが、アップルカー全般の監督にあたるのか、それとも自動運転開発など別の部分を担当するのかは不明だ。
また、別の詳しい関係者によれば、リンチはアップルカープロジェクトへの関与が始まって以来、ヘルスケア分野への関与が大幅に減っているという。
[原文:Scoop: Apple taps its watch mastermind Kevin Lynch to work on self-driving cars]
(翻訳・編集:川村力)