独ダイムラー(Daimler)のサブブランド「スマート(Smart)」が2020年1月にリリースした電気自動車(EV)「EQフォーツー」。
Daimler
1998年発売の初代スマート「フォーツー(smart fortwo)」は、電話ボックスのような比較的ゆったりとしたスペースと、バイクのような最小回転半径(=小回りが利く)を兼ね備えた画期的なコンセプトで、またたく間に世界の主要都市を席巻した。
ただ、当初は好調な販売台数を記録したものの、親会社の独ダイムラー(Daimler)はついにこのマイクロコンパクトカー専業ブランドを赤字経営から脱出させることはできなかった。
後続の4シーター「フォーフォー(fourfour)」や、2シーターでスピード感満点の「ロードスター(roadstar)」も、状況を打開するには至らなかった。
ジーリーと折半出資の合弁会社設立
そのスマートが2020年初頭、時代の潮流に乗りつつ、長く待ち望まれていた大きな一歩を踏み出した。2019年モデル以降は販売を中止していた電気自動車(EV)に再挑戦すると発表したのだ。
その数カ月前、ダイムラーとジーリー(Geely、浙江吉利)は、ブランドの将来を担う合弁会社スマート・オートモービル(Smart Automobile)を設立。
ボルボカーズ(Volvo Cars)および同社とのEV合弁会社ポールスター(polestar)を傘下に置く中国の自動車大手ジーリーと、伝統あるシュヴァーベン(=ダイムラーの本拠シュトゥットガルトを含むドイツ南西部の地方)の自動車大手が折半出資とのニュースは、関係者を大いに驚かせた。
あれから1年以上が過ぎた7月16日、スマート・オートモービルは初めて市場投入するプロダクトのティーザー画像をインスタグラム(Instagram)に投稿した。
スマート公式インスタグラムアカウントが投稿した新型EVのティザー画像。
Screenshot of @smart_worldwide/Instagram
都市の交通環境に特化した実用的なコンパクトカーとして名を売ってきたスマートが、EV市場再進出の第一歩として選んだのは、なんと多目的スポーツ車(SUV)だった。
自動車専門誌「アウトモトーア・ウント・シュポルト(Auto Motor und Sport)」の過去記事によれば、同車種は社内で「HX11」のコードネームで呼ばれ、全長約4メートルの5シーター設計。
9月初旬にミュンヘンで開催されるドイツ自動車工業会主催の国際見本市「IAAモビリティ」でワールドプレミアが行われるという。
ただし、合弁会社スマート・オートモービルのバイスプレジデント(グローバルセールス・マーケティング担当)ダニエル・レスコーのリンクトイン(LinkedIn)投稿によれば、見本市への出品はデザインスタディ段階のものになるようだ。
また、レスコーはすでにリンクトイン上で技術面の詳細と新型SUV「HX11」の基礎情報を公開している。
それによれば、浙江吉利が開発したEV向けプラットフォーム「サステナブル・エクスペリエンス・アーキテクチャー(SEA)」を採用し、安全性が高く、急速充電に対応する。
エンジンは車体後部に搭載され、最高出力250馬力、最大70kWhの容量を持つリチウムイオン電池で航続距離は500kmに達するという。
HX11の生産拠点はフランス北東部のハンバッハ工場から中国に移されるが、市場投入は欧州が最初となる見通し。発売開始は2022〜23年。
最後に、スマートはSUVを皮切りとする今回のブランド再構築を機に、従来のコンパクトカー路線を完全に脱却する、というわけではなさそうだ。
少なくとも、ダイムラー主導で2020年初頭にリリースされたEV「EQフォーツー」の後継にあたる新型モデルが合弁会社からリリースされる可能性が高い。
しかし、仏ルノーのコンパクトカー「トゥインゴ(TWINGO)」そっくりの4シーター「フォーフォー」には、あまり明るい未来はなさそうだ。
(翻訳・編集・補足情報:川村力)