REUTERS/Charles Platiau
2015年10月、アリババグループは杭州市の西湖エリアで「第1回雲栖(うんせい)大会」を開いた。同イベントは2009年から隔年で開催されていたアリババの開発者大会を、イノベーションやコンピューター、データにフォーカスした次世代技術イベントとして発展させたものだ。バイドゥ、アリババ、テンセントからなる「BAT」が、米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に並ぶ存在として国際的に注目される中、ジャック・マー氏は過去2回の産業革命を引き合いに出しながら、21世紀の「第三次産業革命」でどんな変化が起きるか、企業や個人がどう対応すべきかを語った。
20分にわたるスピーチを要約して紹介する。
起業家、そしてイノベーターの皆さんこんにちは。
昨日、ある外国の大使からこう聞かれました。
「アリババはニューヨークで上場しましたね。次の夢は何ですか」
私の夢はもっと遠くにあります。102年企業になることですから。ようやく16年が過ぎました。あと86年存続させなければなりません。ただこれからの86年における本質的な願いは、私たちの存在と努力によって、より多くの人々の夢を実現することです。
中国の成長には目を見張るものがあります。インターネットの発展は、従来型経済の機会を奪ったと思っている人もいるでしょう。しかしこの会場も設計からわずか85日で完成したそうです。機会がないはずはなく、行動するかどうかです。このようなスピード感、夢があれば、それは実現します。
私たちは多くのことを理解できませんが、理解できないのは素晴らしいことです。分からないから好奇心を持ち、探索できるのです。
この数年、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が中国にあるイノベーション、アイデア、起業のチャンスを全て手中に収めたという話をよく見聞きします。思い出してください。20年前、私たちはビル・ゲイツ、IBMにチャンスを奪われたと感じていました。しかしこの20年で、数えきれないほどの企業が生まれました。
BATという3巨人を前にして、自分たちに機会があるはずもないと考える人もいるかもしれません。しかし言っておきましょう。村の地主が戦死したら、村人は豊かになりますか。BATが今後成長を続けるとしても、皆さんが勝利を収める機会はあります。なぜなら今の起業環境、起業周りのインフラ、そして金融環境は15年前よりはるかによいからです。人の素養、起業の能力といった面でも、当時の私たちは足元にも及びません。
皆さんはアリババの創業メンバー18人を非常に素晴らしいと言ってくれますが、18人が16年前に起業したのは、いい仕事が見つからなかったからです。私たちは立派な学歴、経歴、コネがありませんでした。私たちが一緒に事業を起こしたのは、努力をすれば夢がかなう未来があると信じたからです。
データが石油に代わる人類の最も重要な資源になる
チャンスはどこにでもあります。人類にとって最初の産業革命で、イギリスは50年かけて世界の強国になりました。第二次産業革命では、米国が50年かけて強国にのし上がりました。
では現在の産業革命はどれくらい続くでしょう。やはり50年だと考えています。今日までの20年は、インターネットが猛烈な勢いで発展した20年でした。次の30年は、インターネットが社会のさまざまな領域に融合していく時代になるでしょう。そして次の30年は、スタートアップにとって巨大なチャンスを生み出すでしょう。
第一次産業革命では工場ができました。第二次産業革命では企業が生まれました。では今回はどんなビジネスの形や組織を生むのか。これは皆さんがしっかりと考えなければなりません。
アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は2021年7月、自ら設立した宇宙開発企業の宇宙船で宇宙旅行を実施した。ITが生み出した富が、さらなる先進技術に延伸している。
Reuters
1回目の産業革命は、人力の限界を突破しました。2回目の産業革命はエネルギーの利用によって、人類がはるか遠くへ行けるようになりました。そして今回の産業革命がIT時代からDT(データテクノロジー)時代にシフトする中で、人類には何が起こるでしょうか。
人類は「新しいエネルギー」の時代に突入しています。この時代のコア資源は、石油ではなくデータです。将来、データは生産のための原材料になります。そして未来の生産力を構成するのは、コンピューティング能力、起業家の能力、イノベーション能力、企業家精神です。
データはおそらく、最も重要な原材料になり、水、電気、石油のような公共資源の地位を得るでしょう。人類は石油のような新たな資源を手にする前に、月に行けるとは想像もしなかったはずです。人類がコンピューティング能力を手にしたとき、人類がどこに到達しようと考えるのか想像もできません。ただ間違いないのは、コンピューティング能力とデータを持ったとき、天地がひっくり返るような変化が起きます。
DT時代、人類は本当の意味でスマート時代を迎えます。強大なコンピューティング能力は人類の大脳になるでしょう。多くの人はインターネットに反感を持っているかもしれません。インターネットはさまざまな打撃を各方面に与えました。しかし適応しなければなりません。産業革命は常に従来の生産システムに打撃を与えます。それでも産業革命は人類の進歩のための重要なマイルストーンなのです。
第三次産業革命が引き起こす戦争とは
第一次産業革命は、筋肉の戦いでした。つまり身体能力を競う試合だったから、第一次世界大戦を引き起こしました。第二次産業革命では、人はエネルギーのおかげでより遠くへ行けるようになりました。それが第二次世界大戦につながりました。
では今回の産業革命で第三次世界大戦は起きるのでしょうか。それは人間の世界から貧困、病気、環境汚染をなくす戦いになります。私たちにとって巨大なチャンスでもあります。
アリババが本社を置く杭州市では、AIとビッグデータを活用したスマートシティの構築が進む。
Reuter
思考を技術のもう一歩先に伸ばしましょう。人類には第三次世界大戦が必要です。病気、貧困、環境悪化と戦わなければなりません。その際に私たちの強力な武器になるのがコンピューターであり、クラウド能力です。
最も貧困なところでコンピューターと世界を結べば、人類が貧困に打ち勝つ可能性は大幅に上昇するでしょう。企業が生存する方法も変わります。小さい企業は大企業と同様の機会を得ますし、イノベーションが企業の成功を決定づける要素になるでしょう。
この時代に追求すべきは肉体でなく知恵です。サービスの規模ではなく、サービスの質であり体験です。そしてコンピューターやデータの力があれば、男女は本当の意味で平等になります。皆さんもご承知のように、女性経営者、女性政治家がどんどん増えています。彼女たちは他者の気持ちに敏感です。
コンピューターによって思考力が既存の壁を突破できれば、行政サービスも変わるでしょう。政府が唱えるサービスの向上は、ビッグデータ、クラウドコンピューターなしには不可能です。
政府部門の規制はビッグデータと切り離せないものになるでしょう。DT時代はより公平でより透明で、よりオープンです。全ての人がつながり、連携できます。
DT時代の要は「利他思想」です。IT時代は、自分が強くなることを追求する時代でした。他者より多くのことを知っている人が有利でした。しかしDT時代は、従業員、顧客、パートナーを、あなたより、そして過去の彼らより強くすることで、あなたも成長できるのです。
だから私は、DT時代は技術の変革ではなく、思想の変革が起こると考えています。DT時代は人と機械の関係が変わるのではなく、人と人の関係が変わるのです。
お金は使ってこそ増えるもの
中国経済を見てみましょう。中国には3億人の中所得者がいます。今後15年で中所得者は5億人に増えるでしょう。米国の中所得者層は5億人弱ですが、この5億人が内需を維持し、世界経済の成長をも左右しています。
中国が成長を続けるために、どうやって内需を掘り起こせばいいでしょうか。ここにいる起業家、イノベーターの方々には内需を掘り起こす方法を考え尽くしてほしいです。健康、娯楽、スマート製造などの面からアプローチしてみましょう。そうすると中国の経済や人々の生活はよくなります。
私たちは消費を推進しなければなりません。お金は使ってこそ増えるもので、節約しても増えません。投資して、使いましょう。人生は節約に励むためにあるのでしょうか。起業家、イノベーターは他の人が使いたい、買いたい思う商品やサービスをつくりましょう。そうして消費経済が成り立つのです。
起業家にとってお金はもちろん大事ですが、夢や努力の方が大事です。アリババは15年前、シリコンバレーで資金調達を30数回試み、30数社を訪問し、全部断られました。多くの人は、今は資金調達が困難だと言いますが、昔と比べて難しいわけではありません。私たちが2000万ドルを調達したとき、その年に最も多くのお金を調達した会社になりました。でも今は10億ドルを調達する企業もあるでしょう。
使うべきものには使い、使うべきでないときは節約する。長期的な視点を持ちましょう。3年ではなく、30年の競争を見据えるのです。
中国経済の本当の未来は、私たちのひらめき、イノベーション、創造から開けます。皆さんありがとうございます。
(翻訳/構成・浦上早苗、写真・VCG/VCG via Getty Images、連載バナー画像デザイン・星野美緒)