イラスト:iziz
シマオ:皆さん、こんにちは! 「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。今日のお便りは、佐藤さんの連載をご愛読いただいている方から頂きました。
こんにちは、私は「はたらく哲学」の連載が読みたくて、有料会員になりました。会員になってからすぐに過去の連載も全て読み、佐藤さんが勧めていた資格を全て取得するため、現在ビジネス数学検定の2級を勉強中です。 佐藤さんにお聞きしたいのは、現代の日本人で、佐藤さんが一目置く人物を何名か教えていただきたいです。分野は問いませんが、ビジネスパーソンも含めていただければ嬉しいです。その方々から学び取り、私も会社でまた社会で一層活躍していきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
(Shinさん、30代前半、男性)
佐藤流、ロールモデルの見つけ方
シマオ:Shinさん、ありがとうございます! 前の連載から継続して読んでくださっているとのこと、嬉しいですね。
佐藤さん:私のアドバイスを着実に実行してくださっているとのこと、ありがとうございます。ぜひ継続していってください。頂いたご質問の趣旨は、ビジネスパーソンとしてロールモデルとなるような人物を教えてほしいということだと思います。
シマオ:そうですね。やっぱり、「名経営者」的な人でしょうか?
佐藤さん:実は、ロールモデルというのは、基本的に自分が携わっている分野で見つけたほうがいいんです。ノウハウとして活きるかどうかは、業界や職種によって大きく変わってしまうからです。
シマオ:なるほど……。社長業なら経営者の話を直接活かせるけど……ということか。
佐藤さん:はい。必然的に私にとってのロールモデルは、外交官やインテリジェンス関係、作家ということになってしまいます。ですから、それがそのままShinさんにとってもロールモデルになるとは言えないのですが、見つける上でのヒントにはなると思います。
シマオ:具体的に、佐藤さんはどんな方がロールモデルだったんでしょうか?
佐藤さん:まず、ロシアで外交官をするにあたってはロシア語を極めなければなりません。その第一人者であった川端一郎さん(元カザフスタン大使)が、まず私にとってのロールモデルでした。あるいは、どのように権限を行使するかという面では東郷和彦さん(元外務省条約局長)がモデルとなりました。情報関係でいうと、イスラエルの諜報機関モサドの長官を務めていたエフライム・ハレヴィ氏です。ハレヴィ氏については『イスラエル秘密外交』という著書が翻訳されていますから、興味があれば読んでみてください。
シマオ:その時の仕事によって、ロールモデルとなる人が変わっていく訳ですね。モデルとなる人を見つけるにあたって、どんなところに着目すればよいのでしょうか。
佐藤さん:それはケース・バイ・ケースですが、重要なのは自分に必要不可欠で、かつ足りていない部分を持っている人を見つけることです。具体的には、自分より年次が上の人を、5・10・15年……と5年刻みで見ていって、それぞれの段階で尊敬できる人をモデルにするのです。
シマオ:僕は会社で営業の仕事をしていますけど、ものすごく人脈の広い先輩っているなぁ……。営業にとって人脈構築の能力は不可欠ですから、そういう人をモデルにすればいいということですね。
佐藤さん:その通りです。
仕事のやり方を気づかせてくれた人たち
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シマオ:そうやってロールモデルとなる人を見つけたら、その人の一挙手一投足を真似していくようにすればいいのでしょうか?
佐藤さん:もちろん、真似をして学ぶことも大切です。しかし、ロールモデルとなる人物とまったく同じ仕事の仕方をしなくても、その人を通して、自分が目指すべき仕事のスタイルを構築していく方法もあります。
シマオ:どういうことでしょうか?
佐藤さん:私が起訴されて外務省を休職になり、作家への道を歩み始めた頃に、後の仕事のスタイルに大きな影響を与えたのが、井上ひさし先生や竹村健一先生です。私はそもそも作家になる気はありませんでした。けれども、井上ひさしさんは私がそれだけで終わらせるつもりだった最初の作品『国家の罠』の中に、次の作品のテーマとなるべきものが内包されていることを見抜いておられました。
シマオ:それが作家としての仕事につながったんですか?
佐藤さん:影響は大きかったと思います。実際に作家としての編集者との付き合い方—— 各出版社に3世代の知り合いを持つこと—— を教えてくださったのも井上先生でした。
シマオ:3世代、ですか?
佐藤さん:一人の編集者との付き合いだと時間が経った時に自分の理解者を失う可能性があるからです。ベテラン、同世代、若手と3人と付き合うことで、自分を理解し、能力を引き出してくれる人と常に仕事をすることができるのです。
シマオ:なるほど!
佐藤さん:それから、竹村先生からはテレビとの付き合い方を学びました。
シマオ:佐藤さんはテレビにほとんど出演されませんよね?
佐藤さん:はい。当時テレビに多数出演されていた竹村先生から、テレビの世界というのは影響力が大きい代わりに非常に消耗するものだと教えていただきました。毎日「まっさら」の状態で画面に出て、失敗すれば全て終わりの厳しい世界です。竹村先生から、あなたは活字の世界の人間であって、テレビで可能性を潰してしまうことには注意したほうがいいとアドバイスを受けたのです。
シマオ:それは説得力がありますね。
佐藤さん:このように、自分の目指すべき仕事のスタイルに気づかせてもらえるタイプのロールモデルもあると思います。
会社でロールモデルが見つけられないときは?
シマオ:でも、こうやってお便りをくださるということは、Shinさんの会社にはロールモデルとなるような人がいないということなのかもしれません。僕もそう思っていた時期があって、佐藤さんにいろいろ相談に乗っていただきました。
佐藤さん:ロールモデルが見つからないのは、多くの場合、他社ばかり見てしまっているためだと思います。シマオ君は『青い鳥』の話を知っていますよね?
シマオ:チルチルとミチルの兄妹が、幸せの青い鳥を探したけれど、実は最初から家にいたって話でしたよね。
佐藤さん:はい。それと同じで長く一つの会社で働いていると、隣の芝生が青く見えるように他の会社には優れた人がたくさんいると思い込んでしまうのです。
シマオ:そうではないと?
佐藤さん:もちろんその可能性もありますが、曲がりなりにも生き残っている会社なら、ちゃんと能力を持った人が誰かいるはずです。もし、自分よりも20年上までロールモデルとなる人がいないのだとすれば、それはいわゆるブラック企業か、よほど社風が合わないのでしょう。
シマオ:もしそうなら、転職をしたほうがいいですか?
佐藤さん:それも考えるべきでしょうね。とはいえ、まずは視野を広げて周りの人を見てみることをおすすめします。メディアでもてはやされるような分かりやすいキャリアを積んだ人でなくとも、ロールモデルとなる人はいるはずです。
シマオ:ちなみに、そういった方を見つけるためには、どういうところ を見るとよいのでしょうか?
佐藤さん:同じような仕事をしていても、なぜかその人の評判の方がいい、というような人はいないでしょうか。例えば、私はチェーンのコーヒーショップをよく利用しますが、同じチェーンであっても、入ってみればそのお店の店長のマネジメント能力の違いというのが、おおよそ分かります。
シマオ:え、チェーンなのにお店によって異なるんですか?
佐藤さん:はい。店内の清掃状況からサンドイッチの味、これはレタスなどの具材の入れ方などにも左右されるのですが、大きく違います。そして、マネジメントの行き届いた店というのは、やはり繁盛しているものです。
シマオ:同じように見える仕事でも、やり方で大きく変わるということですね!
佐藤さん:はい。目立たなくても、そういう成果を上げている人は立派なロールモデルとなるでしょう。Shinさんは私の勉強法についてのアドバイスを参考にしてくださっているようです。ぜひロールモデルも、会社の先輩や同業者など身近なところから見つけていただくとよいと思います。
シマオ:Shinさん、ますますのご活躍を願っております!
「佐藤優のお悩み哲学相談」、そろそろお別れのお時間です。引き続き読者の皆さんからのお悩みを募集していますので、こちらのページからどしどしお寄せください! 私生活のお悩み、仕事のお悩み、何でも構いません。次回の相談は8月11日(水)に公開予定です。それではまた!
佐藤優:1960年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。85年、同志社大学大学院神学研究科修了。外務省に入省し、在ロシア連邦日本国大使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴され、09年6月有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。現在は執筆や講演、寄稿などを通して積極的な言論活動を展開している。
(構成・高田秀樹、イラスト・iziz、編集・野田翔)