Insiderは、フィンテック分野のトップ・ベンチャーキャピタリスト(VC)たちに新進気鋭のフィンテック・スタートアップを選んでもらった。
名前の挙がった企業のうち、本稿では、消費者向け(B to C)のフィンテック・スタートアップ企業8社をピックアップして紹介する。Z世代向けやミレニアル世代向け、社会的マイノリティ向けに特化した金融サービスや、投資アプリ、独立系オンライン銀行などが並んだ。
なお各社の推定総調達額は、特段の記載がない限り、調査会社PitchBookの報告書に基づく。
ステップ(Step)
ステップの共同創業者兼CEO CJ・マクドラルドと共同創業者兼CTOアレクシー・カレニチエンコ
Step
推薦したVC:ストーン・ブリッジ・ベンチャーズ
総資金調達額:1億7500万ドル(約195億2500万ドル)
概要:10代向けの銀行アプリを提供。口座と紐付けることで残高確認や送金ができる。VISAカードとして支払いに利用することも可能。
推薦理由:ストーン・ブリッジ・ベンチャーズのマネージング・パートナー、ジェイク・シードは次のように語っている。
「年齢的に言って、子どもは金融サービスを利用することはまずできません。その結果、小さいうちに家で金融リテラシーを身につける機会はなかなかないのです。
ステップは素晴らしいユーザー体験を提供することで、この2つの問題を解決しています。そのおかげで2021年には半年足らずで150万人ものユーザーを獲得し、シリーズBから間を置かずに実施されたシリーズCで1億ドル(約110億円)を調達しました」
アルバート(Albert)
アルバートのCEO兼共同創業者イーノン・レイヴィッド
Albert
推薦したVC:QED(出資者)
総資金調達額:1億7300万ドル(約190億3000万円)
概要:サブスクリプション型のファイナンシャル・アドバイス・アプリ。ユーザーはテキストメッセージを使って、お金に関する質問をアドバイザーとやり取りできる。
推薦理由:「アルバートは、金融リテラシーと、コロナ禍によって加速するデジタル化という、当社が近年注目する2つの本質的なテーマを組み合わせたサービスです」と、QEDのマネージング・パートナー、ナイジェル・モリスは語る。
「アルバートのアプリは、ミレニアル世代のニーズにぴったり合っています。彼らの中には、お金に関する相談を誰にすればいいのか分からないという人が多いですから。いつでも使えるデジタルお金管理ツールとして、ミレニアル世代の支出管理、負債返済、貯蓄をサポートしてくれるんですから、これほど需要を満たす製品は他にはあまりないでしょう」
タイタン(Titan)
タイタンの共同創業者ジョー・パーコーコー、マックス・バーナンディ、クレイトン・ガードナー
Titan
推薦したVC:セコイア・キャピタル
総資金調達額:7500万ドル(約82億5000万円)
概要:投資運用アプリ。自動投資機能を使えば、ヘッジファンドや機関投資家のようなポートフォリオ運用が可能となる。
推薦理由:セコイア・キャピタルのパートナー、ジョセフィン・チェンは次のように語っている。
「個人投資家は、これまで機関投資家にしかアクセスできなかった金融商品にアクセスしたいと思っています。タイタンは個人投資家向けにアクティブ運用の金融商品を提供している訳ですから、いわば新時代の『フィデリティ』のようなものです。まずは株式から始めて、いずれ暗号通貨にも広げていくつもりです」
HMブラッドリー(HMBradley)
HMブラッドリーの共同創業者兼CEOザック・ブランク
HMBradley:ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ
総資金調達額:2180万ドル(約23億9800万円。出所:クランチベース)
概要:顧客の預金率等によって階層的に預金金利を設定するオンライン銀行サービスを提供。
推薦理由:「いま国内外で、数多くの独立系オンライン銀行が誕生しています。HMブラッドリーには経験豊富で思慮深いメンバーが揃っており、各種の預金について階層的な預金金利を設定することで、たくみに顧客を獲得しています」
そう語るのは、ベッセマー・ベンチャー・パートナーズのパートナー、チャールズ・バーンバウムだ。
「HMブラッドリーは、さらに初期段階にある競合の一歩先を行っています。同社の魅力は、よく練られた戦略や、多様な技術を使って開発したテクノロジー・プラットフォーム、積極的なリバンドリング(金融機能を自分で組み合わせることができる)能力などにあります」
ブレラ・インシュアランス(Brella Insurance)
ブレラ・インシュアランスのCEO ヴィア・ギドワニー
Brella
推薦したVC:トゥー・シグマ(Two Sigma)(出資者)
総資金調達額:2200万ドル(約24億2000万円)
概要:オンライン医療保険会社。1万3000種類以上の疾病やケガをカバーする。
推薦理由:トゥー・シグマ・ベンチャーズのパートナー、コーリン・ビアーンは同社の魅力を次のように説明する。
「ブレラは、シリーズAの段階にあるニューヨーク拠点の企業です。アメリカ人世帯が破産に追い込まれる最大の要因は『保険でカバーされない突然の治療費』。同社はそこに注目した保険サービスを提供しています。
多くの雇用主は、保険料を削減するために免責金額(保険金の支払いが発生するような事故が起きた際、被保険者が自己負担しなければならない金額)の大きい保険への切り替えを進めています。その結果、多くの人が経済的な不安を抱えているのです。
ブレラはこの問題を解決するため、包括的で一体型の分かりやすい医療保険を提供しています。これなら安心感が得られますし、スピーディーな保険金支払いによってリスクも軽くなるでしょう」
ファウンド(Found)
ファウンドの共同創業者ローレン・マイリックとコナー・ダン
Found
推薦したVC:セコイア・キャピタル(出資者)、インデックス・ベンチャーズ
総資金調達額:1520万ドル(約16億7200万円)
概要:個人事業主向けに金融サービスを提供。
推薦理由:「ファウンドは個人事業主向けに、銀行サービスや税務管理、支出管理、請求システムまで、金融ツールキットを開発しています。創業者のローレン・マイリックは、セコイアで10年にわたって、そうしたツールを開発してきました」
セコイア・キャピタルのパートナー、ジョセフィ・チェンはそう語る。
「同時にマイリック自身が長年、会計士として働き、自営業を営む家族をサポートしてきた経験から、個人事業主に深く共感しています」
インデックス・ベンチャーズのパートナー、マーク・ゴールドバーグも次のようにつけ加える。
「ギグ・エコノミーが拡大を続ける中、個人事業主は金融管理に役立つツールを必要としています。ファウンドは、この課題を見出した草創期のスクエア(Square)の元社員たちが創業。強力なチームとプロダクトが生まれました」
デイライト(Daylight)
デイライトの共同創業者兼CEOロブ・カーティスと共同創業者兼COOビリー・シモンズ
Daylight
推薦したVC:ファイナンシャル・ベンチャー・スタジオ
総資金調達額:500万ドル(約5億5000万円)
概要:LGBTQ+向けのオンライン銀行。ユーザーは自分の好きな名前を使うことができ、貯蓄目標を立てたり、コミュニティ内でユーザー同士がつながることも可能だ。
推薦理由:ファイナンシャル・ベンチャー・スタジオの共同創業者兼マネージング・パートナー、ライヤン・ファーヴェイは、同社の魅力を次のように語る。
「LGBTQ+の市場は3000万人規模、1兆ドル(約110兆円)もの購買力を持つアメリカ国内屈指の市場です。これは多くの国家の経済規模を上回っており、しかも急成長しています。
LGBTQ+を自認する人の割合は、ミレニアル世代では10%であるのに対し、Z世代では30%にのぼります。にもかかわらず、LGBTQ+の消費者は銀行で差別的な扱いを受けがち。ローンの承認率は低く、手数料は高く、サービスは冷たくて硬直的です。デイライトのプロダクトはLGBTQ+コミュニティ向けに、個々人に合った受容的で柔軟な体験を提供しています」
なおデイライトは、サービスを十分に受けられないコミュニティにサービスを提供するフィンテック企業10社の1つとして、Insiderで過去にも取り上げている。
ファースト・ブルバード(First Boulevard)
ファースト・ブルバードの共同創業者デイビッド・ホーキンズとアーシャ・ブラッドリー
First Boulevard
推薦したVC:ハーチメモス/リビー
総資金調達額:500万ドル(約5億5000万円)
概要:アフリカ系アメリカ人向けのオンライン銀行サービス。
推薦理由:「ファースト・ブルバードは黒人コミュニティ向けの、透明性の高いトップクラスの銀行サービスです。この層は金融界では長年にわたって少数派であり、機会も経済的安定性も、富を築くために必要な金融サービスも享受できずにいました」と語るのは、ハーチメモス/リビーの共同創設者兼マネージング・パートナー、オリバー・リビーだ。
デイライトと同様、ファースト・ブルバードもInsiderが選ぶ「サービスを十分に受けられないコミュニティにサービスを提供するフィンテック10社」に選出されている。
またファースト・ブルバードは、VISAが取り組む暗号資産サービスのAPIを試験運用した最初のフィンテック企業でもある。
(翻訳・住本時久、編集・野田翔)