ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は純資産が220億ドル(約2兆4200億円)超、投資先リストがおよそ500社にふくれ上がったいまも、出資前に創業者と対話することを欠かさない。
孫は最近、米マサチューセッツ州ボストンに本拠を置くスタートアップで、自宅でできる飼い犬のDNA検査キットを開発・販売するエンバーク(Embark)のライアン・ボイコ共同創業者兼最高経営責任者(CEO)と話す機会があった。
経営者としての長期的ビジョンやビジネスをどうスケールするかといったお決まりの質問以外に、孫にはボイコに伝えたいことがあった。
彼の愛犬のDNAをエンバークで検査してもらえないか、というのがそれだ。
「孫さんはいま飼っている愛犬や以前飼っていた犬の話をしていました」とボイコはふり返る(なお、孫の愛犬のDNA検査結果はさすがに教えてくれなかった)。
孫はボイコ率いるエンバークとそのプロダクトの素晴らしさに感動し、ソフトバンクグループは同社のシリーズBラウンドの資金調達(総額7500万ドル)でリードインベスターを務める結果となった。
2019年に実施したシリーズAラウンド(総額1000万ドル)で出資したエフプライム・キャピタル(F-Prime Capitalなどのベンチャーキャピタルも、再び出資者の顔ぶれに加わった。
自宅でできる飼い犬のDNA検査キットを開発・販売するエンバーク(Embark)のウェブサイトより。
Screenshot of Embark website
エンバークへの出資は、孫とボイコの対話のあと、ソフトバンクグループ(傘下のビジョンファンド)のパートナー、リディア・ジェットとのカジュアルミーティングがくり返され、わずか数週間で合意に至った。
「最高の会話というのは、コーヒーやランチの間に生まれるものだと私は思っています。投資家向けにプレゼンするとき以上に、ビジネスについて突っ込んだ話ができますよね」
ジェットは、ボイコと彼の実弟で共同創業者のアダム・ボイコ(コーネル大学獣医学部准教授)の科学面での能力の高さに感動したという。
「ボイコ兄弟は獣医学分野の調査・研究に長く携わり、従来あまり資金が投じられてこなかったカテゴリーについて、きわめて詳細な得がたい知識を積み重ねていたのです」
ジェットはさらに、エンバークが2015年の創業以降、コーネル大学や「ウェストミンスター・ケネルクラブ・ドッグショー」(=1877年から毎年ニューヨークで開催されている著名な犬種品評会)などとの間に、すでに良好な協力関係を築いていることも評価した。
「すでに十分な実績のあるビジネスなので、分析と把握も容易でした」(ジェット)
ただし、ソフトバンクが大規模な出資を決めるには、エンバークがこれから数年あるいは数十年のうちに、飼い犬のDNA検査するだけの企業ではなく、それ以上の存在に進化していく道筋が見通せる必要があった。
「私たち(ソフトバンクグループおよびビジョンファンド)が素晴らしいと感じたのは、ボイコがこれまで積み重ねてきたビジネスの財務面だけではありません。
それ以上に、犬の健康状態を改善し、寿命を延ばすための専門知識やデータ、サイエンスにもう少し資金を投入したら何ができるか、というところまでリーチを伸ばす熱意に興奮をおぼえました」
ボイコは今回の資金調達の詳細が公表される前、親しい友人や家族にソフトバンクグループから投資を受けることになったことを伝えたが、その反応が面白かったという。
「友人や家族はそれまで、エンバークに誰が出資しているかなんて何ひとつ知らなかったんです。それがいまでは『このビジネスはホンモノだ』なんて言うくらいです」
[原文:How SoftBank CEO Masayoshi Son's dog helped two brothers fetch $75 million for their pet DNA startup]
(翻訳・編集:川村力)