稼働を開始した「IBM® Quantum System One」。
提供IBM
IBMと東京大学は7月27日、日本・アジア初となる商用量子コンピューター「IBM(R) Quantum System One」の稼働を開始したことを発表した。
今回稼働が開始した量子コンピューターは、「ゲート型」と呼ばれるタイプのもので、IBMの同装置の設置はアジア太平洋地域で初。世界でもアメリカ、ドイツに続いて3番目の導入となった。
このシステムが設置されたのは、「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター(KBIC)」。電力や冷却設備など、安定稼働のためのインフラを提供する。
IBMによると、このシステムの稼働は、 2019年12月にIBMと東京大学で発表した「Japan–IBM Quantum Partnership」に基づくもので、 東京大学が本システムの占有使用権を持つことになるという。
このパートナーシップでは、
- 産業界と共に進める量子アプリケーションの開発
- 量子コンピュータシステム技術の開発
- 量子科学の推進と教育
の3つの取り組みを進めるとしていた。
7月27日に開催されたイベントに登壇した、東京大学の相原博昭副学長は、
「これを使うということに意味をもたせたい。ハードウェアとして昇華したときに、ユーザーがどう使うかという視点を入れることが量子技術の今後の発展に重要だと思います。
東大としては、System OneやIBMの世界中の量子コンピューターを使っていく中で、何ができるのか。古典コンピューターにはできないことを実現できるということを示していきたい」
と語った。
量子コンピューターは、多くの人が持っているパソコンなどのコンピューターとはまったく異なる仕組みで計算することができる次世代のコンピューターだ。そのため、量子コンピューターを使うには、量子コンピューターに適したアルゴリズム(計算手順)を用意する必要がある。
量子コンピューターでは、どんなアルゴリズムによって何が実現できるのかという点も、研究開発の途上といえる。
2019年10月には、Googleが開発するゲート型量子コンピューターが、既存のコンピューターの計算速度を大きく上回ったことが発表された。
特定の問題に限られた形ではあるものの、量子コンピューターが既存のコンピューターを上回る速度で計算できる「量子超越性」を初めて実証したことから、大きな話題となった。
このように量子コンピューターの研究開発は、世界で切磋琢磨されている。
日本でも、2021年2月には、国の量子技術イノベーション戦略に基づいて、理化学研究所を中心とした量子技術イノベーション拠点が発足したばかりだ。
なお、IBMやGoogleが開発する「ゲート型」のほかにも、カナダのD-WAVEなどが手掛けている「アニーリング型」と呼ばれるタイプの量子コンピューターも存在しており、それぞれ原理がことなる。
(文・三ツ村崇志)