世界でも屈指のおもちゃメーカー・レゴは、“プラスチック”にまつわる大きな問題に挑戦している。
撮影:小林優多郎
年間生産量、約9万8674トン。
このとてつもない数は世界的なおもちゃメーカー「レゴ」のレゴブロックにおける、2020年の生産実績だ。ブロック数で言えば約1000億ピースにものぼる。
レゴブロックの素材には主に石油を原料とするABS樹脂が使われているが、レゴは2021年6月に「使用済みペットボトルを再利用したレゴブロックの試作品」を発表した。
これは同社が2015年に発表した「2030年までにすべての製品に持続可能な素材を使用する」という目標に沿ったものだ。
業界を代表するグローバルメーカーが、新しい素材で製品を生み出すにあたってどんな課題に直面しているのか。レゴグループ環境責任兼サステナブル・マテリアルズ・センターのバイスプレジデントであるTim Brooks(ティム・ブルックス)氏に話を聞いた。
使用済みペットボトルから生まれるブロック
「使用済みペットボトルを再利用したレゴブロックの試作品。
出典:レゴ
ブルック氏は冒頭「ブロックを石油ベースでつくるのは地球に負荷があると認識」していると話した。
既に100種類のパーツが持続可能な資源からつくられているが、前述の通り、全体の多くを占める製品はバージンプラスチック(注:原料が再生素材ではないプラスチックのこと)でできている。
2×4サイズのレゴブロック。ブロック同士をつなげる突起(スタッド)を除くと大きさは32mm×16mm×9.6mm。
出典:レゴ
今回発表されたブロックは、廃棄された飲料用ペットボトルのポリエチレンテレフタレート樹脂が使われている。例えば、1リットルサイズのペットボトルからは、平均して2×4のブロック10個分の原材料が得られる。
原材料となるペットボトルも、米国食品医薬品局(FDA) と欧州食品安全機関(EFSA)の承認を受けたアメリカのサプライヤーからの調達に限定するなど、素材自体の信頼性・透明性も担保するという。
乗り越えるべきハードルは大きく2つ
レゴブロックの製造は、実は見た目より簡単ではない。
出典:レゴ
とはいえ、再生素材の採用は“石油由来から使用済みペットボトル由来の原材料に変えた”という単純な話では済まない
ブルック氏は乗り越えるべきハードルとして「商品の品質精度」と「安全性」の2点を挙げる。品質について驚かされたのは、ブロックの製造が始まった1958年からの歴史を意識している点だ。
「サステナブルな素材は多くあるが、レゴブロックにするのが難しい。1つは精度。ABS樹脂でできたブロックの上に、リサイクル素材のブロックを乗せたとしても、きちんとハマらないといけない。
消費者はタワーもお城も(同じブロックで)つくる。さらに、子どもでも容易にバラせるようにしないといけない。人間の髪の毛より薄い、1ミクロン単位の精度が必要だ」
筆者もレゴには多くの思い出がある。確かによほど破損が大きかったり、老朽化が進んだブロックでない限り、くっつかないという印象はない。
さまざまな環境で子どもが扱う「おもちゃ」であるが故に、その検査項目には独自なものもある。
出典:レゴ
ブルック氏によると、石油由来の現在のブロックに比べてリサイクル素材のブロックは、やや柔らかくなるという。そこに企業秘密である別の素材を混ぜることで、硬さを確保する。
硬くすることは、もう1点の安全性にもつながる。ここにもまた「おもちゃ」らしいレゴの独自の基準がある。
「例えば、温度。氷点下の場合から暑い場合は約50度まで想定されている。
他にも、バターテストと呼ばれるものもある。子どもたちは指をバターで覆ったままブロックを扱うかもしれないし、唾や汗がついた状態でもブロックの性能が出せるか。さまざまな課題がある」
今回の使用済みペットボトル由来のレゴブロックは現時点では試作品で、これからより多くの試験を経て、色の追加や量産化など実際の商品への落とし込みに向けて開発が進められる。レゴはこれらのテストに「少なくとも1年間はかかる」とみる。
4億ドルのサステナ投資は「切り離したコスト」
レゴは種類も値段もさまざまだが、素材の変更は消費者の選択肢を狭める結果を産まないのか(写真はレゴでできたスペースシャトル ディスカバリー号)。
撮影:小林優多郎
レゴが掲げる石油由来のレゴブロックの全廃目標まであと9年弱という中、使用済みペットボトルを原料としたブロックの実用化の見通しがあと1年後、というのは明るい見通しにも思える。
ただ、気になる点もある。まずは価格の面だ。
レゴは2020年から、脱炭素を含めたサステナビリティの取り組みに4億ドル(約440億円)の投資をすると発表している。この投資額を賄うために、既存商品の値上げなどの形で消費者が負担するケースもあるのではないか。
これについてブルック氏は「これ(4億ドルの投資)は切り離したコスト」だと断言する。
「素材のコストはすべての方程式の1つの要素だ。
(レゴの商品を構成する)パーツの中には、高価なものも安価なものもある。(持続可能な資源を使ったとしても)価格的な一貫性を持って、レゴブロックを愛用している方々に提供していく」
レゴは「何世代にもわたって継承する」もの
レゴグループ デンマーク本社からオンラインで取材に応じるティム・ブルックス氏。
出典:レゴ
また、「サステナブル(持続可能)」と称するのであれば、商品や資材が循環する形を目指す必要もあるのではないか。
例えば、今回発表になった試作品の原料となる使用済みペットボトルも、本来であればそのまま再生ペットボトルなどに活用し、循環させることも考えらえる。
この点に関してブルック氏は「ブロックのほとんどは再利用できる」とする。
「(新しいブロックも)持続可能なもの、耐久性が高いもの、長年使ってもらえるABS樹脂と同じようなものにしたい。これは、何世代にわたって継承できるもの。自分の子どもができたときに渡せるように、を念頭に置いている。
(レゴを)遊ばない時期になったら家族にプレゼントしたり、慈善団体に寄付するなど、リサイクル(資源として利用する)より(製品として)再利用する選択肢を提供したい」
自身も、自分が遊んだレゴブロックを子どもに譲ったそうだが、「そういったストーリーが重要になってくる」とブルック氏は話す。
年間約10億トンものブロックがサステナブルな素材になり、どのように利用され続けていくのか。まずは1年後、店頭で買えるレゴの商品が今とどう変わっているのか見届けたい。
(文・小林優多郎)